【66話】君に謝りたくて
◇弥彦◇
部屋を出て行く姉妹や蘭、若葉を見届けてから凪乃に声をかける。
「…で、話って何だ?」
凪乃と2人きりでするような話、と言われてもいまいちピンと来ない。
何せ嫌悪なムードで1回別れてから再開したのは禍神と対峙したあの日。
そして俺は凪乃を助けようとしたらしい一瞬前までは茂みに隠れていた。
当然、言葉を交わすタイミングはなかった。
冷静に状況を整理すればする程、かけるべき言葉が悩ましくなってくるな。
何なら俺のさっき発した第一声は不愛想が過ぎたと言っても過言ではない。
もうちょっと気の利いたセリフで凪乃を労わってやれば良かっただろうか。
尤も、具体例がすぐに浮かばない辺り俺には不可能だったかも知れない。
「豪徳寺君、私…。」
凪乃が震える声で絞り出すように何かを言おうとしている。
少なくとも凪乃に取ってはとても重要な事であるようだ。
それはその表情が何よりも物語っている。
「本当に…!ごめんなさい…!」
凪乃は立ち上がり、涙の混じる声で俺に頭を下げた。
意味が分からず呆気に取られる。俺は何を謝罪されているのだろう。
「無実の君を疑った…!酷い言葉もかけた…!私の因縁に巻き込んでしまった…!大ケガまで負わせてしまった…!」
再び堰を切ったようにとめどなく溢れ出す凪乃の涙。
それとともに次から次に凪乃が口にするのは後悔そのもの。
俺はそれを聞いて漸く凪乃が何を謝っているのかを理解した。
「謝っても許されないことだけど…!でも、これだけは…!」
心から発せられる凪乃の言葉。
それがそこはかとなく窺わせるのは彼女が俺の前に立つ勇気と決意。
その並々ならぬ覚悟に俺はまるで気圧されてしまうような感覚さえ覚える。
言葉以上にその態度が告げている。
恐らく俺が彼女の謝罪を正面から突っ撥ねることさえ見越している。
自分の唾を飲む音がこんなに大きく聞こえたのはあの日の茂み以来か。
一点の曇りもないまっすぐな謝罪。その姿勢から滲み出る凪乃の想い。
凪乃が振り絞った誠意を俺はどうして受け取らないことができるだろうか。
彼女が謝罪などせずとも俺の中では答えは最初から定まっているのに、だ。
「…凪乃。」
俺の呼びかける声に彼女が顔を上げた。
「無事で良かった。これで仲直り…だよな?」
凪乃の言葉に真正面から答えているかと問われれば怪しい。
だが今の状況で俺が彼女にかけるべき言葉はこれしかない気がした。
自分の中で許すという言葉に違和感しかなかったから使わなかった。
だって俺は最初からこの誤解について微塵も怒ってはいないのだから。
この場においては仲直りという言葉がこれ以上ないくらいに相応しい気がした。
顔を上げた凪乃の目から再び涙が溢れ出す。
「本当にごめんなさい…!本当に、ありがとう…!」
凪乃が大声で泣きだした。
あいつらが戻ってくる前に落ち着けば良いが。
いつもよりかなり短いですが、この話はこれで1話分とさせてください。




