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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅱ】
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【77話】弥彦と珠希のショッピング(1)

弥彦(やひこ)


俺の土曜日は平日より1時間遅く起きるところから始まる。

(らん)もそれを承知してくれていて、丁度それくらいの時間に朝食ができる。


そして本来ならば今日もそのハズだった。そのハズだったのだが。


朝っぱらから珠希(たまき)がクローゼットを開けて中身を撒き散らかす音で目が覚めた。

ここは俺の部屋だ。珠希の服などある訳がない。脳内が疑問符で埋め尽くされる。


眠い目をこすりながら音の元凶に問う。

「なあ珠希、人の部屋で朝から何してんだ…?」


「何って、検査だけど?」

まるでそれが当然と言わんばかりに答える珠希。

「検査…?いや、人の部屋のクローゼット漁る検査って…?」


段々消えていく眠気。反比例で強まっていく困惑。

しかし珠希は俺のそんな思いを一切意に介さない。

そしてブツブツ言いながらクローゼットの中身を放り出していく。


その奇行が終わったのは5分後のことである。

当然、床には無残に放り出された俺の衣服が散乱している。


「…満足したか?」


しかし俺の問いに珠希が返したのは睨みつける鋭い視線だった。

珠希は詳細不明の不機嫌の表情を俺に向け、言い放つ。

「はあ…?全ッ然不合格なんだけど?」


暴風雨が如く早口で珠希は俺にまくしたてる。

要約するとこうである。


1つ、女子と行動を共にする男子には品格が求められること。

1つ、その品格とは基本的に服装で示されるものだということ。

1つ、今の俺の手持ちの服には求められる品格が備わっていないこと。


つまり、女子と一緒にいるならばダサい格好をするなということである。

ましてやそれが友人の晴れ舞台ともなれば、珠希の熱の入りようも必然か。


「という訳で今から服を買いに行くわよ。早く準備しなさい。」

「…はあ。」


かくして、俺は朝食も食べないままに珠希に連れ出されることとなった。


◆◆◆


金閣(きんかく)町から一駅、ここは銀龍(ぎんりゅう)市。

駅の真正面で存在感を放つ屋外イベント会場は『豪徳寺(ごうとくじ)野外ステージ』。

この銀龍市のシンボルであり、その名の通り建築から運営に至るまで【豪徳寺(ウチ)】が関わっている。

明日の『イグニッション東京予選・スペシャルブロック』もここだ。


が、今日の目的地ではない。

珠希と共にやって来たのはその脇にある通称『ファッションストリート』だ。

因みに俺は存在こそ知りつつも今日まで足を踏み入れる機会は一切なかった。

元より女性に人気のスポットな上、俺がオシャレに無頓着である故なのだが…。


しかしそんな俺をよそに珠希は珠希で盛り上がっている様子ではあった。

「見せてあげるわ!私の魂のコーディネート!」


明日たった1日だけ隣にいる男に最低限の服装を整えさせるという名目なのによくあんなにテンションが上げられるものだ。

退院直後の若葉(わかば)にオシャレをさせていた辺り、こういうのが好きなんだろう。


俺は珠希に手を引かれ、行く先々で着せ替え人形が如く着替えさせられた。

Tシャツは何度着替えたかわからない。その全てで俺には違いがよくわからない。

だが試着室で鏡を見る度に、それが普段の格好よりは様になっているのはわかる。

コーディネートするなどと真正面から堂々と豪語するだけのことはある。


「うーん、イマイチね。でもこのTシャツは買いだわ。」

「あ、これにあのアクセサリー付けたらオシャレなんじゃないかしら。」

「ジーンズは良いカンジじゃない?でもこのキャップは余計だったわねー。」


珠希の反応の良し悪しの基準は、やはり俺にはわからない。

わからないまま買った衣類の入った紙袋が1つまた1つと増える。

気が付いた時には俺は右手にも左手にも大きな紙袋を3個ずつ下げていた。

明日の服装の調達が目的だったハズが、既にTシャツだけで10着入っている。


「ほら、早くついてきなさいよ。こっちよ、こっち。」

珠希は迷わない。足取りは勿論、購入の意思さえも一切の躊躇がない。

庭のように『ファッションストリート』を知り尽くしたその足取りは軽やかだ。


その後ろで重い荷物を持たされている上にすっかり振り回されているのが俺だ。


「おい、早いって…。」

両の荷物は勿論、朝食を食べられなかったことも当然のように響いた。

付け加えて、土曜日がもたらした人込みも俺の体力を削っていく。


最初の店にはほぼ開店と同時に入った。

そこからあちこち回り、時には戻ったりして次が12件目である。

その間に休憩などという甘えた時間を珠希は1秒たりとも用意しない。


気付けば時刻は既に昼を回っていた。

1つの店で使う時間も決して短くはないし、まあ当然か。

「なあ、これまだ続くのか?もう大分買ってると思うが…。」


「うーん、そうねえ…。確かに、もう十分なんじゃないかしら。」

その言葉を信用するなら今いるこの店が最後になるだろう。

頼むからそうであって欲しい。そろそろ両腕が辛い。

いくら折れたところが既に完治しているとはいえ。


「…じゃあ、最後に私の買い物にちょっとだけ付き合ってよ。今日の()()、それで良いから。」


…お礼?お礼とは?そもそもこれは珠希が始めたことだよな?

「何その不満そうな顔。何か文句ある?」

「…ありません。仰せの通りに。」


流石に腹が減って来たが、それが満たせるのはまだ先のようだ…。

次回更新は9月16日(月・祝)になります。

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