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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【59話】手術室の君に祈る

愛依(あい)


病院に着いた時点で13時を少し回ってしまっていた。

私たちは手術室の前で待つ凪乃(なぎの)(らん)の元に急ぐ。


「すみません!お待たせしました!」

そこで私たちを待っていた人物が他にもう2人いた。

婦人警官の朧井(おぼろい)さん。前回果音(かのん)がお世話になった人。

それと私たちのクラスメイトで豪徳寺(ごうとくじ)君の親友らしい茂布川(もぶかわ)


蘭は自身の身の上をよそに凪乃を慰めてくれていたみたい。

その凪乃は未だ声を上げて泣きじゃくっている。

その理由は朧井さんから電話で聞いた。


蘭の姿を確認できて嬉しさはこみ上げるけれど、素直には喜べなかった。

ランプが赤く点灯している手術室の中にいるのは豪徳寺君だ。


「助かるわよね……?」


後ろで呟いた果音の声は今にも消えてしまいそうな程に弱弱しかった。

蘭に再会できた喜びもざわつく不安の前にたちまち消えてしまった。


本来なら豪徳寺君はこの病院に入院していたハズ。

それがどうして現場にいて撃たれることになったのか。

その理由は考えるまでもなく、ありありと想像できてしまった。


「……悪い。俺が連れ出さなきゃ、こんなことには……。」

茂布川は今にも泣きそうな表情で、そしてとても辛そうな声で私たちに謝る。


「謝らないで。きっと何が何でも、彼は来てたと思うから。」

その声に答えたのは蘭。強がっているのは明らかだった。


私も蘭と同じく、茂布川が豪徳寺君を連れだしたことに文句はない。

知った時点で彼なら無茶をする。果音の件でよくわかっていたこと。

凪乃を庇って撃たれたことも彼なりの無茶。

妹を守ってくれてありがとう。


私たち金閣(きんかく)町に来てから君にお世話になりっぱなしなんだね。

それこそ道案内レベルのことから命に関わるこんな大事件まで。

君に貰った恩、まだ何も返せていない。ずっとずっと貰ってばかり。

だからじゃないけど、責めて感謝の言葉くらいは面と向かって言わせて欲しい。


だから、生きて欲しい。


まだ4月だよ?楽しい学校生活、これからだよ?

夏があって、秋があって、冬が来て、それからまた春が来るんだよ?

夏休みは色んな所に行ってみたいな。秋には文化祭があるんだって。

冬は勿論クリスマスがあって、お正月があって、バレンタインもあるよね。


クリスマスプレゼント、君の為なら張り切って選んじゃう。

お菓子作りは得意じゃないけど、それでもバレンタインだって頑張れるかも。

それからね、いつか君にはちゃんとこの気持ちを伝えたい。君が好きだって。


全部、全部、全部、全部、君がいないと始まらないよ……。

君と一緒にまだまだ色んなこと楽しんでみたいよ……。

ねえ、だから帰ってきて……。帰ってきてよ……。


◇朧井◇


七つ子ちゃんが揃って蘭ちゃんと、それに茂布川?君もいる。

凪乃ちゃんのことは1回皆に任せても大丈夫かな。

聞きたいことはまだ聞けるような状態じゃないし。


そう判断したからこそ、私は若葉(わかば)ちゃんの病室まで来た訳だけど。

「無駄足だったみたいね。よく寝てるみたいで何よりだけど……。」


スヤスヤと寝息を立てて眠っている少女、若葉さん。彼女も今回の事件の被害者。

彼女については詳しい情報がまだわかっていない。あの場にいた理由も不明。

蘭ちゃんが言うには蘭ちゃんが来た時点で監禁されていたそう。

つまり、彼女には彼女の独立した背景がある。

勿論、今はそれを聞ける状態じゃない。


彼女は発見時は意識不明の重体だった。

ただしケガの程度は命に別条あるものではないとのこと。

それだけでも本当に不幸中の幸いか。早期の回復を願いたい。


それにしても、本当に見ていて痛ましい。言葉を失ってしまう。

全身に包帯が巻かれているけど、それでも隙間から傷や痣が顔を覗かせる。

年端もいかない女の子にこんな惨たらしい仕打ちをするなんて本当に許せない。


◇◇◇


12時少し前から始まった弥彦(やひこ)の手術は4時間超に及んだ。

現在時刻は16時である。その間、凪乃は泣き続けた。

七姉妹は絶えず弥彦の生還を祈り続ける他なかった。

蘭や茂布川も祈り続けた。


海外出張の予定を返上して帰国した禄絵(ろくえ)が到着した。

手術中のランプは変わらず点灯したままである。


七姉妹が、蘭が、茂布川が、禄絵が、弥彦のために祈った。

それ以外に取れる手段はない。故に祈った。


手術開始から5時間超、17時。遂に手術室のランプが消えた。

間もなく担架で病室へ運ばれていく弥彦。まだ意識は戻っていない。


「手術終了しました。ご安心ください。もう大丈夫です。」

執刀医は禄絵に頭を下げる。彼は禄絵とは顔なじみである。

「お疲れ様。毎度毎度、迷惑をかけるね。ありがとう。」


手術成功の報告に七姉妹と蘭は顔を見合わせた。

一瞬の沈黙を挟んで8人は抱き合い喜び合った。


「良かった!!良かったあああっ!!」

愛依は泣きながらここが病院だということも忘れて歓喜の声を上げた。

凪乃も再び大声で泣き出す。果音や蘭も涙を堪えられなかった。

咲花(さきか)珠希(たまき)春佳(はるか)真子(まこ)も連られて涙を流す。


そんな8人を見ながら茂布川の目からも安堵の涙が一滴流れ、その頬を濡らす。


「悪いけど今日はもう帰るよ。ひとまず一番大事な所は確認できたんだ。あたしも齢で疲れちまってね。弥彦の事、頼んだよ。」

禄絵の言葉に執刀医は力強く頷く。

「はい。お任せください。」


「次にもし抜け出すようなマネしたら縛っておきな。許可は要らないよ。」

自らの孫に対してやけに辛辣な冗談にも執刀医は笑いながら頷く。

「はい、承知しました。」


「あんたたちも一緒に帰ろうか。どうせ今日一日は目を覚ましゃしないよ。それに何より、色んなことがあってあんたたちも疲れてんだろう?」

次回更新は7月15日(月・祝)になります。

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