【60話】姉妹愛
◇凪乃◇
私は全員に今日のことを改めて話した。
黙って山荘を抜けてからどうやって金閣町に帰って来たか。
それから何をしたのか。病院で合流するまでの全てのいきさつ。
そして自分が取った行動の理由。私が取ろうとした計画の全容。
そんなに難しい話じゃない。自分自身を事件にしようと思っただけだ。
焼身自殺なら消防車も来る騒ぎになるし何より遺体も跡も残る。
警察官が禍神のために揉み消せる事件には限度があるハズ。
その限度を超える事件を起こそうとしたのだ。
鞄の中に詰めたスクラップ記事の下には1冊のノートを隠してあった。
私や周囲に起きた禍神による出来事を記録したノートだ。
勿論そんなノートに証拠能力はない。
ただしそれが見つかれば後は勝手に推察が始まる。
マスコミが騒げばネット社会の今ではそう簡単には揉み消せやしない。
禍神の被害者にとってはそれは便乗して声を上げるチャンスになる。
1人でもそういう声が上がれば後は勝手に世論が押し潰してくれる。
どう転んでも禍神を倒しうる。そう思って練っていた計画だった。
尤も、それを完遂できなかったから私は今ここにいるんだけど。
自分の命を以てこの因縁を終わらせる。それは謝罪になると思った。
ただし現実は因縁は切れたが私は生き残る結果になった。
それどころか豪徳寺君に深い傷を負わせてしまった。
元々豪徳寺君はこの因縁には全く関係がなかった。
蘭が関わったことで巻き込まれる形になってしまった。
それも元を辿れば私が一方的に彼を誤解して疑ったことに起因する。
私は禍神に次ぐ第2の元凶のような存在になり果ててしまっていた。
「……ふーん。」
愛依ちゃんは私の長い話を聞き終えた後、そんな反応を返した。
「……結構話したと思うんだけど、素気ない反応だね。」
「皆言いたいことは同じだと思うんだけど、代表して私が言って良い?」
愛依ちゃんは自身の右側に座る全員の方に視線を向けて尋ねる。
「七つ子とはいえ、確かにここは長女の役割かもね?」
了承の意思表示を返したのは果音ちゃん。
「じゃあお言葉に甘えて。」
愛依ちゃんはそう言うと立ち上がり、私の真ん前まで歩いてきた。
私が見上げる愛依ちゃんの表情は何だかとても怖い。
愛依ちゃんは私の頭にマジの拳骨を食らわせた。
「痛ぁぁぁぁぁっ!!?」
突然のことに混乱、なんてことはない。痛いのは本当。
理由は流石になんとなくわかる。2発目は勘弁してほしい。
「その痛みが姉妹の総意。よく覚えておきな。」
次に愛依ちゃんは頭を押さえて悶える私の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
私を見るその目はやっぱり本気で怒ってる。
「次に同じ手段取ったら許さないから。」
それだけ言って愛依ちゃんは私から手を放す。
「うん、ごめん。もう絶対にしない。」
心配をかけるのは仕方ない。今までそう思っていた。
私は間違えていた。大間違いだった。とても愚かだった。
そもそもこれは姉妹のための戦いだったのに。
姉妹の私を思う気持ちを私は粗末にしてしまった。
愛依ちゃんは私をそっと抱きしめる。
「もし何かあったら、次は私もちゃんと戦わせて。」
「うん、約束する。」
次に果音ちゃんが私を愛依ちゃんごと抱きしめる。
「私たち全員で七つ子。1人でも欠けちゃいけないの。」
「うん、約束する……。」
さっきあんなに泣いたのにまた涙が出て来た。
止まらない。私って泣き虫。
咲花ちゃんがその隣から果音ちゃんと同じように抱きしめてくる。
「いつも私たちの事大切に思ってくれてありがとう。でも、自分のこともちゃんと大切にしてほしい。」
「うん、約束……する……。」
次に珠希ちゃんが来る。
「私たちのために行動してくれる凪乃、カッコ良くて好き。でも私たちにもあんたにカッコつけさせなさいよ。」
「うん……、うん……、約束する……。」
その次は春佳ちゃんが来る。
「アタシ、いつか絶対に凪乃に追い付く。今はまだ全然届いてないけど、それでもいつかちゃんと追い付くからさ。その日まで一緒にいてくれよ……!」
「うん……、絶対に……約束……する……!」
最後に真子ちゃんが来る。
「言いたいこと、もう全部言われちゃった。……末っ子がお姉ちゃんに甘える権利、これから先も使わせてよ。」
「うん……、私……約束する……!」
「本当に……!!心配かけて……!!ごめんなさい……!!」
◇◇◇
七人全員で固まって声を上げて泣く七つ子の姉妹。
同じ空間にいながらまるで蚊帳の外に置かれていた人間が2人。
「なんか私たち、ここにいるとちょっと場違いみたい。」
蘭はそう言って隣の七姉妹の養父、龍に笑いかける。
「はは、ごっつ仲ええなあ。微笑ましいことこの上なしや。」
「なあ、蘭ちゃん。」
改まったような切り出し方に蘭は身構える。
「今回のことみたく七つ子これから色々と面倒かけると思うけど、どうか今後ともよろしく頼んます……!」
姉妹が振り返らない内に龍は蘭に深々と頭を下げる。
「いやいや、頭を上げてください。そんなこと、家族なら当たり前ですから。」
そう言って微笑む蘭に龍も笑う。龍はこの先の未来が明るくなることを確信した。
「そう言うてくれて助かるわ!おおきに!」




