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8/21

豊穣祭当日 二人で店番

来ていただいてありがとうございます!



「こっちが一本50ディア。 こっちの白い方が100ディア。カカオ掛けのも同じだよ。それとこっちの焼き菓子の詰め合わせが200ディアね。お茶は隣の露店で出すから聞かれたらそう教えてあげて」


私はイクセル様の説明を真剣に聞いた。

「はい。わかりました」

食べ歩き用に用意されたお菓子は一口サイズのケーキが長めの串に刺さったものだった。串焼き肉のケーキ版という感じ。色とりどりでとっても可愛い。テーブルには綺麗なクロスがかけられ、可愛い陶器の入れ物にケーキの刺さった串がたくさん入ってる。さすがは伯爵家の露店。天幕が準備されて日差しを遮ってくれていてとても快適だった。


今日は朝早くに起きて、テアさんに髪をまとめてもらって支度をして来た。豊穣祭だからいつもの黒い服じゃなくて明るめのワインレッド色のワンピースを着せてもらった。テアさんが最初に選んだ服は白に近い薄い色のワンピースだったけど、今日はお仕事だから汚すといけないからってこっちにしてもらった。まとめた髪にも同じ色のリボンをつけてもらった。


「お金はここに。売れたらこの表にチェックを入れて。じゃあ、今日はよろしくね。一緒に頑張ろう!」

説明を終えたイクセル様は一向に露店から出て行かない。

「え?」

「ん?どうかしたの?」

さらにエプロンを付けて腕まくりをした。


「えっと、イクセル様も店番をなさるのですか?」

「当たり前だよ!ユーリアさんに頼んでおいて自分だけ遊んでるわけにはいかないさ」

「そうなのですか……」

ということは二人きり?

「……一緒は嫌だった?」

「いえ!そうではなくて!一緒にお祭りを回る方がいるのだと思ってたので……」

「ああ、友人達はみんな一緒に行く人がいるんだよ。言ったでしょ?みんな予定が入ってて手伝ってもらえないって」

友人、じゃなくてジェイミー様の事なんだけどな……。そう思ったけれど何となく聞くことができなかった。

「そうでしたね」

今日はずっと一緒……。思わず嬉しくなって笑ってしまった。

「今日は頑張ってたくさんケーキを売りますね」

「…………っう、うん」


「あ、あのさ、いつものサラサラストレートの髪型もいいけど、今日みたいに編みこんでまとめてあるのも可愛いね」

「……ありがとうございます」

サラっとこういうことを言えるのは慣れてるから?ジェイミー様の事もいつも褒めてるのかな。そんなことを考えて少し暗い気持ちになってしまった。

「あれ?」

俯いてしまった私をイクセル様は少し不思議そうな顔で覗き込んできた。いけない。今日は頑張ろうって思ってきたんだから、しっかりやらなきゃ。えっと接客の極意は笑顔だったわよね。あとははきはきした大きな声だ。早速いらっしゃったお客様に私はお菓子の説明をしてお買い上げいただいた。うん、いい調子。


私達はどんどんお菓子を売っていった。





「ここは王都の端っこの方だけど、さすがに今日は人でごった返してるね」

イクセル様がふうっと息をついて、汗を服の袖で拭った。石畳の大通りや広場、狭い路地の方も家族連れや恋人達、友人同士のグループが露店や屋台、旅の行商人達の市を行き交ってる。

「みんな楽しそう……」

この地域の特産品のオレンジ色の果物を模した魔術道具のランタンと魔除けでもある銀の八芒星の飾り物が街のあちらこちらに飾ってあって日の光を受けてキラキラ光ってる。

「夜になったら広場には焚火、ランタンには明かりが灯されてとっても幻想的な光景になるよ」

「少しお客様の波が落ち着きましたね」

「お昼時だから、食事の店とか露店の方に客が行ってるんだね。俺達も食事にしようか」


露店に布の幕を下ろして、私達は隣の露店でお茶を貰って店の裏側の噴水の縁に隣り合って座った。テアさんが用意してくれたのはバスケットに入ったサンドイッチと果物だった。イクセル様が近くの屋台で串焼きの肉を買ってきてくれて、ちょっとしたピクニックみたいになった。サンドイッチは一人ではとても食べきれない量が入っていたから、イクセル様にも食べてもらった。テアさんは有能な人だからこういう事も想定してたのかもしれない。


「うん。ユーリアさんの家のサンドイッチ美味しいね」

「ありがとうございます。テアさんは料理も上手だし、何でもできる凄い人なんです!」

たくさん働いた後のご飯は美味しい。

「ユーリアさんが頑張ってくれてるおかげで売り上げが上がって助かるよ。今日はいつもよりよく笑ってるね」

「テアさんに接客の極意を教わって練習してきました」

「極意?」

「はい。笑顔とはきはきした大きな声です!」

「それで今日はいつもより元気なんだ」

「はい。午後からも頑張ります」

私、今日は自然に笑えてる気がする。なんだかんだで結構楽しいのかもしれない。売り子するの。街が賑やかなのも見ていてこんなに心が湧きたつものだって思ってなかった。


「…………」

「イクセル様?」

急に黙ってしまったイクセル様の顔を見上げたら、何故か私をじっと見ていた。その顔がとても優しい笑顔だったので私も見つめ返してしまっていた。ふいに右手に温かな感触。見るとイクセル様の手が私の手に重なってる。カァッと顔に熱が上がって、目を逸らしてしまった。なに?なに?なんで?


「ユーリアさんはいつも一生懸命だよね。俺はそんなところが……」

イクセル様の声が近づいた。驚いてイクセル様の方を見るとヘイゼルの瞳が近い。綺麗な色……。



「イクセル様っ!!こんな所で何をしていらっしゃるの?!」


ジェイミー様が私達の前に現れた。



幸せな楽しい時間は長くは続かないものね。私は夢見心地の時間から急に現実に引き戻されてしまった。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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