お菓子がいっぱい
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「お菓子がいっぱい……」
クロスがかけられたテーブルの上に並べられたのはいくつかの種類のお菓子達だった。
香ばしい木の実の焼き菓子 白い蜜掛けの揚げ菓子 ほろ苦いショコラ掛けのケーキ 干した果実をふんだんに混ぜ込んだずっしりとしたケーキ コロンと丸い白い小さな半球の焼き菓子
「次、どれが来ると思う?!」
テーブルの向こう側で椅子から立ち上がった人が楽しそうに笑う。ヘーゼルの瞳が私を見下ろしてる。目の前にいるのは背の高い少年。少し前まで一緒の学園に通っていた同い年の男の子。
「?」
「?」
座ったまま首を傾げた私と同じように、彼は首をかしげて不思議そうな顔をしてる。その人の明るい茶色の髪がふわりと揺れた。
「君、占いをやってるんだろ?占ってくれよ」
開いた窓からほのかに金木犀の香りが入って来る。ここは王都の外れの森の中。通称木犀の森って呼ばれてる。その森の中に建ってる小さな屋敷。幼い頃から殆どの時間をここで過ごしてきた。私はここで学園を卒業後、おばあ様と一緒にこの森の中の小さなお屋敷で占い師をしてる。
「どうしてこの方が……?それにしても男の人がここに来るなんて珍しいわ……」
うーんと考え込んでると彼がしびれを切らしたのかテーブルに両手をついて覗き込んできた。
「ねえ?聞いてる?!」
「聞いています」
私が彼を見上げると彼は驚いたように体を引いた。そんなに驚くなんて変なの。自分から近づいて来たのに。驚きすぎたのか顔が真っ赤だ。
テーブルの上には小さな五つのかごに入れられたお菓子が五種類。どれもとても美味しそう。でも、「どれが来る」ってどういう意味?
「何を占えばいいのですか?」
良く分からないからもう一度質問してみた。
「あー、分かりづらいか……。えっとこれ、俺が考えたスイーツなんだ。次に王都でどれが流行りそうか占ってほしいんだよ!」
ああ、そういうことか。やっと分かったわ。彼の家は王都でお菓子店を経営してるって聞いたことがある。行ったことはないけど、かなりの人気店みたい。新商品の売れ行きを心配して占いに来たのね。
「珍しいご依頼ですね……」
普通、占いといえば大体は悩める女の子達の恋占いなんだけれど……。今日は随分と毛色の違う占いになりそう。私は手元にあるカードをシャッフルし始める。幼い頃から使い続けてる私の手にとても馴染んだ綺麗なカード達。
「ではまずあなたのお名前を教えてください」
私が尋ねると、目の前のお菓子の彼は傷ついたような顔を見せた。
「……酷いな。ディアス学園で一緒だったろ?ユーリア・ロセアンさん」
あ、この方私の名前覚えてたんだ……。私も知ってる。学園では結構有名人だったから。貴族なのにみんなに優しくて、明るくて人気があった人。陰気な私とは正反対の人。伯爵家の御子息様。
私達の住むシャディアス王国(通称橙の国)では十歳から十五歳までの子ども達は平民も貴族も近くの王立の学園に入り、学ぶことが義務付けられている。春までは私もこの森のすぐ外にある王都の南の外れのディアス第三学園に通ってた。
「占いの最初に伺う決まりになってるんです。イクセル・リンテロート伯爵令息様」
「なんだ!覚えていてくれたんだ!良かった!イクセルでいいよ!」
ホッとしたようにイクセル様は再び椅子に腰かけた。
「では、私の事もユーリアとお呼びください」
「うん。ありがとう、ユーリア……さん」
また、顔が赤いみたい。熱でもあるのかしら。最近は夜も寒いくらいだものね。
会話しながら私は手の中のカード達に問いかける。切りながらふっと手の中のカード達が軽くなったような気がして手を止めた。いくつかの手順を踏んでカードを並べていく。
「へえ!占いってこうやるんだぁ!」
「綺麗なカードだね」
「最初は裏返しなんだね」
などと話しかけてくるイクセル様をスルーして並んだカード達を裏返してその絵柄から「答え」を感じていった。小さなクマが描かれたカードが一番心に残る……。
「結果が出ました」
カードが示した結果とそう感じた理由を丁寧に説明しながら指差した。
「なので、次に人気が出るのはこちらの木の実の焼き菓子だと思います。申し訳ありませんが、占いが外れても当方は一切の責任を負いませんのであらかじめご了承下さい」
「うん。わかってる!最終的には俺が決めるから大丈夫だよ!ありがとう!参考になったよ!」
イクセル様は占いの代金をテーブルに置くとそのまま占いに使ってる応接室を出ようとした。
「待って下さい!お忘れになられています!」
テーブルの上にはたくさんのお菓子達。このままにして帰るつもりなの?
「……ああ!これは全部君へのお土産!」
「え?これ全部ですか?こんなに一人で食べきれません!」
「どれも良く焼いてあるから日持ちがするよ」
「で、でも!」
「いいから、いいから!良かったら味見して感想を聞かせてよ!またかごは取りに来るから、気にしないでね」
イクセル様はお菓子を入れてきたバスケットを掴むと、何故か上機嫌で私の家を後にしていった。学園で見た時以上の楽しそうな笑顔。
「どうして?」
私はテーブルに残されたお菓子を見つめてしばらく呆然としてた。
金木犀の甘い香りとお菓子のお砂糖の甘い香りに囲まれて少し頭がくらくらした。
「卒業したらもう会えないと思ってたのに……」
嬉しい
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