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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【73話】弥彦、退院

【38話】弥彦、入院 から遥々数えること35話分

大変お待たせいたしました。

弥彦(やひこ)


「悪いな、迎えに来てもらってよ。」

遂に来た退院の日。病院には(らん)若葉(わかば)が来てくれた。


病院を1人で退院した経験はあるが、蘭に真っ向から拒否されたのである。

俺を心配してくれてのことだ。俺はその厚意に甘えることにした。


「早く帰ろうよ。果音(かのん)が美味しい物いっぱい作って待ってるから。」


そう、今日は俺の退院祝いの日でもある。

見舞いに来た時も果音は意気込んでいたし相当に張り切っているのだろう。

それだけに祝いの席での食事には是が非でも期待せずにはいられない。


「若葉も準備一緒に頑張ったんだよ?ね。」

蘭が若葉の方を向いて微笑むと若葉もニッコリ微笑みながら頷いた。

若葉のこんな笑顔、初めて見たな。


「わ…私は、買い出し…だけだけど…。」

「でも1人で買い出しできるようになったんだよ?私結構助かったもん。」

若葉の弱気な言葉に蘭が即座にフォローを入れる。


若葉が退院してからほぼ一ヶ月。

話には聞いていたが問題なく順応できているようだ。

実際に本人を目の当たりにするとそれはより実感できる。


「買い出しできるようになっただけでも十分偉いじゃないか。ありがとう。」


若葉は蘭と同じく経堂さんに後の面倒をある程度見てもらえることになっている。

結果、今は蘭と同じく俺の家の家事手伝いをしているのだ。

それも問題なくできているのは蘭から確認済み。

俺の為なら、と熱心に意気込んでくれるらしい。

本当にありがたいことこの上ない。


◆◆◆


俺の退院祝いは19時からだそうだ。それまでは大人しく自分の家にこもる。

家の中にいるのに隣の家から賑やかな音が聞こえてくる。

七つ子(あいつら)が精一杯俺の為に準備してくれているのだ。


さて、自分の家の状況。長い入院の後は整理が結構大変なのだ。

あらゆるものは埃を被っている。それとダメになってしまった食べ物の処理。

食卓に置いてあるものは当然、冷蔵庫の中も基本的には総入れ替え。

この辺りの事情もあってカップラーメンが常食になってしまった。


その掃除と処理だが、今回に関しては一切と言っていい程必要がなかった。

これでは退院直前から覚悟を決めていた俺がバカらしい。

いや、よく考えれば気づけることだったのは確かか。


今までの入院と今回の入院で決定的に違うことが1つある。

それは蘭がこの家にいたことだ。途中からは若葉もいた。

俺がいない間もこの家の雑事をしてくれていたのだろう。

家事手伝いのありがたさが身に染みて実感できる。


ではその面倒が無くなった俺が今すべきこととは何か。

入院中に七つ子から借りていた物は退院前に返してしまった。

思い出そうとすれば思い出そうとするほど、却って何も思い出せない。

というか、多分もう恐らく何もないのだろう。


じゃあ大人しく、持って帰って来た荷物の整理でもしていようか。


咲花(さきか)


「ただいま。豪徳寺(ごうとくじ)君、もう帰って来たよ。時間は伝えておいたからね。」

「おかえり蘭。じゃあ準備も急がなきゃ。帰ってきて早速で悪いけど手伝って。」


豪徳寺君に伝えた時間は19時のハズ。もう1時間を切ってる。

料理の方は果音が仕切っているから間違いはないとして問題はその他。

昨日の夜から進めていたおかげで余裕を持って間に合うとは思うけれど。


「ほら、プレゼントあるなら持ってきちゃって。」

パンパンと手を叩いて急かして漸く動き出すぐうたら姉妹。

「咲花嬢の分のクラッカー、テーブルに置いておくでありますぞ。」

今ここで誰よりも精力的に動いてる(しずく)を少しは見習ってほしいわ。


「あ、ありがとう。雫は何かプレゼント用意してるの?」

「うんにゃ、吾輩は学校で渡す予定なのであります。」


雫は本当にテキパキ働いてくれる。ズレた飾りつけを直したり配膳をしたり。

流石に自分からこの場に参加したいって申し出てくれただけのことはある。

何か彼女なりに豪徳寺君に対して思う節があったりするのかな。

普段、特に絡みは多くないように見えるけれど。


そう言えば学校での初日、豪徳寺君の噂を聞いてるとかって言ってたっけ。

特に聞いてもいないけど、あれって結局は何の噂なんだろう。


珠希(たまき)


咲花に急かされるままプレゼントを取りに自分の部屋まで戻って来た。

凪乃(なぎの)春佳(はるか)真子(まこ)は何か用意してるのかしら。正直、してそうなのよね。

上の3人や蘭、若葉も言わずもがな。となれば用意してないのは私だけかしら。


果音や凪乃、それに蘭の事を感謝していない訳じゃない。

逆に寧ろそれがあったから何かピンと来るものが無かったというか。

でもどんな理由を付けたって渡さなきゃ彼からすれば見え方は薄情な訳で。


…ていうか、私が一人だけそこでマイナスなイメージ付くのが嫌。


とはいえ、タイムリミットはもう来ちゃってる。私は用意できてない。

別に適当な小物だったらいくらでもあるし、そこから出そうかしら。

逆にそれ以外でプレゼントを渡す方法なんて、もうないわよね。


「珠希ちゃん、プレゼント用意できてないの?」


ノックがしてドアの方に振り向くと向こう側から凪乃の声が聞こえた。

「…ええ、そうよ。だってそんな暇、無かったもの。」


()()()()じゃダメなの?」


チケットってまさか()()の事を言ってるのかしら。

凪乃に話した覚えはないけど。


「…あるけど。…誰から聞いたのよ、その話。」

いいや、この話をするのは私以外なら彼女しかありえないわね。


「…玄楼島(げんろうじま)さんから。」

予想通りの名前。まあ仕方ないか。

亜以流(あいる)だって切羽詰まってるんだもんね。


「じゃあ、そうしようかしら。」

チケット、余分に貰っておいて助かったわ。

サブヒロイン玄楼島(げんろうじま)亜以流(あいる)、近い内(後半の序盤)に本人登場です。

また次回8月25日(日)は一挙2話+αの更新です。

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