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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【72話】弥彦の見舞いに来た人々

弥彦(やひこ)


早いもので気が付けば明日で俺も目出度く退院。

4月半ばの入院から数えて実に6週間。今回の入院は久々に長かった。

普段なら長く感じるこれもそう思わないのは見舞いに来てくれた人たちのおかげ。


特に足繁く通ってくれた七つ子や(らん)若葉(わかば)には感謝してもしきれない。

明日の晩は早々に退院祝いをしてくれるらしい。その気持ちが本当に嬉しい。


思えば今回の入院で見舞いに来てくれた人は多かった。

少なくとも今の俺はそれだけ出会いに恵まれているということなのだ。


七つ子の父、夢原(ゆめはら)(りゅう)さんとその奥さんである(しのぶ)さん。

龍さんだけならこの入院中に5回。奥さんと一緒に来てくれたのは2回。

社長という身で忙しいハズなのに態々時間を割いて大阪から遥々来てくれた。

娘の命の恩人だ、ととても大げさに頭を下げられた光景を今でもよく覚えている。


ここで初めて会った忍さんはどこにでもいる優しそうな普通のおばさんだった。

こちらに来た際に蘭や若葉との面通しも済ませたらしい。蘭から聞いた。

また禍神(まがみ)の件には忍さんも心を痛めていたようで、それも感謝された。


俺は今まで聞きそびれていたが、何でも奴は凪乃(なぎの)の仇敵ということだ。

詳しい話を聞けば猶更に凪乃のあの時の態度や一連の行動は腑に落ちた。

そして話を聞いた以上尚の事、今回その因縁に終止符が打たれたのは喜ばしい。


続いて担任、 吉良星(きらぼし)理子(りこ)先生。

彼女はゴールデンウィークや仕事終わりに合計3回も来てくれた。

その話によれば、今回の事件のことは学校では取り上げないことにしたらしい。

取り上げれば大々的なパニックになりかねないのは明白だし妥当な判断だと思う。


凪乃の関与は勿論、俺が撃たれたことについても誤魔化してあるとのことだ。

平穏の為にはそういうウソも時に必要なのだろう。俺も特に文句はない。


先生は俺の学業について心配しているようだった。無論、無理からぬことだ。

何せ俺が授業を受けていたのは僅か2週間ぽっちしかないのだ。

特に吉良星先生の担当する物理など両手の指で余る程だ。

これは本人をいざ目の前にすると正直罪悪感があった。


俺の分の中間テストは6月の頭にあるらしい。

これは成績の関係上、どうしても必要な事だという。

勿論休んだ分の配慮はあるそうだが、それにしても気が重い。

中学の時も定期テストはまともに受けられない方が多かったな。

今思えばよくもまあ内部進学が通ったものだ。あの時の俺は頑張った。


今回の件でも共に戦ってくれた唯一無二の親友、茂布川(もぶかわ)

何だかんだで七つ子や蘭、そして若葉の次に来てくれているのは茂布川だ。

やはりと言うべきか、あの後はかなり色んな人からこってり怒られたらしい。

本来なら俺も同罪で同じ場で同じお叱りを受けるべきなんだよな。

しかしそう言うと茂布川は笑って言うのだ。


「こういうのは元気な俺がやっとくから心配すんなって!」


その笑顔を見て心の底から実感する。俺は本当に良い親友を持っている、と。

蘭の誘拐だって元を辿れば茂布川の大手柄だ。蘭の本当の恩人は彼なのだ。


そんな話も程々に、結局俺と茂布川の会話の大部分はいつも通りだった。

別にそれで良い。寧ろそれが良い。それでこそ俺たちらしさがあると思う。

やれどこぞのゲーセンが良い感じだとか、やれどこぞのラーメン屋が美味いとか。

ゴールデンウィークが潰れた分、夏休みはどこかに出かけようだとか。


きっと俺と茂布川はこの先ずっと、互いがどんなに偉くなろうとも一生こんな関係なのだろう。

それが成就するのならば、それ以上に嬉しいことはきっとない。


態々オフの日に鵜北(うきた)さんが来てくれたこともあった。

共通項は事件の話題しかないが立場上鵜北さんが話せることも多くない。

しかし鵜北さんはそんな中でその限られた話を多く俺にしてくれた。

曰く、事件は着々と解決に向かっているとのこと。

信じてない訳ではないが直接聞けると安心できる。


また、今後はより一層【戌虎會(いぬとらかい)】を強く取り締まる方向になるだろうとも言った。

果音(かのん)の件の連中がその末端らしいことは聞いていたし察しも付いていた。

その口ぶりを聞くに今回の件にもどうやら関わっていたという事らしい。


俺だって本音を言えば【戌虎會】には金閣(きんかく)町から出て行って欲しい。

いつまでもこの町の治安が悪いのは彼らが蔓延っているからだ。疑いようもない。

金閣町に生まれた人間なら尚更それは声高に主張するべきことなのかもしれない。


ただしそれでワリを食う人間にも心当たりがあるが故に微妙な心境になる。

その()()を救ってあげたいというのも紛れもない俺の本音だ。

しかし互いの立場がそれを簡単には許してくれない。


そしてきっと、俺はこの先も祈る以外のことはできないのかもしれない。

結果、彼女を取り巻く状況というのは今後も変えられないのかもしれない。

そうこうしている内に彼女は闇の世界に飲まれ、もう戻れなくなるかもしれない。


そうだったとして、今の俺にこの手は伸ばせない。

俺は無力だ。


鵜北さんの話を聞きながら、俺は奥歯を噛み締めるしかできなかった。


◆◆◆


今日でこの日々も最後。そう思うとどこか名残惜しさもある。

勿論、退院できることは喜ばしいことこの上ないのだが。

色々なことを実感し、また考えさせられる入院だった。


できることならもう入院なんてしたくないな。

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