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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【61話】弥彦と蘭の再会

弥彦(やひこ)


あろうことか目の前で凪乃(なぎの)が撃たれてしまった。

助けに入ろうと飛び出したが間に合わなかった。


彼女の溢れる血が止まらない。動揺が止まらない。

自分の鼓動の音だけが高まり続ける。

目の前の凪乃の体は冷えていくのに。


凪乃が死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ

助けられなかった。助けられなかった。助けられなかった。助けられなかった。

自分の手が彼女の血で真っ赤に染まる。俺はどうすることもできない。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ…!

頼むから、誰か…!

このままじゃ…!


「どうして助けてくれなかったの?」


後ろからした声に振り向く。(らん)だ。

彼女もまた凪乃と同じように血塗れだった。

その目は俺を恨めしく睨んでいる。

違う、そんなつもりは…!


「どうして助けてくれなかったの?」

血だまりに突っ伏していたハズの凪乃が起き上がって俺に言った。

一言一句違わず、その視線の冷たさすら何も変わらず。


「君はいつもそう。私の時もそうだった。」

次の声は足元からした。俺の足元に血だまりができていた。

その血だまりから白い手が俺の足を掴んでいる。

その声の主が遂にその顔をそこから覗かせる。


俺は彼女を知っている。でも名前が思い出せない。

金色の髪、紺碧の眼、そして白い肌を持つその女の子を。

一度見たら忘れるべくもない彼女を、俺は思い出せない。


「私は君に助けてほしかったのに。」

凪乃が感情のない眼で言う。その血色は生きていないかのようだ。


「君は私たちを助けてくれなかった。」

蘭も全く同じだ。まるでゾンビと会話してるかのようだ。


「君はそう。そうなんだよ。ずっと昔から、そうなんだよ。」

足元の彼女は嘲り嗤いながらそう言った。やはりその目に感情はない。

「君に力はない。たった1人の女の子だって救えない。君には…!」

その声色は変わらず嗤っているが、しかし恨みや怒りも感じる。


違う!違うんだ!俺は…!

「何も違わない。君は助けてくれなかった。」

凪乃の声が突き刺さる。


助けたかったんだ!本気でそう思っていたんだ!

「気持ちは免罪符にはならない。わかってる癖に。」

蘭の言葉が響いてくる。


どうして俺は助けられなかったんだ…!?


「それはねえ、君に力がないからだよ?」

頭を掻き毟る俺と目が合った足元の彼女が答えた。

「ほら、またダメだった。私の時と一緒。また逃げる?私の時みたいに…。」


逃げてない!俺は逃げてない!

「ううん、君はずっと逃げているよ。ほら、今も…。」

気が付くと俺は真っ暗闇の中を走っていた。理由は分からない。


「私の事からずっと、逃げてるよ…!」


◆◆◆


「違う…!俺は…!」

暗闇が光に包まれ、一瞬で視界が開けた。

…というより、正確には俺は飛び起きたらしい。


そして状況を整理する間もなく横から何者かに抱き着かれる。

衝撃に困惑するも彼女が泣いていたことで俺はそれが蘭だと知った。

豪徳寺(ごうとくじ)君!!豪徳寺君!!良かった!!本当に良かったああっ!!」


あれ?蘭が…いる…?

「蘭…!良かった…!助かったんだな…!」

俺に顔を埋める蘭の頭に自然と右手が伸びた。

ここに確かに蘭がいる事実を噛み締めるように。

それどころか目からは自然に涙さえ流れて来る。


「豪徳寺君っ!豪徳寺君っ!!」

蘭は声を上げて泣きじゃくっている。

理由は俺の姿とここが病室であることから察するべきだ。

どうやら俺は意識を失っていたらしい。理由までは思い出せない。


禍神(まがみ)の所に茂布川(もぶかわ)とカチコんで、木の陰に隠れて…。

それから凪乃が現れて、いきなりガソリンを被って、それから…。

そこから先はうろ覚えだ、だが猛烈に嫌な予感を感じたのは覚えている。

少なくとも初めてではない何か。絶対に繰り返したくないと感じた何かだ。


さっきまで見ていた夢。よく覚えてはいないが凪乃が出てきた気がする。

そして、何となくだが余り心地の良い夢ではなかったような気もする。


「なあ蘭…。その…凪乃は…?」

質問する声が震えた、胸をざわつかせる嫌な予感のせいだ。

どういう訳か俺はその答えを聞きたくないんだ。

でも聞かずにはいられなかった。


答えを聞く前に俺は奥歯を食いしばった。

例え答えが何であっても受け止められるように。


「…無事。ていうか、君が守ったんでしょ?…バカ。」


「無事…!?そうか、良かった…。」

止まらなかった緊張が蘭の答えで一気に緩んだ。

同時に腰が抜けたのか後ろに倒れ込んで仰向けになる。

蘭の俺を見る表情は泣き腫らした赤い目も合わせてか少し怖い。


「無事じゃなかったの、君と()()にいる若葉わかばだけだから。言っとくけど、人の心配してる場合じゃないからね?」


蘭が一瞬視線を向けたのは隣のベッド。

その蘭の言う若葉というらしい女の子が俺を見て会釈した。

世代は七つ子や蘭と同じくらいだろうか。その視線は眼鏡と前髪に遮られている。

俺と同じく全身に傷があるようだ。包帯の隙間から痣や滲んだ血が顔を覗かせる。


「随分な怪我だな…。」

その痛々しさに心がキリキリと絞めつけられる。が。


「人の心配してる場合じゃないって言ったよね?1回鏡、見てみる?」

蘭は不満そうな顔で口を尖らせながら俺を見下ろして言った。

どうやら俺の怪我の方が酷いらしい。

笑って誤魔化したが更に睨まれた。

今回の弥彦の悪夢に出てくる凪乃でも蘭でもない謎の3人目は【46話】にも登場しています。

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