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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
78/179

【68話】若葉退院前々日

弥彦(やひこ)


若葉(わかば)の退院が明後日、金曜日に決まった。

世間的にはゴールデンウィーク1日目、昭和の日だ。

昨日来た祖母の秘書、経堂(きょうどう)さんによれば引っ越しに必要な手続きは諸々進んでいるらしい。

滞納していた家賃も幸い物件が【豪徳寺(ウチ)】絡みだったので丸く収まったのだとか。

作業もその日に全て終わらせるそうだ。まあこういうのはなるべく早い方が良いよな。


因みに本来なら俺の退院日のハズだった。

まさか抜け出した上に撃たれて帰って来るなんて誰も夢にも思うまい。

そんな訳で俺の退院日は3週間の延長。ゴールデンウィーク返上である。

病院で過ごすのは4度目。名誉の負傷だと思えば文句なぞある訳がない。


その結果、俺は中間テストも受けられなくなった。

これも中学の時に経験済みとはいえ、流石に繰り返したくなかった。

定期テストは然るべき時に受けないと後が面倒なのだ。

これは割り切るしかないとわかってはいるのだが。


豪徳寺(ごうとくじ)…さん。」

若葉が俺のベッドの所までやって来た。

自分の今後が決まった安心が体調にも良い影響を与えたらしい。

出会った時と比較して少し声量が出ているような気がする。


「どうかしたか?」

若葉が常にオドオドした様子なのは変わらない。これは生来なのだろう。

隣人の俺はともかく七つ子(あいつら)に関してはもう少し馴れる必要がありそうだ。


「豪徳寺さんは…あの七つ子さんを…どう思いますか?」

意外な質問だ。そして答えるのが難しいな。どう思うか…か。

「それは俺から見た印象ってことか?具体的に何が聞きたい?」


「印象…で大丈夫…です…。」


昨日が初対面で明後日から一緒に暮らす。不安になるのは当然のことだろう。

若葉からしたらあれよあれよという風に自分の行き先が決まったのだから。

ただしその(らん)の判断を俺が間違っているとは思わない。

きっと俺が同じ立場でもそうしただろう。


「そうだなあ、蘭と出会った時、最初は刺々しくてな。それが今じゃすっかり家族の一員だ。そう考えると、あのわちゃわちゃした感じも馴染みやすい雰囲気とか、或いは包容力とか、そういう言葉に言い換えても良いのかもしれないなあ。」


なるべく若葉が良い印象を抱けるような言葉を選ぶ。

結果わざとらしく聞こえていないと良いのだが。


「俺の隣の家にあいつらが引っ越してきたのは偶然かも知れない。けど俺はただの隣人やクラスメイトだなんて関係以上にあいつらに助けられてるんだ。例えばここの見舞いにだって足繫く通ってくれるから寂しくない。実は結構ありがたいんだ、これ。」


話していて気づく。俺が話しているのは印象の話ではない。

実際に俺が受けた恩の話だ。出会って一ヶ月なのに話が積もる。


「そりゃいきなり一緒に暮らすことには不安も多かろうよ。でもな、蘭に負けないくらい皆若葉の事を思って動いてる。その面倒見の良さとか、優しさとか、きっとすぐに感じられるハズさ。」


俺は蘭の時、それを一度目の当たりにしている。

だからこそそれは胸を張って言える。


「蘭がいてあいつらがいるんだ。若葉のこの先はきっと明るいぜ。それでも何かが起こったら隣には俺もいるしさ。俺も力になる。頼りないかもしれないけどな。」


若葉の不安は小さくない。

俺の言葉が何か効果があれば良いのだが、確認する術はない。

振り返れば最後だけちょっとウザったく聞こえた気もする。


「…わかりました。」


若葉はそれだけ言うと自分のベッドに戻っていく。

俺の言葉に効果はあったのか。良い効果か?それとも悪い効果か?

責めて良い効果がありますように。そう祈ることにしよう。


紫墨(むらすみ)


一応いくつか資料をまとめて持ってきたけど今日はどうなるか。

これで結果が昨日と同じなら私にはもう無理な気がする。

どうしてこんな役回りをさせられているんだろう。


進まない気に鬱々としながらその病室の扉を開く。

彼女がいるベッドは4つある内、入り口から見て右手前。

「こんにちは、若葉ちゃん。…で、昨日一晩考えて気は変わった?」


「そ…その話…なんですけど…。」


◆◆◆


昨日と同じ場所。昨日と同じ2人。

彼女は自分が今後どうするか自分の口で話す。

たどたどしいその言葉を聞き洩らさないように耳を傾ける。


彼女曰く、昨日私が帰ってから程なくして進展があったようだ。

隣のベッドにいる彼は世界に名だたる【豪徳寺】の御曹司らしい。

結果、彼からの提案があったのかお金の問題については解決とのこと。


生活の件については同じく監禁被害者の蘭さんから提案があったらしい。

彼女はシェアハウスで暮らしていて、同年代の女の子で集まっているのだとか。

今彼女がそこら辺の細かい調整を進めているとのことだ。

これについては本人から後で話を聞きたい。


一時的とはいえ見知った顔が一緒に暮らすというならそれに越したことはない。

彼女の話を聞く限り、蘭さんは彼女のことも気にかけてくれている。

それで落ち着いてくれるのなら私としても安心だ。


資料の準備がまるっと無駄になってしまったことは別に良い。

気にかかっていた問題の解決は全て済んでいるのだから。

明後日の退院を考えると流石にギリギリすぎるけど。


それと心なしか、少し彼女の顔が明るくなった気がする。

もう心配しなくても大丈夫かな。

弥彦が退院するのは5月3週目の最後。

学校には4週目から…という計算です。

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