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豊穣祭当日 小嵐 アデリアの透水晶 

来ていただいてありがとうございます!

後半はアデリア視点です



「伯爵家のお方が店頭に立ってお仕事をなさるなんておかしいですわ」


ジェイミー様は怒ったような顔でこちらに近づいて来た。


あ、やっぱりおかしいのかな、こういう事。私も一応伯爵家の人間だものね。ジェイミー様は普段よりおめかししてるみたいでとても可愛らしいワンピースを着ている。ああ、婚約者(イクセル様)を誘いに来たんだわ。

「わたくし、お手紙を差し上げましたでしょう?豊穣祭をご一緒しましょうって」

ジェイミー様が立ち上がったイクセル様に詰め寄っている。私は婚約者を差し置いてイクセル様の近くにいたことを反省した。


「イクセル様、私は仕事に戻ります。もう一人で大丈夫ですから!」

私はそう言って露店に戻り天幕を開けて仕事を再開した。すぐ近くで二人が会話してるのが聞こえてしまう。集まって来たお客様に聞こえてしまうので、できればもう少し離れてほしかったけど、ジェイミー様の勢いが凄くてイクセル様は困惑してるみたい。


「前の事も、今回も仕事があると我が家も俺、いや私もお断りしたはずです。それに私が貴女とご一緒することはあらぬ誤解を招くことがあるでしょう。そういった誤解はお互いの将来の為になりませんので、貴女もお控えください」

「誤解だなんて!!我が子爵家とイクセル様の伯爵家は昔からずっと仲が良かったでしょう?私達だって!」

「それは父親同士の話ですよね。私達にはあまり関係は無かったでしょう」

「……そんな!」

「とにかく、こんな所でするような話じゃない。今日は本当に忙しいのです。どうぞお引き取り下さい」

「…………っもういいですわっ!」



ジェイミー様は走り去っていったみたい。どうしたんだろう?イクセル様、いつもと違って冷たい声だった。実はかなりの仕事の鬼で邪魔をされるのが嫌なのかもしれない。これはさらに気合を入れて売り子をしないと怒られてしまうかも。私は少し怖くなった。


「ごめん、騒がせて。ユーリアさん。断っても断っても分かってもらえなくて。まさかここまで来るなんて思わなかったよ」

露店に戻って来たイクセル様は疲れたようだったけど、声の調子はさっきと同じで優しかったので安心した。

「さあ!午後も頑張ろう!」

「はい。頑張って全部売りましょう!!」

「おお!ユーリアさん頼もしいな!」


それからイクセル様と私は道行く人達にたくさん声をかけて、なんと夕方前には全ての商品を売り切ってしまったのだった。






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私は現在占いを依頼された貴族の屋敷に滞在している。今日は豊穣祭の朝。王都では今夜王家主催の舞踏会が行われる。依頼も無事に済ませ、私も参加の予定だった。そして今日は「渦」の発生予定日だ。私は朝からもう一度確認の意味で今回の「渦」についての占いを行った。しかしこの占いで驚くべき結果が出たのだ。



「これはどういうことなの?「渦」が二つあるですって!?最初から二つあった?近い位置に重なっていた……?いえ、そうではないわ。分裂した?いえ、二つ目が急に現れたのだわ」


こんな事は初めてだけれど、経験が無いからといって起こらない訳ではない。私は冷静になれるように深呼吸を繰り返した。占いが変わった。異常事態が起こったのだ。今回の「渦」の発生が二か所に別れている。もう一か所は「はずれの洞窟」のすぐ近く。



「落ち着いて。幸い二つの「渦」の距離はとても近い。今からならまだ間に合うわ。もう一つの「渦」の出現場所は「はずれの洞窟」に近い墓地の中の古井戸……」

深呼吸をもう一つ。私はベルを鳴らしてメイドを呼んだ。占い結果を書きつけたものを二通用意して城と「はずれの洞窟」へそれぞれ届けてもらった。


「もう「はずれの洞窟」には兵士達や魔術師達が待機しているはず。占いの結果を伝えて、対応してもらえればきっと大丈夫だわ」



私の占いは大きな澄んだ透水晶という石を使う。透水晶の中に浮かんだ光景を読み取ることで様々なことを占うのだ。幼い頃から王家に依頼されて人々にあだなす魔物が出てくる「渦」の場所を予知してきた。その予知は大体当たり、被害を抑えることに成功してきた。もちろん占いが外れて何も起こらないこともあったけれど、何も起こらないのならそれにこしたことはない。


「でもこんな事は本当に初めて。「はずれの洞窟」には人が入れないように結界が張られているし、今日は豊穣祭で墓地に近づく人はいないでしょう。本当に良かったわ」


…………でも何かが引っ掛かる。占い師のカンというものだろうか。……ユーリア……?


嫌な予感がした。私は再び透水晶に問いかけた。もう何千回占ってきたのか分からない、愛しい孫娘について。そして恐ろしい予感が当たってしまった。


「そんな……どうして?」

続けて透水晶に映し出されたユーリアの顔は苦しみに満ちていた。



もうすぐ十六歳の誕生日を迎えるユーリア。昨夜占った時にはいつものように黒い鎖が薄れて、呪いが解けたような未来が視えていた。私があの木犀の森でユーリアと暮らし始めてからは、あの子が生まれた時に視えた恐ろしい未来は回避できていた。何度か強まることはあったけどその都度対処してきた。イクセル・リンテロ―ト様に助けていただいたこともある。


ユーリアの父親がユーリアの望まない縁談を持ち込む様子は無い。私が持ち込ませない。だから気を付けるべき事はユーリアが十六歳になるまでの事だけのはず。それももう今日で終わるはずだった。今日が終わればユーリアに死の影がちらつくことは無くなる。そのはずだったのに……。



「これは……一体どういう事なの?」

愛用の占い道具である透水晶の中に映し出されたのは恐ろしい光景だった。

「そんな……昨夜までは問題が無かったのに……」

透水晶の中にはぐったりとしたユーリアの姿が映っている。


「ユーリア……!」







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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