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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【序章】
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【5話】七つ子がやってきた

弥彦(やひこ)


「隣に引っ越してきた夢原(ゆめはら)です。引っ越しのご挨拶に伺いました。」

インターホン越しに聞こえた第一声。成程、祖母が言っていたのはこういうことか。

……隣に引っ越してきたって言ったよな?ということは先程の双子(仮定)か。何とも早い再会だ。

声は確かにどちらにも似ていたけど微妙に違ったような。流石に気のせいか。

「はい、今伺います。」


「……はい?」

扉を開けると、そこには同じ背で同じ顔の人間が7人もいた。これを驚くなという方が無理だ。

だが驚いていたのは向こうも同じだった。正確には向こうの7人のうち2人。

そしてその理由はわかる。俺はその理由も併せて二重に驚いていたからだ。


「え……?」

「え……。」

そう反応する2人と俺の間には1人が挟まれる形だった。

つまり7人の先頭に立っていた、眼鏡と三つ編みにしたツインテールが似合う1人である。

その彼女が困惑するのは無理もない状況だった。

「ええと……。」


「……まあ、こんなところで立ち話もなんだから取り敢えず中に入れよ。茶でも用意するから。」


◆◆◆


「この度は姉を助けていただきありがとうございました。」

頭を下げるのは眼鏡と三つ編みのツインテールが似合う彼女、咲花(さきか)

如何にもしっかり者という風な感じで、挨拶の時先頭に立っていたのも彼女だ。

てっきり長女なのかと思ったが彼女は三女らしい。


「タメなんだから敬語はいいよ。それに俺は別にそんな大したことはしてない。」


「ううん。家族の命の恩人だもの。お礼くらい言わせてほしいわ。それと、さっきは睨んでしまってごめんなさいね。」

アップツインの彼女は次女、果音(かのん)。俺とは一瞬だが面識がある。

ちなみに俺の予想通り誤解していたらしいが、それはすんなり解けたらしい。

扉を開けて彼女を一目見て身構えたことに罪悪感が湧く。


「ところで豪徳寺(ごうとくじ)君は高校どこなの?」

俺に質問してきたのは四女の珠希(たまき)。誰よりも煎餅を食べている。

靡くロングヘアのキラキラとした輝きは素人が見てもよく手入れされていることがわかる。

「俺?金閣(きんかく)学園だけど。」


「へー!アタシらと同じじゃん!よろしく!」

小学生男児みたいなテンションの彼女は六女の春佳(はるか)

高めの位置からの少し長いポニーテールが特徴だ。


「よろしくー。」

一応言っておこうという意思が見え見えの清々しいローテンションっぷり。

その目はこちらを一切見ることなく手元のスマホに夢中なのは七女の真子(まこ)

肩口セミロングの毛先は綺麗に一定の位置で切り揃えられている。


咲花と同じく眼鏡をしているが、咲花が透明なオーバルなのに対して真子のそれは黒のスクエアだ。

呼び間違えたりしないように気を付けないとな。


珠希と春佳の間で茶を啜っているのは五女の凪乃(なぎの)。緑茶が嫌いではないようだ。

彼女は口数が少ないようで、自己紹介以外で声を聴いてない。彼女を挟む2人とは対照的に大人しいようだ。

ベリーショートの天辺からぴょこんと飛び出したアホ毛が揺れている。


「まあそんな訳でこれから騒がしくするけど、よろしくね。」

個性が色とりどりの姉妹を横目に苦笑いしながらそう言うのは長女の愛依(あい)

初めて見た時からカールボブが良く似合っているなとは思っていた。

放っておけないところもありそうだし、きっとこういう女の子はモテるだろう。

同時に悪い虫も付きそうだが、そこは気にかけておいてやるか。


「しかし凄い偶然よねー。愛依の命の恩人が大家さんのお孫さんだなんて。」

珠希の手が煎餅に伸びていく。偶々家にあったやつだが、彼女はかなり気に入ったようだ。

「しかもお隣さんだなんてね。何だか私たちかなり縁があるみたい。……迷惑ばかりかけると思うけど、よろしくね。」

そう言う咲花の目は冷たく珠希の手を見ていた。次から次へ煎餅を口に運んでいく手だ。


「まあ、別にそんなこと構いやしないさ。……その煎餅、もし気に入ったなら袋ごと持って帰って良いからな。安モンだし。」

尤も、このままだとあと数分もしない内に食べ終わってしまいそうな勢いだが。

「ホント?結構クセになるのよ、これ。じゃあお言葉に甘えていただくわね。」

隣で咲花が大きなため息をつきながら頭を抱えていた。


「そう言えば愛依を助けた時、どこかケガとかはしてない?キズ薬、よく効くのがあるから持ってくるけど。」

果音の質問に俺は首を横に振って否定する。僅かな掠り傷一つさえ負っていない。

「手を引いただけだからな。何もケガはしてないよ。」


「あ、卵は明日買ってくるから!」

唐突に愛依が言う。果音と俺との会話で思い出したのだろう。

「いや、別に良いよ。たかが卵なんだから。」


「卵……?卵って何のこと?」

卵とは勿論、俺が愛依を助けてしまった時に落としてしまった卵である。

が、その場に居合わせなかった果音がそれを知らないのは無理からぬことだ。

愛依は卵について果音に説明する。


「ああ、そういうことね。じゃあ私が明日買ってくるわ。愛依、あんたはしばらく一人で歩いちゃダメよ。もしも今後ああいうことがあった時、次はその場に私たちや豪徳寺君がいるとは限らないんだから。」

果音はピシャリと言い放つ。そういえば愛依は地図アプリを見たうえで迷っていたんだったな。

その判断は的確だろう、それくらいには愛依は危なっかしい。


「それと春佳、あんたもよ。」

「ええ!?」

果音から突然の不意打ちが春佳に炸裂。

「アタシ別に何もしてねーじゃん!」

その抗議は何も知らない俺には当然のように見える。


「あんたを一人で歩かせるとロクなことにならないじゃない。」

さも当然と言い放つ果音。両隣で腕を組んで頷く愛依と咲花。

「まあ、そりゃそうでしょ。」

相も変わらずスマホの画面を見ながら会話に参加してきたのは真子。


春佳は不服だと言わんばかりにキー!と喚くのであった。

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