【65話】勇敢で無茶な君へ
◇弥彦◇
今日は火曜日。疑う余地もなく平日だ。
つまり俺のような訳アリ以外の学生には学校生活という日常がある。
そのハズがどうしてか、七つ子が現れたのは午後1時という早すぎる時間だった。
「豪徳寺君!?」
「豪徳寺君っ!?」
バタバタと走る7人分の足音が聞こえたと思えば、そんな声と共に扉が開く。
因みに俺を呼んだのは愛依と果音だった。随分と心配してくれていたらしい。
軽口で窘めようと思ったが、そんな間を俺に挟ませてはくれなかった。
血相を変えて飛び込んできた7人は目に涙を浮かべながら口々に俺を呼ぶ。
その7人の中にちゃんと蘭の言った通り凪乃もいたことは俺を安心させてくれた。
「良かった…!本当に良かった…!」
その凪乃は愛依や果音と同様に俺のシーツに顔を突っ伏して泣き始める始末。
「ははは、ありがとうな。…っていうか早すぎだろ。学校どうしたんだよ。」
俺のその質問には誰も答えず、大泣きする3人が落ち着くのを待つしかなかった。
というか、凪乃がここまで感情を露わにするのは中々珍しいな。
◆◆◆
七つ子が今日こんなに早く来たのはそもそも学校を休んだからということだ。
凪乃が警察署で詳しく話を聞かれたのだとか。茂布川も一緒だったようだ。
残り6人は婆ちゃんが用意した隠れ家の片づけに時間を割いたらしい。
警察は近い内に俺や隣の若葉の話を聞くべくこの病室にもやって来るだろう。
成程、それで俺はいつもの個室じゃなくて若葉と相部屋になっている訳か。
「しかし悪かったなあ。心配かけちまったみたいでよ。」
「本当よ!私たち気が気じゃなかったんだから!」
涙目で俺に怒るのは果音。本当に悪いことをした。
「でも本当にありがとう。君がいてくれて…良かった…。」
そう言って愛依の目には再び涙が溜まり始める。
「本当にありがとう…。それと…。」
凪乃は妙に言葉を言い淀んだ。
「君には助けてもらってばっかり。それこそ、愛依のことも果音のことも…。」
「咲花までよしてくれよ。そんな大したことはしてないんだから。」
代わる代わる頭を下げられると本当に俺が何か成し遂げたのだと勘違いしそうだ。
が、笑いながら否定する俺のそんな言葉を真子が強く遮った。
「あんたのそれのどこが大したことしてないのよ!2度も死にかけておいて!この間もそんなこと言ってたけどさあ!」
まさか真子から怒られるとは思ってなかったので面食らってしまう。
その表情は険しいのは当然、他の面々と同じく涙ぐんでもいた。
「全くよ。心配するこっちの身にもなりなさいっての。」
珠希もそう言うからには俺の事を心配してくれたんだろう。
珠希とも真子とに普段そんなに絡みが多い訳でもないが、にも関わらず心から俺を案じてくれていたのだ。
それが嬉しい反面、心配をかけてしまったことへの罪悪感も募る。
「お前さあ、自分が不死身だとでも思ってんのか?」
台詞だけ聞くとふざけてるように聞こえるが、しかしそれを口に出した春佳の表情は真剣そのものだった。
それこそ、今まで俺が見たことないくらいには。
「はは、まさか。よく生きてるもんだよ、今回も。」
今まで色んなケガを負ってきた。大きなものから小さなものまで。
だが流石に銃で撃たれたなんてのは今回が初めてだ。
「笑い事じゃねえよ。あたしの時もそうだったけど、無茶しすぎだって。…勿論、それで凪乃が助かったことにはありがとうだけどさ。」
「……。」
春佳に嗜められてしまった。
その深刻な表情は俺を心配するが故のもの。
余りに情けなさ過ぎて返す言葉が無かった。
「もうちょっと自分の事、大切にしなさいよ…!」
涙声の果音が語気を強める。その突き刺すような鋭い視線が痛い。
「…わかったよ。約束する。心配ばっかりかけて本当にごめんな。」
◇蘭◇
「…みんな、ちょっと良い?相談があるんだけど。」
七つ子が一通り豪徳寺君と再会できた喜びを噛み締めたところで切り出した。
「何?重要な事?」
若葉に目配せをしてから咲花の言葉に頷く。
私の視線の動きに咲花も何か感じ取ってくれたみたい。
「蘭、若葉さんって動けるの?」
咲花の唐突な質問に少し戸惑いつつも答える。
「ええと、大丈夫だけど…。ねえ若葉、大丈夫?」
「は…はい…。」
突然に巻き込まれた若葉もオロオロしながら弱弱しく返事をした。
「じゃあ悪いんだけどロビーに場所を移しましょうか。凪乃がね、豪徳寺君に大切な話があるんだって。」
咲花はそう言って凪乃の方を見る。当の凪乃は神妙な表情を浮かべていた。
そう言えば凪乃、さっき何かを言いかけてたっけ。
それが何か、何となく察しは付く。
確かに2人にした方が良いかもね。
若葉が立ち上がるのを確認してすかさず支えに入る。
見守る6人が先に部屋を出て、後を追うようにゆっくり一歩ずつ進む。
そうだ、一言だけ凪乃にエールを残していこう。
「…凪乃、頑張りなよ。」
私の言葉に凪乃は振り向いた。
「うん、ありがとう。」




