本物の魔女?
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「どうしたの?テアさん」
イクセル様と私はドアから顔を出して、家の入り口の方を見た。何故かテアさんとジェイミー様が言い争ってる。
「え?ジェイミー様?」
「何故彼女がここに?」
イクセル様も訝し気な表情だ。
「ジェイミー様は以前にお客様として占いをしにいらしたことがあるんです」
「……そう」
ジェイミー様がテアさんを押しのけてこちらへやって来た。テアさんはその拍子に壁に背中をぶつけてしまった。
「テアさんっ!」
テアさんは大丈夫だという風に私に手を振って笑ってくれた。
「イクセル様!やっぱりまだここにらしたのね?ずっと待ってたのですけれど、出てこられなかったから……。お前は嘘つきね。占いはちゃんとやってるんじゃない!」
ジェイミー様は振り返ってテアさんを睨んだ。
「イクセル様ったら、占いがお好きなんて知りませんでしたわ。こちらにいらっしゃるんでしたら、わたくしも誘ってくださればいいのに!」
ジェイミー様はイクセル様の腕に触れようとしたけど、その手はかわされてしまった。
「みだりに婚約者のいる男に触れない方がいいですよ。ペリー子爵令嬢」
イクセル様は厳しい表情でジェイミー様を突き放した。
「婚約者?イクセル様が婚約なんてわたくし聞いてませんわ!わたくしの方にはそんなお話はまだ来てないですし……。わたくしとイクセル様の……」
「前にも申し上げましたが、私と貴女は父が友人同士だというだけの関係です」
イクセル様は私の肩をそっと抱き寄せ、優しく微笑んだ。
「イクセル様」
「私はこちらにいらっしゃるユーリア嬢と婚約をさせていただきました」
「はあ?伯爵家の方が平民の娘なんかと?あり得ませんわ!」
ジェイミー様は嘲るように私を見て笑った。
「平民?ユーリアさんはユーティライネン伯爵家のご令嬢ですよ」
イクセル様は眉をひそめた。
「それにたとえユーリアさんが貴族令嬢じゃなかったとしてもその態度や言葉遣いはいただけないな」
「は、伯爵家?しかもユーティライネン家ですって?古くからの……、あの由緒ある伯爵家の?」
ジェイミー様は狼狽えて少し後退った。
「う、嘘よ!そんな人、方がどうしてこんな所に……」
ジェイミー様の顔色が悪い。私は騙していたことに強い罪悪感を感じた。
「ごめんなさい。その、少し事情があって、貴族だということは隠してここで暮らしていたんです。ロセアンは父方の祖母の姓なんです」
占いの事を説明した方がいいかしら。でもそれにはおばあ様の事も説明しないといけないし、どうしよう。
「一体何の騒ぎですか?」
凛とした声が聞こえて、出かけていたおばあ様が帰って来た。
「お帰りなさいませ、アデリア様」
「テア、これは何事なのです?」
おばあ様は私達を見てため息をついた。
「テア、お茶の用意を。ご招待もしておらず、お約束も無いとはいえお客様のようですしね」
おばあ様はジェイミー様を冷たく見下ろした。おばあ様は女性にしては背が高く、あまり表情を崩さない人なので最初に会った時には少し怖く感じる人もいると思う。今日のおばあ様も黒いドレスを着てるから、ミオン君がいたら、「本物の魔女だ」って言われてしまいそう。ジェイミー様もちょっと怖かったみたいで、さっきよりも更に顔色が悪くなってる。
「いえ、わたくしはお暇いたしますわ。今日は占いはお休みだそうなので。イクセル様、お話はまた後日改めて。では失礼いたしますわ」
ジェイミー様は明らかな作り笑いを浮かべると屋敷を出て行こうとした。
「はぁ……俺には話すことなんて何も無いんだけどな……」
イクセル様は疲れたように呟いて私に頭を少し預けた。ジェイミー様は悔しそうな顔をしたけど、何も言わなかった。
「お待ちください」
おばあ様の呼びかけにジェイミー様はビクッと立ち止まった。
「貴女はペリー子爵家のジェイミー様ですね。貴女の家の方にはお聞きしたいことがございます。後日お話をお聞きしに家の者達がお伺いするかと思いますが、その時はどうぞよろしくお願いいたします」
おばあ様はジェイミー様に向かって丁寧に頭を下げた。でも、次に顔を上げた時のおばあ様の目には明らかな怒りがあった。
「……ひっ、し、失礼いたします」
小さな悲鳴を上げて、今度こそジェイミー様は外に出て行ってしまった。
私はテアさんに駆け寄った。
「テアさん、本当に大丈夫?」
テアさんは押しのけられた時に壁に体を打ちつけていたから心配だった。
「平気ですよ。力自体は弱くて、私がちょっとよろけてしまっただけですから」
「良かった……」
「アデリア様もお帰りになられましたし、お茶を淹れ直しましょうね」
「そうしてもらえるかしら?テア。まあまあ、お客様を立たせたままで申し訳ありません。リンテロート様」
おばあ様は打って変わって優しい微笑を浮かべた。
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