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023:銃を隠す夜、少女はそれに気づこうとしていた


 作業台の上に、研ぎ澄まされたタクティカルナイフが横たわっていた。

 刃に光が反射し、鈍く鋭い輝きを放っている。

 ジョージは布で慎重に拭き取り、最後に刃の感触を指先で確かめた。


 ―― 問題なし。

 ホルスターへ収め、次に銃へと手を伸ばす。


 HK P30SK。


 手入れの行き届いた愛用の銃。

 左利きでも扱える数少ない銃だ。

 スライドを引き、分解。


 バレルを慎重に外し、薄く油を塗り直す。

 細かいパーツの隅々まで点検しながら、静かに作業を進めた。


 その時、微かな気配を感じた。

 ガレージの外、台所へと繋がるドアの向こう側。


 誰かが近づいてくる。

 足音は軽い。躊躇いがちで、それでも確実にこちらに向かっている。


 ジョージは素早くP365を組み上げ、

 滑らかに背中のホルスターへ戻した。


 そして、手元にあった部品を持ち上げる。

 工具を取り、何かをいじっているふりをしながら、


 ドアの方へ意識を向けた。


 ―― コンッ。


 ノックではない。

 小さな音と共に、ドアがわずかに開く。


「……何してんの?」


 ジェシカだった。

 パジャマ姿のまま、ドアの隙間から半分だけ顔を覗かせている。

 長い髪は少し乱れ、眠たそうな目でジョージを見ていた。


 ジョージは視線を落とし、手元の部品を指で転がす。


 「ちょっと修理をな」


 視線は作業台に落としたまま、淡々と応じる。

 ジェシカが眉をひそめたのが、視界の端に映った。


「……ふーん」


 気のない声。だが、そのまま引き返す様子はない。

 ジョージは工具を机に置き、軽く椅子の背にもたれる。


「まだ起きてたのか?」

「……なんか、寝れなくて」


 ドアの前で少し躊躇い、それから足を踏み入れる。

 ジョージの肩がわずかに動く。背中のP365、その重みを確かめるように。


 もし反応が一秒遅ければ、彼女に銃を見られていた。

 彼女は、それをどう思っただろうか。

 ジョージはそんな考えを頭の片隅に追いやった。


 ジェシカは近づくと、作業台の端に座った。


「ねぇ、銃って持っているの?」


 唐突な問い。ジョージの心臓が、わずかに跳ねた。

 だが、ジェシカがただの好奇心から聞いているだけだと察し、ゆっくりと答えた。


「持っているが、好きじゃない」

「じゃ、見せて」

「見せもんじゃない」


 一瞬、沈黙が流れる。


「あのさ……ジョージって私と同じぐらいの身長じゃない」

「ああ、159だ」


 数字だけが返る。迷いも飾りもない。


「ボディーガードってさ……もっと大きい人だと思ってた」

「そういうのもいる」

「でもさ、大きい敵が来たら、どうするの?」

「強さを決めるのは、何も体の大きさだけじゃない」

「ふーん」


 ジェシカはふいに視線を逸らし、横にある黒い鞄に気づく。

 そのまま、何の断りもなく手を伸ばし、中を覗き込もうとした。


 ジョージは動かない。ただ、目が少しだけ細まった。


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