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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【番外】愛依と雫

【7話】【8話】、つまり弥彦たちの高校入学の翌々日の話です。

回想パートは記述通りです。


◇◇◇


「よくもまあ、毎日飽きもせず…」

教室前方でじゃれ合っている愛依(あい)(しずく)を見て果音(かのん)は呆れていた。

「昔もああだったじゃない。本当に変わらないよね。」

同じものを見る咲花(さきか)は対照的に微笑ましげですらある。


一昨日教室で二人が数年ぶりに対峙した時、周囲には緊張感が漂った。

しかしそんな衝突を一昨日も昨日も5回ずつやれば誰だって認識する。

この2人の関係性はそういうもので、これは日常風景の類なのだと。


果音は凪乃(なぎの)に視線を送り、それに気づいた凪乃も頷く。

凪乃はスッと立ち上がり、いよいよ取っ組み合いを始めた2人に割って入る。

「はーい、そろそろ終了のお時間でーす。どうどう、どうどう。」

興奮した馬を宥めるような仕草はどういう訳か雫にはよく効いたらしい。


一方でギャンギャンと吠え立てる愛依は真子(まこ)が後ろから羽交い絞めして引き離す。

「あんたも行くの。ほら、動け!」

愛依はジタバタと足掻くも真子に引きずられていった。


「あの二人、何であんなに仲が悪いん?」

果音と咲花に声をかけたのはクラスメイト、畳ヶ原(たたみがはら)如月(きさらぎ)

彼女もまた夢原(ゆめはら)七姉妹と同じく高校から金閣学園に入学したということで姉妹とは仲が良かった。


「ああ、それはね…」

咲花は如月に二人の関係性について教え始めた。

全ては3年前、彼女らが中学1年生だった時まで遡る。


◆◆◆


3年前、4月。大阪の某中学校にて。


「バレーだって!私、バレー得意だよ!」

更衣室で息巻くのは七姉妹の長女、愛依であった。


「知ってる知ってる、有名チームのエースだったんでしょう。実力、見せてよ!」

「流石に分が悪いなあ。同じチームになるかなあ。」

期待を寄せる者、不安になる者、クラスメイトの反応はまちまちだ。

だがそのまちまちの中でも特に奇妙な反応をしていた者こそ雫であった。


愛依は雫の視線に振り向く。

瓶底眼鏡越しの彼女の視線はどこまでも冷たく、しかし熱くもあった。

「…どうしたの、雫。目ぇ、怖いんだけど。」


「…いや、井の中の蛙とはこのように鳴くのかと思った次第でありまして。」


「…は?」

雫のたったその一言は、しかし愛依にはこれ以上なく簡潔に真意を伝えた。

要するに雫は愛依に対して上から目線で挑発しているのだ。

そしてその発言は愛依をヒートアップさせるには十分すぎた。


「良いよ。そこまで言うんだったら勝負しようか。私が負ける訳ないけど。」


雫の挑発を愛依は真正面から買った。買わないのはプライドが許さなかった。

雫の身長は177。学年の誰よりも高身長だ。そして高身長はバレーという球技においてアドバンテージだ。


愛依は雫が妙に自信があるのはその身長のせいだと思っていた。

そして実際そうなら何ら問題はないハズだった。

身長と多少のセンスがある程度では鍛えられ磨かれた元プレイヤーに勝てるわけがないのだ、と。

息巻く愛依だったが、現実は残酷であった。


44-46 勝者、雫チーム


「はあ!?はあああああああ!!??」

納得できないという感情のこもった愛依の叫びが体育館に響いた。

数字はこれ以上ない程に勝敗を現実として映す。


「おやおや?おやおやおやぁ~っ?さっきまでの威勢はどこに行ったのでありますかぁ~?」

そしてここぞとばかりに雫は愛依を煽る。

他のメンバーが疲れ果て死屍累々の様になっていることには目もくれない。


「絶対に許さない…!絶対に次は勝つ…!」

自信のあるバレーでの敗北、それは愛依を折るどころか更に燃え上がらせた。

「んんんんん~?お得意のバレーで勝てなかったのに一体次は何なら吾輩に勝てるというのでありますかぁ~?」


すっかり調子に乗る雫はまさかリベンジされる日がこようなどとはこれっぽっちも思っていなかった。

本当に一瞬たりとも可能性が脳裏を過らなかったのだ。

しかしその日は唐突に訪れることとなる。


一ヶ月と数日後、数学の中間テスト返却にて。


愛依 98点 雫 97点


「吾輩が数学で…負けた!?」

瓶底眼鏡の奥の目を丸くして雫は驚愕した。

雫にとって最も自信のあった科目である。


「うふふふ~!吾輩お勉強はあなたよりできるのであります~!どうだ見たか妖怪ワガハイメガネ!あっかんべーっ!」

愛依はあの時の雫と同じ勢いで当人を煽る煽る。

そしてその行為はかつての意趣返しのように雫に火を付けた。


こうして果たされたリベンジは終わらない因縁と化した。


その後も二人は何かにつけて幾度となく衝突した。

その内には顔を合わせただけで言い争い始め、いつの間にか取っ組み合いまでするようになった。


尚、二人の実力はあらゆる種目(取っ組み合い含む)で完全に互角。

いつからか七姉妹が仲裁をするようになり、その過程で愛依以外の姉妹と雫は更に仲が良くなったりもした。

そんな、ある意味では和気藹々とした関係は雫が転校する2年生の冬まで続くこととなる。


◆◆◆


「互いに一年以上顔合わせてなかったのに、それがいざ会ったらこれだもの。全く仲が良いんだか悪いんだか。」

果音はやれやれと首を横に振る。

「それこそ、天地がひっくり返りでもしないと直らないかもね。」

咲花も仕方ないと苦笑い。


廊下からは愛依の悪足掻きの声が未だ続いていた。

「しーずーくぅー!こらぁーっ!」

「諦めなさいってば!」

制止役の真子も楽ではなさそうだ。


「全く、仕方のない輩でありますな。」

愛依の声に雫は腕を組み溜息をつく。

「あなたもよ、雫。」

果音は釘を刺すのだった。

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