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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅱ】
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【閑話】イグニッション東京予選・Aブロック(3)

◇◇◇


宮城県は仙台市青葉区、北四番丁駅に程近い通りにそれはある。

良く言えば年季の入った、悪く言えば新しくはない二階建てのその建物。

二階の窓には内側から大きく文字を書いた紙を張り付ける形でこのボロ屋の正体が示されている。

手作りは温かみを内包すると言うが、その掲示が醸し出すはチープさばかり。


ここは芸能事務所【エメラルドリーブズ】。

その見た目の通り、小さな芸能事務所である。

しかしこの事務所に唯一所属しているアイドルは今や稼ぎ頭。

今や宮城どころか東北中にその名を知らしめる【TAKE OFF(テイクオフ) GIRLS(ガールズ)】。

その存在は日本中のローカルアイドルからしても憧れと尊敬を集めるばかりだ。


1年前が嘘のように忙しくなった彼女たちは7人が事務所に揃うのも珍しい光景となっていた。

そして今日は偶然にもその珍しい光景が拝める日だった。


「そろそろ更新来たんじゃない?」

爽やかなショートカットと凛々しい目つきの彼女、【TAKE OFF GIRLS】リーダーの灰川(はいがわ)ヨシノは湯気の立つコーヒーカップを口に運びながら問う。

相手はテーブルを挟んだソファで小一時間はスマホを睨んでいる長いツインテールが特徴的なメンバー、焚谷(たきや)ミユ。

「いやあ、来てるとは思うんですけど回線が重くってぇ…。」


「別に今ここで皆で揃って見る必要なくない?明日には流石に見れるっしょ。」

ブロンドのロングヘアが似合う際立つスタイルの彼女はサブリーダー、椿戸(つばきど)カヤ。

そう口では言いつつもミユの隣で横から画面をずっと覗いている。


「でも、明日は皆お仕事だし…。」

「そうそう。どうせ誰が勝ったって私たちはまず自分たちの戦いを勝ち抜かなきゃ意味ないじゃない!」

内気そうなミディアムボブの粟海(あわうみ)アイリに高いポニーテールが特徴的な空上(そらがみ)ナナミが続く。


アイリ、ナナミの二人はそれぞれ明日の仕事の資料を開いている。

少し前までは7人一緒の仕事が大半だったが忙しくなった今ではそうもいかない。

寧ろ7人が一緒に揃うなど、それこそアイドルの主戦場たる音楽の関係でなければ何かしらの特集くらいになった。


「まあまあ、そう言わずに。情報収集って大事なんだよ?それに私たちの参加するスペシャルブロックって敗者復活戦も兼ねるんでしょ?もしかしたらこの中に相手になるアイドルがいるかもしれないし。」


ナナミを宥めるセミロングの彼女こそ【TAKE OFF GIRLS】センター、凶谷(きょうごく)マユ。

かつて【81Club(エイティワンクラブ)】に所属していた頃も絶対的センターとして輝いていた。

3年前の『イグニッション』優勝時のセンターも何を隠そう彼女である。


更に『イグニッション』に挑むアイドルとしては史上初でただ1人の優勝経験者。

陰で【TAKE OFF GIRLS】が優勝候補として囁かれる最大の理由である。


「ヨシノの気になってる子が出てるんだったよねえ、今日のやつ。」

ナナミと同じくメンバーの中では小柄なお下げの彼女は両潮(りょうしお)ミナミ。

テーブルの上のお菓子を貪るその勢いは掃除機の如しである。


AIRU(アイル)、だっけ?」

カヤが視線を上げて斜め前のヨシノを見やる。


「そう、AIRU。東京で冠番組持ってた子で、しかもそれが超人気だったんだって。だから知名度はあるし、それに実力もネットで動画を見ただけだけど結構ヤバい。まあ間違いなくその子が予選1位だろうね。」

そう語るヨシノのライバルを見据える目は鋭い。


これはアイドルという同じ夢を見た者だからこそわかる境地。

AIRUのパフォーマンスを一見しただけでヨシノは理解したのである。

彼女がネームバリューだけでのし上がってきたような薄っぺらではないことを。


「あ、来ましたあ!」

ヨシノが語った後だからか、その場にいた全員の目と耳がミユの方を向いた。


「1位は剣見(けんみ)鏡花(きょうか)って子らしいですう。AIRUちゃんは2位みたいですねえ。」


一瞬その場を包み込みかけた沈黙をマユが割いた。

「ヨシノが目かけてた子が負かされるなんて、その子はさぞ強いんだろうね。」

「良いじゃん。相手にとって不足なし。」

カヤがそう続けて笑う。


「その前に私たちは自分たちのブロック勝たなきゃ戦えないんだってば…。」

強敵の誕生に燃え上がるメンバーを前にナナミはすっかり呆れている。

少なくとも現状に最も現実的に向き合っているのは彼女だろう。


「敗者復活戦、誰が選ばれるんだろう…。」

マユが先程言った言葉をアイリは気にしていた。


スペシャルブロックにはそれまでの全国のブロックの中から審査員が選んだ10名がもう1度ステージに上がる権利を得、臨んでくる。

当然その枠に選ばれる者たちはそれだけの印象を残した強者である。

更に言えば当然その者たちは1度負けた悔しさがある分、より勝利に執着する。


彼女らと同じく全国から招待された選りすぐりのアイドルも当然の強敵である。

集う想いの熱の総量は『イグニッション』の中でも一際高いと言えるだろう。

【TAKE OFF GIRLS】が挑むステージとはそういうステージなのである。


『イグニッション東京予選・スペシャルブロック』まで、残り1ヶ月。

この話のミナミが発言するまでの【TAKE OFF GIRLS】メンバーの発言順は【76話】と同じです。

残り1ヶ月…なんて〆ましたが【76話】時点で前々日です。

ちょっと時系列がわかりにくいですね。ごめんなさい。

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