襲来
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前半イクセル視点です
夕暮れ迫る噴水広場
俺は隣の店で話を聞いたが、ユーリアさんとミオンはしばらく噴水のふちに座って話をしていたようだ。その後は店が忙しくなってしまい、気が付くと二人の姿は無かったそうだ。
「ユーリアさん、一体どこへ……」
テアさんと手分けして噴水広場を探した。女の子と小さな子どもだけだ。そんなに遠くへは行っていないはずだ。
「イクセル様!見つけましたわ!」
ユーリアさんとミオンを探していると、人ごみの中からジェイミー・ペリー子爵令嬢がこちらへ向かって走って来た。
「良かったですわ!もう広場のお店はおしまいですわよね?」
こんな時に厄介な……。
「今は忙しいので。失礼します」
「ダメよ!待ってくださいませ!あの子達はいないのでしょう?きっともう家に帰ったのでしょうし、今度はわたくしとお祭りを回りましょうよ」
腕を掴もうとしてきた手をかわしてその場を去ろうとしたが、何かが引っかかった。
「あの子達?誰と誰のことですか?」
「え?あ、あの子、ですわ。ユーリア、さんのことです。もちろん!」
分かりやすく狼狽えている。彼女はユーリアさんがミオンと一緒にいたことを間違いなく知っている。確証はないが、確信があった。
「ユーリアさんがどこへ行ったのか知ってるのか?!」
俺は思わずジェイミー・ペリー子爵令嬢に詰め寄った。
「いやだ、イクセル様、怖いですわ。そんなこと知りません。あんな子どうでもいいじゃないですか。仕事は終わったのでしょう?今日はもう戻ってきませんわよ」
駄目だ。何か知ってるようだが、きっと言わない。この娘に関わってる場合じゃない。
「もう結構です」
「あ!イクセル様っ?!」
俺はジェイミー・ペリーを振り切って、リンテ菓子店の方へ走った。何かがあってリンテ菓子店へ向かって入れ違いになったのかもしれないと思ったからだ。
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「なんだか外が騒がしいね、お姉ちゃん」
「そうね、人が走ってるみたい。それと獣の声?でも暗い嵐の中墓地の中で走り回る人がいるかしら?」
たぶんそんなことはないだろうな。だとしたら、ここは墓地だし幽霊……とか?ぶるっと体が震えた。
「思い出した。墓地の七不思議にそんなのがあったよ。夜な夜な墓地を飛び回る青い炎とか、古井戸から聞こえる闇狼のなき声とか、新月の夜に死者が……」
「待って待って!怖い話は苦手なの」
「えー、つまんないの」
こんな所でそんな話ができるミオン君って凄い……。
さっきから更に暗くなってきたから、恐くなって私はランプに明かりを入れた。
「魔女なのに怖いの苦手なんだ」
ミオン君が楽しそうにからかってくる。
「だから、私は魔女じゃなくて占い師なの。おばあ様も凄い占い師で、いつも黒くて素敵なドレスを着てるから、私もそうしてるの」
「あ、そうだっけ!でも今日は黒い服じゃないね。お兄ちゃんとデートだから?」
「ち、違うわ!今日はお店を手伝う為に来たの」
「恋人同士じゃ無いの?」
「いいえ。イクセル様には婚約者がいらっしゃるもの。たぶん」
「ふーん、そうなんだ」
ミオンは意外そうな顔をしてる。怖いのと不安なのとを紛らわせようとしてなるべく明るく話を続けた。
ザッザッザッザッ
足音が近づいてくる。
私とミオン君は息を呑んで身を寄せ合った。
「やっぱり!灯りが漏れてるぞ」
「まさか……」
ドンドン、ドンドンとドアを叩く音がする。
「誰かいますか?」
男の人の、人間の声だ!私とミオン君は顔を見合わせた。
「あいつの声じゃないみたいだ」
私は頷いてドアに近づいた。
「助けて下さい!閉じ込められたんです!」
私はなるべく大きな声で外へ呼びかけた。
「なんてことだ!人がいるぞ!」
「何でこんな所に墓石が……手伝え!」
ドアを破って助けてくれたのは、二人の兵士さん達だった。
「良かったわ……」
「やっと帰れる……」
私とミオン君は安堵のため息をついた。
「事情は後で伺います。今はとにかく早く避難してください!」
「ここは危険です。急いで!」
危険?確かに墓地は怖い場所だけど、危険ってどういうことだろう?
「早く街の方へ」
兵士さん達に促されるまま、私とミオン君は森の方へ向かった。ううん、向かおうとしたんだ。
グルルルルッ
生き物の息づかい?
そう思った瞬間、目の前に夜の闇よりも真っ黒な、大きな獣が立ち塞がった。
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