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豊穣祭 夕方

来ていただいてありがとうございます!


「では、私はこれで失礼します」

「え?!」


お菓子も全て売り切って、片付けも済ませたからもう私はお役御免だと思った。


「お借りしたエプロンはお洗濯をしてもらって、今度お店にお返しにいきますね」

私はお昼ご飯が入っていたバスケットに外したエプロンをしまおうとした。その手をイクセル様が止めた。

「いいよ!そんなのはうちでやるから!」

「でも……」

イクセル様は私の手からエプロンを取り上げてしまった。

「イクセル様?」

それなのに、私の手首を掴んだ手を離してくれない。


「あ、もしかしてまだお仕事がありましたか?それならすみません」

お茶を売ってる店の方はまだ営業をしてるし、そちらを手伝った方が良いのかな。

「い、いやっそうじゃなくて……っ!えっと……ああ、もう!」

「?」

「これ。今日のお礼。お給料は後で屋敷に届けさせるけど」

そう言ってイクセル様がテーブルの下から出してきたのはお菓子の詰め合わせとリボンがかけられた小さな小箱だった。

「これは……?」

「豊穣祭の贈り物」

「え?でも確か豊穣祭の贈り物は家族とか恋人に……」

「い、今は!友人同士で贈ったりもする!……かもしれない」

イクセル様は呟きながらそっぽを向いてしまった。

「そうなのですか?」

私はおばあ様やテアさんにしか贈ったことが無いので良く分からなかった。二人の分はもう前もって準備して渡してある。

「ああ、俺の馬鹿……」


小さな声で呟く声が聞こえたけれど、私はちょっと困ってしまってパニック状態だった。だって私はイクセル様に何も用意してない。どうしよう……。

「ごめんなさい。私、知らなくて……。何も準備して無くて……。あ、そうだわ!今日って色々なものを売ってるお店がたくさんあるんですよね?今からちょっと見てきます!後でお店の方へ届けますね!」

「待って!!」

駆けだそうとした私の手首をまたイクセル様が掴んだ。

「そういうことなら、一緒に回らない?俺も色々見て回りたいし」

嬉しそうに言うイクセル様のヘイゼルの瞳はキラキラ輝いてる。

「でも、イクセル様は他に一緒に行く方が……」

「いない!いないから!店、思ったより早く終わったし。それにこんな混雑した街を女の子一人で歩かせられないよ!」

「でも……」


ジェイミー様に悪いのでは、そう思ったけれど、よく考えたら家族以外の男の人に贈り物なんて選んだことがない。イクセル様がどんなものを好きかなんてさっぱりだ。お店を見て回っていたら分かるかもしれない。それに、私にとってはイクセル様と一緒にいられる最後の機会になる。できればもう少し一緒にいたいって気持ちが勝ってしまった。

「では、お願いします」

私の口からはそんな言葉がついて出てしまっていた。

「よっしゃっ!」

イクセル様が小さく呟いて、拳を握ってる?

「あはは!なんでもない!さあ!行こう!俺からの贈り物は隣の店で預かっててもらおう。一回りしたらここへ戻ってくればいい!はぐれるといけないから……」

イクセル様と私は手を繋いで豊穣祭の街を進んでいった。


イクセル様の手、大きいな。婚約者のいる男の人と手を繋いでいいのかな……。でも私が経験したことのない人の波だったから、正直少し怖かった。イクセル様は慣れてるのか、人の波に逆らわずに上手に行きたい方へ連れて行ってくれる。おかげで私は豊穣祭をとても楽しむことが出来た。


「ユーリアさん、喉乾かない?あっちに飲み物の屋台があるからちょっと買ってくるよ。ここで待ってて!」

「はい。ありがとうございます」

私はイクセル様が離れた間に、さっき見ていた装飾品のお店で縞模様の深い常緑樹の葉のような色の守り石のブレスレットを買った。贈り物用にラッピングもしてもらった。あまりお金を持っていなかったので高価なものではないけれど、とても力の強い石でなんだかとても必要だと感じたのだ。


「ユーリアさん、はいどうぞ!」

イクセル様が飲み物が入った木のコップを渡してくれた。中にはいくつかの果物を絞ってつくったジュースが入っていた。

「ありがとうございます。お金を」

「いいよ!俺の驕り!」

「でも……」

「いいの!ユーリアさんのおかげで楽しいし、お礼も兼ねてるから」

「私もイクセル様のおかげで色々な物を見られて楽しいです」

我ながら情けないけど、あまりにも人が多くてイクセル様が一緒じゃ無かったら、諦めて森へ帰ってたと思う。

「……そう言ってもらえて嬉しいよ。今日はとびきりの贈り物をもらった気分だ」

目を細めて笑うイクセル様はとても優しい顔をしてて思わず見とれてしまう。


あの時もそうだった。入学したての頃、何故か男の子達に取り囲まれてからかわれた私を助けてくれた時。あの時もこんな笑顔をしてくれたっけ。


イクセル様と私は人込みを避けて路地に入り、小さな十字路に置かれたベンチに座って飲み物を飲んだ。

「そうだ。これを」

私はさっき買った贈り物をイクセル様に渡そうと思った。

「それ、俺に?あ、ちょっと待って!どうせなら交換しよう?」

「え?」

「市は大体見て回ったし、もうすぐ焚き火が始まる。店に戻ってお互い贈り物を交換しよう!うん。それがいい」

「え、あの」

私が返事をする前に、イクセル様はまた私の手を繋いでお店のある広場へ向かって歩き出した。






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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