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暗い森

来ていただいてありがとうございます!



目の前には暗い森



「あの、本当にこっちですか?」


私はミオン君の手を引いて街はずれを歩きながら、迎えに来たという男の人に尋ねた。その男の人はリンテロート伯爵家の紋章が入ったバッチを見せてくれ、私について来るように言った。ミオン君には広場で待っててもらおうと思ったんだけど、「ついて行った方が早いから」と押し切られてしまった。この辺りにはもう歩いてる人もあまりいない。


「ええ、こちらです」

男の人はそう答えただけで振り向かない。


さっきからポケットに入れた贈り物の護り石が熱いみたい……?


いくつかの違和感を覚えながらも、さっきの水鏡に映ったイクセル様の苦しそうな顔が頭から離れなくて歩みを止められない。


「あの!こっちの方にはもう墓地しかないですよね?」

暗い森を抜けると墓地。そのさらにずっと先には「はずれの洞窟」があるだけだ。私はもう一度尋ねた。


最初、男の人はリンテ菓子店へ向かうのかと思ってたけれど、方向的にイクセル様のお屋敷の方へ向かうようだった。でもそうでは無かった。冷静では無かったとはいえ、おかしいと思い始めたのは墓地を囲む森へ入ってから。木犀の森は明るくて清浄な空気が漂っているけれど、この森はどんよりと暗い雰囲気で何だか怖かった。さっきまでとてもいい天気だったのに空も曇り始めた。


「お姉ちゃん、おかしくない?こんな所にお菓子は無いと思うよ?」

ミオン君が私にそっとささやいた。

「そうね」

よく考えたら、この人が本当にリンテロート伯爵家の人だっていう保証は何もない。紋章は見せてもらったし、着てる洋服なんかはかなり上質なものに見えるし、物腰も柔らかい。でも……。


「あの!やっぱり私達、街へ戻ります」

そう言って引き返そうとしたら、急に手が軽くなった。

「え?」

ミオン君が男に口を塞がれて抱きかかえられてる?

「ミオン君?ミオン君に何をするんですか?!」

私は走り出した男を追いかけた。


「待って!」

走るのは苦手……。すぐに息が切れてしまう。でも何とかついて行った。男は無言で走り、森を抜けて墓地の入り口にある用具小屋にミオン君を入れてドアを閉めてどこかへ走り去ってしまった。

「ミオン君!大丈夫?怪我は無い?」

「うん。ちょっとびっくりしただけ……あれ?」


バタンと私の後ろで音がした。次いで鍵の閉まる音も。

「何?」

ドアを開けようとするけど、ドアは開かない。

「そんな……閉じ込められた?」

私はドアを叩いた。けど外からは何も聞こえない。いくら占いで怖いものが見えたからって、私は迂闊だった。


「知らない人について行ってはいけないってテアさんにもあれほど言われてたのに……」


私、何やってるんだろう。ミオン君まで巻き込んで……。暗い小屋の中私はものすごく後悔に苛まれた。








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上等な服を着た男の呟き



男はドアに鍵をかけて、さらにドアの前に墓石(未使用)を置いた。

「焚き火が始まるまでここでおとなしくしていてください。夜になったら出してあげますから」

小屋の中の娘と子どもには聞こえていないだろうが、男は言い訳するように呟いた。


「お嬢様の我儘にも困ったものだ。どんな恨みを買ったのかは知らないがあのお嬢さんも可哀そうに」

墓地の用具小屋を背に街へと戻る道を歩く。


「チャンスが来てしまったから仕方が無いな。はあ、誘拐なんて……。まあ相手は平民だし、万が一の時はお嬢様がもみ消してくれるだろう」

男は首元のタイを少し緩めた。動揺してたためかその手首のカフスボタンが一つ取れていることには気が付かなかった。


「さあ、首尾よく事が運んだとお嬢様に報告しなければ。それにしても今日は兵士がうろついているな。何かあったのか?」

男は木の陰に隠れて兵士をやり過ごし、そっと豊穣祭で賑わう街へ帰った。






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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