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14/21

焦燥

来ていただいてありがとうございます!

前半イクセル視点です



リンテ菓子店はまだお客で溢れかえっていた。ありがたいことだ。


俺は店の裏でミオンの妹の為の菓子の詰め合わせを準備していた。そこへ慌てた様子で父であるリンテロート伯爵が入って来たんだ。

「良かった。イクセルここにいたか」

「父上?どうかなさったのですか?今日は王城で舞踏会では?」

「予定が変わったのだ。新たな予知が下りた。「渦」の発生個所が増えた」

「は?増えた?」

「ああ、今朝予知されたそうだ。「はずれの洞窟」に近い墓地の古井戸だそうだ。人手が足りないらしくて領地が近いリンテロート(うち)からも人を出して欲しいとの要請だ。こんな時に悪いがお前も警備隊の指揮を執ってくれ」

「でも、うちの警備隊の中には力の強い魔術師はいないのですが」


リンテロート伯爵家では警備隊を組織している。俺も訓練に参加することもある。普段から訓練をしているから、人間相手なら何とかなるが魔物相手の戦闘はしたことがない。

「ああ、分かってる。とにかく洞窟の方の対処が終わり次第、井戸の方へも来てくれる。それまで街へ魔物が出て行かないように押さえて欲しいそうだ」


「……承知いたしました、父上」

今年もユーリアさんと焚き火を見るのは無理そうだ。でも被害を出すわけにもいかない。せっかくみんな祭りを楽しんでるんだから。俺は自分にそう言い聞かせた。

「ちょっと人を待たせてるので行ってきます。すぐ戻りますので」

俺はお菓子を持って噴水広場に戻った。





「あれ?ユーリアさんどこだ?」

ミオンも見当たらない。店の周りや噴水の周りを探すけれど、どこにもいない。


「帰ったのか……?いやユーリアさんは黙って帰ってしまうような子じゃない」


俺は焦っていた。「渦」が発生するという古井戸には最低限の兵士しかいないと聞いた。どうも今回の「はぐれの洞窟」の「渦」の方が深いというか強いらしい。良く分からないが、封印に時間がかかってるということだ。


「ユーリアお嬢様っ!どこですかっ?!」

メイド服を着た背の高いスラッとした女性が広場に走って来た。酷く慌ててるみたいで、銀の髪が乱れて汗をかいてる。

「もしかしてロセアン家の方ですか?俺、いや私はイクセル・リンテロートと申します。本日はユーリア様にお手伝いを……」

「リンテロート様!お嬢様はっ?ユーリア様はここにいらっしゃるのですよね?!」

「お、落ち着いて下さい。実はここで待っててもらってるはずだったんですが、姿が見えなくて」

「そんなっ!お嬢様、どこに……」


テアと名乗ったその人から事情を聞いた俺は目の前が真っ暗になった。

「……ユーリアさん……!」



今回の「渦」の発生場所は一般の人々に知らされてなかった。いたずらにパニックになったり、面白半分で近づく人達が出てこないように。そもそも「外れの洞窟」は人里から遠く離れた荒野にあったし、魔術師による結界も張られ、その周囲も兵士達が固めている。


「まさか「渦」が二つも同時に出現するなんて……」

早く墓地の古井戸へ向かわなければならなかった。墓地であれば、誰かが近づく可能性は皆無じゃない。けど。

「ユーリアさん!」

無理だ。ユーリアさんの命の危険があるなんて聞いてしまっては……


「どこに行ったんだ!ユーリア、ミオン……」









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「暗いね。ミオン君、大丈夫?怖くない?」

「うん。僕男だし」

墓地の用具小屋の木の壁の隙間から微かに弱い光が入って来る。でもそれだけで、もう夕方だからこれからは明かりもない小屋の中は真っ暗になってしまうだろう。ドアは押しても引いても開かない。壁も調べたけど出られそうもない。体当たりも無理だった。


「どうしよう。せめて何か明かりを……」

小屋の隅に大きな木箱がある。探すと中から小さな古いランプが出てきた。

「良かった!油も入ってる!」

火をつける道具も一緒にあったから、もうちょっと暗くなったらこれで明かりをつけよう。




「ねえ、お姉ちゃん。これ見てよ」

そう言ってミオン君が見せてくれたのは銀のカフスボタンだった」

「これ、リンテロート伯爵家の紋章じゃないわ……」

「投げられる時にあいつの袖掴んだら取れたんだよ」

「これは……」

たぶんペリー子爵家の簡易的な紋章だったと思う。確証はないけれど。でもどうして……?もしかしたらジェイミー様が……?



急にカタカタカタカタッと小屋の壁が揺れた。風が強くなってきたみたい。そのうちにバタバタバタッっていう叩きつけるような音も聞こえてきた。

「雨音?」

遠くに雷の音も聞こえ始めた。嵐が来たのかもしれない。前の私の占いが当たった?暗さに加えて嵐まで……。


「母さんもメイジ―も心配してるかな……」

「ごめんね。こんな目に合ってるのはたぶん私のせいだと思う……」

「お姉ちゃんは悪くないよ。悪いのはあの男!」

「ありがとう。ミオン君」

ミオン君は優しい子だわ。イクセル様みたい。

「きっとあのお兄ちゃんが探しに来てくれるよ」

「……そうね」

イクセル様……大丈夫かしら……


用具小屋の道具入れの大きな箱の上にミオン君と寄り添って座り、ミオン君の肩を抱きよせた。不安がどんどん大きくなってくる。でも私よりミオン君の方がずっと怖いはずだわ。私はお腹にグッと力を入れた。





遠くの方で獣の咆哮と人間の声が響いたような気がした。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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