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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【56話】これは誰への災いか

◇◇◇


「あ、多分あそこだ。」

鳶西(とびにし)は住所と符合する場所を指差した。

そこそこ広い庭だが敷地にあるのは2階建てのオフィス。

しかも名義は【狗虎會(いぬとらかい)】。どうにも不自然なことだらけだ。


その不自然を調べるために金閣(きんかく)町にやってきた者こそ鵜北(うきた)と鳶西である。


「既に誰かいるな。」

門は閉じられているが身長のある2人なら中を見るのに障壁にはならない。

しかも何やら奇妙な雰囲気だ。あくまで勘だが鵜北は自分の感覚を軽視しない。

鵜北、鳶西は早足で近づく。近づく度に刑事の勘が違和感を強く主張し続ける。

その最中、門に背中を向けている人物がペットボトルの中の水を自分で被った。


「……ガソリン!?」

鵜北の反応は早かった。それこそ門の中にいた大鵺(おおぬえ)よりも。

確定した異常事態。早足はダッシュに変わる。


「待て!そこで何をしている!」


弥彦(やひこ)


門の外から声が聞こえて来たのは凪乃がライターに火をつける直前だった。

驚いて凪乃はライターを落としてしまう。


声の方を見ると大男が正門から2人顔を覗かせていた。

彼らには会ったことがある。俺の病室に来た警察官だ。


「誰だ貴様ら!勝手に覗くな!」

激昂したのは禍神(まがみ)だった。彼らの登場は予想外らしい。

よくわからないが事態は良い方向に転がっている気がする。


「これはこれは禍神議員。どうしてこんな場所にいるんでしょう。」

そう声をかける大男は確か名前を鵜北さんと言ったハズだ。

何かを調べる目的でここに来たら偶然タイミングが重なった、そんな所か。

よくも最悪の状況にそんな奇跡が起きてくれたものである。


「貴様ら警察か?令状を出せ、令状を!錆仔(さびこ)の奴が黙っていないぞ!」

「錆仔管理官ともお知合いですか。その話は詳しく聞かせてもらいたいですね。」

鵜北さんの隣にいる大男も怯まずに食らいつく。禍神の余裕は完全になくなった。


「とにかく開けろ禍神議員!貴様には聞かんとならんことが山程あるんじゃア!」

「絶対に開けるな大鵺(おおぬえ)!こいつらは令状を持ってない!」

吠える鵜北さんと禍神。それは更に禍神に災いを連れてくる。


「なんだなんだ、喧嘩か?」

「なんでガソリンの匂いがするの?」

「どうして国会議員がこんな縁もない土地に来てるんだ?」

「この鞄、中にギッシリ新聞が入ってる!禍神の記事ばかりだ!」


異様事態に集まって来たのは近隣の住む住人たちのようだ。

その数は見る見る内に増えていく。もう誰にも抑えは効かない。


鞄というのは恐らくさっき聞こえたドサッという物音の正体だろう。

凪乃は一体どこまで計算してこの場に臨んだのか。

少なくとも今は違うみたいだが……。


狼狽える彼女はまだライターすら拾っていない。

俺はもし凪乃が拾おうとしたら出て行くつもりだ。


問題は禍神だ。饅頭のような顔を真っ赤にしている。ブチギレている。

その怒りの矛先が向くとしたらどこか、考えるまでもない。

そしてブチギレたあいつが何をするのかはわからない。


◇◇◇


「このクソガキがあああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


周囲の野次馬が思わず耳を塞ぎたくなる程の声量で禍神は吠えた。

最早形振り構わない。禍神にとって現在の状況は最悪である。


ここに来た野次馬は当然ながら状況を把握していない。

しかし鞄の中に詰められた禍神のスキャンダル記事や怒れる警察官。

そして何故かチンピラ紛いの男といる禍神が少女と相対する状況。

それらは禍神の世間的な評判と合わさり彼らの心理に作用する。

“禍神は今ここで何か悪事を働こうとしている真っ最中である”と。


そんな野次馬が刻一刻と際限なく増えていく。彼らはただの一般人だ。

禍神の権力の及ばない相手がこの場でこの状況を目撃している。

最早口封じはしきれない数だ。禍神は詰んでいた。

禍神は吠えるしかなかったのだ。


「貴様貴様貴様貴様貴様っっっ!!!貴様のせいでっっっ!!!」

「何度も何度もワシの人生を狂わせおって!!!何様のつもりだ!!!」

「絶対に許さん!!!絶対に許さんぞ!!!絶対にだ!!!絶対に!!!」


「先生……これは……。」

大鵺にもこの状況は既にどうしようもなかった。退路もない。

正門を開ければ人が流れ込んでくるだけだ。益々逃げられない。

ここから先は決して状況が良くなることはない。悪くなるだけだ。


「あーらら。こりゃオジキに連絡しときますかねえ。」

茶髪の男がそう言ってスマホを取り出した時、禍神が反応した。


「おいお前!!それ(●●)を貸せ!!」

そう言って禍神が手を伸ばしたのは茶髪の男の尻のポケット。


正確にはそこに無造作に差さっていた拳銃である。


禍神はそれをサッと抜き取ると標的に向けた。

狙いは勿論、吠えた時に腰を抜かした凪乃である。

この状況を作り出した、禍神にとっての最大の敵だ。

正確には偶然の産物だが、禍神にそう思えるハズもなかった。


「死ね。」


「止めろ!禍神!」

鵜北の声は届くことはない。拳銃は続けざまに2発発射される。


そして誰もが驚愕した。


木の陰から青年が飛び出したのである。

青年は飛び込むように少女と禍神の間に入った。


2発の弾丸は割り込んだ青年を背中から撃ち抜く。


その場にいた全員が状況を飲み込めず、一瞬の沈黙が生まれる。

「きゃああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!」

豪徳寺(ごうとくじ)ぃぃぃぃぃっっっ!!!」

状況を理解した少女と茂みに隠れていたもう1人の青年の絶叫が響いた。

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