【58話】蘭誘拐事件、決着
◇◇◇
弥彦が凪乃を庇って撃たれた。
一連を見た鵜北は遂に正門を蹴破る。
「鳶西ィ!!応援を呼べィ!!誰か救急車を!!」
向かって走って来る大男に禍神は銃を構えようとするも遅れる。
それを見逃す鵜北ではない。流れるような所作で拳銃を引き抜き発砲する。
乾いた銃声が響き、それは禍神の肩を撃ち抜いて銃を手放させた。
鵜北は禍神を組み伏せ、側近らしき男と茶髪の男を睨む。
「まだやるか、お前ら。」
鵜北の射貫くような熱い視線。
元よりこの2人には抵抗する手段も逃走する経路もない。
側近・大鵺は静かに両手を上げて降伏の意思を示した。
「はいはい、お手上げお手上げ。最後に自爆たァ情けねーなあ……。」
茶髪の男は伏せられた禍神を見下ろし嘲笑しながら両手を上げた。
パトカーがサイレンを鳴らしながら列をなしてやってきた。
鳶西の呼んだ応援である。この状況では動かざるを得なかったようだ。
加えて交番から自転車を飛ばしてやってきたのは朧井巡査。
尤もこの状況では余り出番はなさそうではあるが。
状況は更に混沌を重ねる。
突然オフィスの扉が開かれたのである。
鳶西は慌てて銃を構えるが、その正体を見て銃を下す。
現れたのは高校生くらいの年頃の少女だった。
「豪徳寺君っ!?」
その少女、蘭は自らに向けられた銃のことなど頭に入らなかった。
扉を開けた瞬間に彼女の視界に飛び込んだのは血だまりに突っ伏した弥彦の姿だ。
冷静さなど保てるハズもなかった。何せ最悪の想像は現実の物と知ったのだから。
蘭は膝から崩れ落ちた。
茂布川は声の限り名前を呼び続けた。そこに意識がないとわかっていても。
必死に声を張り上げる。それだけが今の彼にできる全てだった。
凪乃は地面にその近くで小さく丸く蹲っていた。
弥彦を直視できなかった。自身を直視できなかった。現実を直視できなかった。
「どうして……?何で……?」
その震える小さな声はたちまちに地面に吸い込まれていく。
或いはそうでなかったとしても騒めくこの場においては誰にも届かない。
唯一この場でそれを聞いてくれそうな人間は彼女の目の前で横たわっている。
「モタモタするな!被疑者の確保と被害者の保護を最優先!残りは突入せィ!」
禍神を伏せたまま鵜北は声を上げて指示を出した。
狼狽えていた警官たちはその声で統率を取り戻し各々の仕事に駆ける。
それと同じタイミングで遠くから救急車がサイレンを響かせてやって来る。
オフィス2階に横たわる若葉の存在が鵜北に伝わるのにも時間は要らなかった。
◇愛依◇
12:00。
パパさんの車は金閣町に急いでいる。
罠なのはわかってる。でも行かなければ何も始まらない。
きっと凪乃もそこにいる。絶対に助け出す。
そう意気込んでいた時だった。
「ねえ皆、これ見て。今URL送るから。」
真子が何かを見つけたらしい。メッセージを開く。
送られてきたURLは大手ネットニュースサイトへのリンクだった。
それを指でタップして目に飛び込んできた情報に言葉を失う。
“金閣町、現職の議員による白昼の銃撃事件 監禁されていた少女2人を保護”
“近くに住む高校生1人が撃たれ意識不明の重体”
「何よこれ……。」
「どういうこと?」
果音と珠希が漏らす。私は読み進める。
逮捕されたのは禍神と他2名。銃を撃ったのは禍神本人らしい。
たまたま近くに居合わせた警官の対応で上手く制圧できたみたい。
監禁されていた少女2名は近くのフリーターと身元不明の一人。
内1人は搬送されたようだ。それが蘭でないことを祈りたい。
そしてそれを助けに来ていた高校生が3人。
撃たれたのはその内の1人。
「3人?」
違和感のある人数だ。明らかに多い。
「凪乃、まさか誰かを巻き込んだの?そんなことするとは思えないんだけど。」
咲花の意見に私も賛成だ。でも一体どうして3人も?
1人は凪乃で間違いないとして、他2人は誰?
「畳ヶ原と飛籐と御霊石の中から2人?」
春佳の意見に全員が首を横に振る。寧ろ凪乃なら意図的に遠ざけると思う。
「じゃあ豪徳寺……とか?」
「豪徳寺君は入院してるでしょ。それに場所を知らないじゃない。」
「それにもしかしたら蘭の誘拐のことすら知らないかもしれないのよ。」
果音と咲花は否定する。でも私は何故か否定できないと感じた。
「じゃあもし知ってたら?」
春佳の言葉に車内が沈黙する。皆その可能性を考えたくないんだ。
もし知ってたら?その答えはわかりきっている。
豪徳寺君がそれを黙って見てる訳がない。
「憶測じゃ始まらへんよ。1回電話してみたらどうや。」
パパさんが運転しながら話しかけて来た。確かにそうだ。
ここで話していても何も始まらない。勝手に悲しんでる場合じゃない。
もしかしたら今の凪乃か、もしくは蘭は電話に出られるかもしれない。
「誰か蘭の方お願い。私は凪乃にかけるから。」
◇朧井◇
手術室前、泣きじゃくる凪乃ちゃんを慰めている。効果はない。
あんなことがあれば誰だってこうなると思う。ショックだったね。
彼女自身はガソリンを被っただけ。量もペットボトル1本分。
一応お医者さんの処置も受けた。もう大丈夫だと思う。
理由を聞くのは明日でもその先でも良い。
撃たれた彼は豪徳寺君。病院を抜け出していたらしい。
初めて会ったけど、もしかして例の豪徳寺君かな。
凪乃ちゃんだって果音ちゃんや咲花ちゃんとそっくりだし。
まさかこんな短いスパンで関わるだなんて思ってなかったけど。
「あれ、凪乃ちゃん電話鳴ってない?」
彼女のポケットの中でスマホが光りながら震えている。
「私、出る?それとも凪乃ちゃん出られそうかな?」
凪乃ちゃんは首を横に振る。
「わかった。じゃあ私が出るね。」
私は彼女からスマホを預かり、通話ボタンを押した。




