表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/156

【番外編】合理性バカ①:訓練じゃなくてもはや教育

――10年前 陸軍 某訓練施設にて


 真夜中の基地に、突如鳴り響く号令。

 「総員、緊急集合!!」


 仮眠をとっていた新兵たちが、一斉に飛び起きる。

 各自、軍服を整え、駆け足で訓練場へ向かう。

 まだ眠気の抜けない者もいれば、慌ててブーツを履きながら廊下を走る者もいた。


 そんな中——


 「ドンッ!!!」


 鈍い音とともに、何かが地面に落ちた。


 兵士たちが驚いて振り向くと、そこには砂埃の中、淡々と軍服を払う新兵・ジョージの姿があった。


 ……どう見ても、3階から飛び降りたばかりだった。


 ──基地の構造上、訓練場までのルートは「廊下を通って階段を下り、正面玄関を抜ける」のが普通だ。

 だがジョージは、

 「時間短縮のために3階から飛び降り、2階の手すりでワンクッション入れてから着地する」という最適解を選んでいた。


 しかも、

 着地の瞬間、受け身を完璧に決め、衝撃を完全に逃がして立ち上がる。


 「……え?」


 「今、コイツ……?」


 「3階から降りたよな?」


 「しかも、途中で手すりに掴まって減速してる……え、そういう問題?」


 ザッ、と砂埃を蹴りながら、ジョージは何事もなかったかのように訓練場へ向かう。

 周囲の兵士たちが唖然とする中、少し遅れて到着した教官の軍曹が、異変に気づく。


「……待て、お前、どっから来た?」


「3階です」


「は?」


「3階の窓から降りました」


「……」


 軍曹の表情がみるみる険しくなった。

 周囲の兵士たちが、ヤベェぞ、という目でジョージを見る。


「お前は今、何つった?」


「時間短縮のために、3階の窓から直接——」


「直接!?」


「……ではなく、2階の手すりで減速しました」


「そういう問題じゃねぇ!!!」


 軍曹の怒鳴り声が、基地中に響く。

 ジョージは少し首を傾げた。


「ですが、結果として最短でここに到着しました」


「違う! そういうことじゃねぇ!」


 怒声とともに、軍曹がジョージの胸倉を掴む。


「テメェ、人間はな、基本的に3階から飛び降りねぇんだよ!!」


「……でも、2階で減速を——」


「減速じゃねぇ!!!」


 背後で誰かが吹き出す。

「ウガジンのせいで、軍曹が人間の概念を教え始めた……」


 軍曹は頭を抱え、深いため息をついた。


「いいか、ウガジン……お前の頭の中じゃ、“効率”と“合理性”が最優先なのは分かる。だがな……」


「はい」


「軍隊はな、人間が集まる場所なんだよ!!」


「……なるほど」


 ジョージは静かに頷く。


「では、3階から降りるのは許可制ということでしょうか?」


「違う!!!  二度とやるな!!!」


 兵士たちが、必死に笑いをこらえながら肩を震わせる。


 だが、軍曹はそこで終わらなかった。

 ジョージを睨みつけ、呆れたように問いかける。


「で、お前……怪我するとは思わなかったのか?」


 ジョージはしばらく沈黙した。

 少し考えた後、首を傾げながら淡々と答える。


「……着地の計算は完璧でした。」


「クソッ……だからそういう問題じゃねぇんだよ!!!」


「ウガジン、また軍曹の血圧上げたな……」


「もう訓練じゃなくて教育だろこれ……」


 軍曹はこめかみを押さえながら、苛立ち混じりに言い放つ。


「もういい!!  お前は今日から、移動訓練10倍追加だ!!!」


「了解しました」


「……了解しましたじゃねぇ!!  反省しろ!!」


 そのやり取りを遠巻きに見ていたヴィンセントが、腕を組みながらニヤリと笑った。

 「やっぱあいつ、面白ぇな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ