移り変わる季節
来ていただいてありがとうございます!
「ユーリアさん!お疲れ様!」
イクセル様はほぼ毎日仕事終わりにお菓子を持って森の屋敷に会いに来てくれる。
「今日のお菓子も美味しいです」
「だろ?愛がたくさんこもってるからね」
「イクセル様は毎日お菓子作りの腕が上がっててすごいですね」
結局私は王都の高等学園に入学するまではずっと木犀の森で過ごすことになった。イクセル様と一緒にいたかったのもあるけれど、私の占いが良く当たると評判になっていて予約のお客様がたくさん待っていてくださっていたから。あの「闇狼」と「渦」の事件でしばらくお休みをしていたけど、おばあ様が私の占いを解禁してくれたので、再開したら次々とお客様がいらっしゃってお店を閉められなくなってしまった。
「悔しいけれどジェイミー・ペリーは表立っては罰を受けることはなさそうだ」
イクセル様は悔しそうにそう言った。私もおばあ様やお父様から話を聞いていた。ミオン君の持ってたカフスボタンと私の証言でジェイミー様の侍従の男の人が捕まったけど、ジェイミー様は最後まで自分の指示だと認めなかった。
「侍従は自分を使い捨てにしたジェイミーを酷く恨んでいたよ」
ジェイミー様はイクセル様にこれ以上つきまとわないように、遠方へ嫁がされることになったそう。ジェイミー様はイクセル様を好きだっただけなのに。私のせいでもあるのかもしれない。そう言ったら、テアさんが「お嬢様のせいではありません!それにいくらリンテロート様を好きだからといってお嬢様に危害を加えて言い理由にはなりません!」って怒ってくれた。それでもあの時に私がもう少し冷静で、ちゃんと考える事ができていたらと思わずにはいられなかった。
初雪が降った日、イクセル様が持って来てくれたお菓子は綿雪タルトという真っ白なタルトだった。イクセル様のお菓子は見た目がとてもかわいい。そしてかわいいだけじゃなくて、とても美味しい。
「イクセル様が作るお菓子を食べると、とても幸せな気持ちになります」
「…………嬉しいな。俺はユーリアさんが美味しそうに食べてくれると、幸せな気持ちになるよ」
こうやってイクセル様と話しながら笑い合う幸せな時間。二人だけの時間がとても嬉しい。このままこんな時間が続けばいいのにな……。
「王都へ行くのが不安?」
「え?」
「そんな顔してる」
私は思わず頬を押えた。どうしてわかっちゃうの?
「……私、皆さんと同じようにちゃんとできるでしょうか」
「…………うん。ユーリアさんはできるよ。ミオン達や占いのお客達ともちゃんと話したりしてるし」
「そうでしょうか」
ミオン君は私が「闇狼」と「渦」の事件に巻き込んでしまった男の子。あれから妹さんやお友達と一緒に遊びに来てくれるようになったの。お話をしたり占いをしたり一緒にお菓子を食べたり本を読んだりしてる。
「この前はメイジ―だっけ?ミオンの妹に占いを教えたんだって?」
「はい。私のカードに興味があったみたいなので」
「ミオンがすごく楽しかったって教えてくれたよ」
「良かった」
「ね?だからユーリアさんは大丈夫だよ!それに俺もいるんだし!」
イクセル様は優しい。頼りすぎ、甘えすぎの自覚はある。それでも。
「はい。一番心強いです。イクセル様ありがとう。……大好きです」
「………………っ」
イクセル様がテーブルに突っ伏してしまった。ガンって大きな音が。今、顔を強打しなかった?!
「イ、イクセル様っ?大丈夫ですか?」
私はテーブルを回ってイクセル様に近づいた。イクセル様の肩に手を置いた、ううん置こうとしたら手首を掴まれた。
「ダメだよ、ユーリア。可愛すぎる」
イクセル様が立ち上がった。顔が近い……。思わず一歩後退ってしまう。イクセル様が一歩近づく。あれ?こんなの前にもあったような……。閉じられた窓まで下がってしまった。
「俺も好きだよ。ユーリア」
あったかい。額に落とされる口付け。思っていたよりずっと体が冷えてたみたい。抱きしめてくれるイクセル様の体温が心地いい。
窓の外ではちらちらと小雪が舞ってる。
そっと口付けを交わしてから、暖炉の前に二人で座ってたくさん話をした。
「ユーリア、制服似合ってる」
十六歳の春、私とイクセル様は一緒に王都の高等学園へ入学した。
「イクセル様も素敵です!」
王都の高等学園はシャディアス王国の各地にあるディアス学園を卒業した生徒が更に上の勉強をするために設立された学園だ。主に貴族の子女が通っていて、将来の王国を支える者達の交流の場になっている。ディアス学園を卒業後すぐに進学するのが普通だけど、私達みたいに後から入学する人達もいて、卒業前の成績が特段に悪くなければ入学を許可してもらえる。
「ディアス学園には制服が無かったから新鮮だね」
「白い制服……明るくて眩しいです」
「あはは、ユーリアは面白いな。ああ、ユーリアは白も似合うね。やっぱりこの前の店であのドレスを買おうよ」
「…………濃い色のドレスの方が落ち着くのですが……。それについ最近ドレスを贈っていただいたばかりですし」
「ダーメ!だって俺がユーリアに着て欲しいんだから、頑張って着てもらわないとね」
イクセル様はそう言って片目を瞑った。
入学式の後、私とイクセル様は学園の近くのカフェに寄ってお茶を飲みながら話をした。ディアス学園では授業が終わると真っ直ぐに森のお屋敷に帰るだけだったから、こういうのはとても新鮮……!
「クラスが分かれてしまったから心配だな」
「ちょっと心細いけど頑張ります。お父様から色々な方々と交流を持つようにって言われましたので」
そう。今まであまり他の人と深く関わって来なかった分、私はこれからそれを取り戻さなくちゃいけない。まだどうしたらいいか分からないけど、学んでいかなくちゃ。
「交流……か」
「どうかなさったのですか?」
イクセル様が難しい顔をしてる。
「友達を作るのは大事だけど、あんまり俺以外の男とは親しくしないでね」
イクセル様、笑ってるけど目が怖い……?
「そんなに心配なさらなくても大丈夫だと思いますよ?」
私と友達になってくれる女の子がいてくれるかどうか不安なくらいだから。
「…………自覚が無いのが一番困るんだけどなぁ……」
イクセル様はそう言いながら頭をかいた。
「まあいいや。他の奴に勝手なことはさせないし、全力で守るから」
「おばあ様の占いでも、もう私は大丈夫だという結果がで出ていますし、危険なことは無いと思います」
そう!あれからおばあ様の占いは私の命の危機を伝えることは無くなった。『もう大丈夫でしょう』おばあ様は心底安心したように言ってくれた。おばあ様や家族のみんなにはとても心配をかけてしまったから、これからは恩返しができるようになりたい。
「……………………まあ、いいや」
イクセル様はなにか諦めたように呟いた。
それから私は三年間の学園生活をイクセル様と一緒に楽しく過ごすことが出来た。同学年に占いに来てくれたお客様が何人かいて、そこからの縁で仲の良いお友達もできて嬉しかった。
「やっと、本当に俺だけのユーリアだ」
卒業後の初めての秋、木犀の花が咲く頃にイクセル様と私は結婚式を挙げた。王国からお許しを得て、あの木犀の森の小さなお屋敷に住めることになった。イクセル様は王都でお菓子店を、私はここで占いのお店をそれぞれやっていくことになる。そしてなんとあのテアさんがまたここで働いてくれることになった。イクセル様が声をかけてくれてテアさんも快諾してくれたそう。
「イクセル様、これからもずっと一緒ね。嬉しい……」
お友達も遊びに来てくれて、占いのお客様もたくさん訪れてくれて、にぎやかになった木犀の森の小さなお屋敷。イクセル様と私の家。
やがて家族も増えてもっともっとにぎやかになっていく。幸せな時間を紡ぎながら。
終
ここまでお読みいただいてありがとうございました!
この物語はここで完結となります
お読みいただいた皆様が少しでも楽しい時間を過ごせていただけていたら幸せです
ありがとうございました!




