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ジェイミー

来ていただいてありがとうございます!

ジェイミー視点です



「どうしてあの二人が一緒にいるのよ!わたくしの誘いは断ったのに」


ジェイミー・ペリー子爵令嬢は忌々し気に広場の片隅の露店を見つめた。視線の先ではイクセルとあのユーリアが楽し気にお菓子を売っている。二人、特にユーリアは学園に通っていたころとは違ってとびきりの笑顔で接客している。


「なにあの子、まるで別人じゃない……」


呆れたように呟くジェイミー。ユーリアの容姿が整っているのは気づいていたが、笑うとあんなにも魅力的になることをジェイミーは知らなかった。


「そんなことより、イクセル様よ。あんな笑顔わたくし達には見せないのに」


イクセルは基本誰にでも明るく笑顔で接してくれる。けれど今ユーリアに見せてる表情は優しく愛おしさに満ちた笑顔だった。ジェイミーはその事に気づいていたが、認めることはしなかった。


「許さないんだから。わたくしの誘いよりあんな陰気な平民娘を選ぶなんて。わたくしにだって売り子くらいはできるのに」


ジェイミーは綺麗に整えられた爪を噛んだ。やめろと母から言われていたけれど、イライラしているジェイミーは自分がそうしてることにも気が付かない。


「まあ、でもわたくしを働かせる訳にはいかないと気を遣ってくださったのかも」


ジェイミーはそう思い直してとりあえずリンテ菓子店へ向かった。自分が来店したと分かればイクセルは大急ぎで戻ってくるはずと考えたのだった。


「そうよ!イクセル様にわたくしの方へ来てもらうわ。そうすればあのユーリアはひとりでてんてこ舞いするわよね。いい気味。せいぜい困ればいいんだわ」








「何ですって?!わたくしが来たのにイクセル様を呼びに行けないですって?今日はそう命じられている?」


リンテ菓子店はやはり客でごった返していた。店主を呼び出して話をするとイクセルを呼ぶことは出来ないと断られてしまった。

「イクセル様は今日、露店の方に集中なさるので御用でしたら直接露店の方へ行ってください」

と言って、店主は客の対応に戻ってしまった。


「なんて失礼なの?!お父様に言いつけてあの店主は解雇してやるわ!わたくしのお父様とリンテロート伯爵様は仲が良いのよ!見てなさい!」


リンテ菓子店は豊穣祭用の特別なケーキを準備していて大賑わいになっていた。元々人気の店でもあり、今日はそれを求めてつめかけた大勢の客達がいた。その人達に押し出されるように店の外に出されてしまったジェイミーは酷く憤慨した。しかし他にどうすることもできずに、再び広場へ向かうことになった。




「今年の焚き火は西の広場よね」

「もう父さん達への贈り物は準備した?」

「まだよ。今日は行商の市があるでしょう?そこで何か珍しいものを探そうと思ってるの」

「え?間に合うの?」

「大丈夫よ。今から行ってくるわ!」


そんな楽し気な会話が聞こえる中、ジェイミーは一人で街の中央広場に向かって歩いていた。


「イクセル様と一緒に焚火を見て、今年こそ婚約の申し込みをしてもらおうと思ってるのに」


ジェイミーはイクセルに選ばれるのは自分だという自負があった。爵位は違えど自分達の父親同士は親友で、自分達も幼い時から交流があったから。父親であるペリー子爵もかねてよりイクセルのような優秀な人物が婿に入ってくれたら、とイクセルの事を褒めていた。だから自分達が結婚してペリー子爵家を継ぐのは当たり前。ジェイミーの頭の中ではそういうストーリーが出来上がっていた。



「豊穣祭の焚火を一緒に見た恋人同士は、ずっと幸せに一緒にいられるという言い伝えがあるのよね。毎年誘っているのに、いつも家族や友人達と行くからって……。でも今年は絶対一緒に行ってもらうんだから!」


伯爵家とはいえ、イクセルは次男だ。家督を継ぐことはできないのだから、爵位は落ちるとはいえ自分と結婚して子爵家の当主になった方がいいはずなのだ。やや上から目線でジェイミーは自分との婚姻はイクセルの為だと考えていた。


「照れていらっしゃるのかもしれないけど、わたくしももう十六歳だしみんな縁談がまとまってきてるんだから、わたくしだって急がないといけないのよ。なのに全然良いお返事もいただけないし。いい加減困るわ」


ペリー子爵家からの縁談の申し込みに、イクセルの相手は今慎重に検討中であるという旨の返事がいつも来ているが、ジェイミーだけがそれを体の良い断りの言葉だということを理解していなかった。


「お父様は縁談をいくつか持っていらっしゃったけれど、イクセル様が一番身分が高いし、かっこいいのよ」


ジェイミーは自分の進む方向とは逆向きに流れていく人波に逆らって歩き続けた。








ジェイミーはイクセル達の店のある広場に着いたが、幕がおりており今は休憩中のようだった。店の裏側に回ると、噴水の淵にイクセルとユーリアが並んで腰かけて楽しそうに食事をとっているのが目に入った。それどころか、見つめ合った二人はまるで恋人同士のようだった。


「なによ!あれ!」


ジェイミーはつかつかと歩み寄り、イクセルの腕をつかんだ。しかしながら、ジェイミーはイクセルから今までにない程の冷たい対応をされてしまった。自分が邪魔者であるかのように。




「もういいですわ!」


確かに断りのお返事は来てたわよ。


折角わたくしが訪ねてあげたのに!店よりわたくしを優先すべきなのに。


それにユーリアよ!あの子、引きこもりのくせにどうやってイクセル様に取り入ったのかしら。腹立たしいわ。


そうよ……少し怖い思いをすればいいんだわ。






ジェイミーは意地悪く笑った。








ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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