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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【55話】11:00-炎の復讐者

弥彦(やひこ)


動きがあったのは俺たちが潜んでから10分経たない内のことだった。

扉を開けて現れたのは悪の親玉禍神(まがみ)福蔵(ふくぞう)。そして側近の大鵺(おおぬえ)と呼ばれていた男。

何かの間違いで見つからないように更に身を縮める。

正直、飛び掛かろうと思えばそれができる距離だ。


そんな距離なので、当然彼らの会話はよく聞こえる。


「もし金閣(きんかく)町にいるなら13時を待たずに現れるだろう。」

ふてぶてしく笑う禍神はどうやら何かを待っているようだ。

「しかしこの計画、流石に警察も看過できないのでは?」


禍神が警察と何かしらの癒着をしているとは思っていたが、本当の事らしい。

秘書は何かを心配しているようだが、一体それはどんな計画なんだろうか。

どちらにせよ、俺たちはしばらくここに潜んでいる必要がありそうだ。


「何、問題はない。切れる手数は山のようにあるのだ。」

禍神の言うそれはどうせろくでもないことなのだろう。そんな気がする。

ただしそれが何なのかは今は置いておく。目の前の(らん)に集中しなければ。


更に扉から男が一人出てきて禍神と大鵺に肩を並べた。

上下ジャージ姿に茶髪というチャラチャラした出で立ちの男だ。

スーツの2人とは随分と印象が異なる。一緒にいても違和感が凄い。


「ここに呼んだんだ?センセイ、大胆な事するじゃん。」

「【豪徳寺(ごうとくじ)】のガキ相手でもなければこの程度は何の問題にもならん。」

茶髪の男に禍神はさも当然のように答える。この蘭の件も揉み消す気だろう。

勿論、禍神は俺がここにいることを知らない。この件を捻り潰させはしない。


次に事が動いたのは11:00丁度の事である。

塀の後ろから足音と何か物を落としたようなドサッという物音がした。


「……!?」

現れた人物を見て思わず出てしまいそうになる声を殺す。

しかし彼女がどうして今ここに来たのかが皆目わからない。

一緒に逃げていなかったのか?どうやってこの場所を知ったんだ?


「意外そうな顔。そっちが呼んだ癖に。」

現れた凪乃(なぎの)は待ち構えていた3人を見て言った。


「……他の姉妹はどうした?」

「知らない。でも蘭の身柄を引き取るには私一人でも十分。」

禍神の問いに凪乃は一切物怖じしない。


クソ、俺は考えが浅かった。禍神は何かしらの手段で七つ子を呼び寄せたんだ。

蘭は人質として利用されてしまったのだ。それを七つ子が見捨てられる訳もない。

これ程までに罠と見え透いていたとしてもだ。卑劣極まるやり方だ。


「いやあ、純真だねえ。オトナのやり口を知らねえんだなあ。」

茶髪の男はどういう訳か突然に笑い出した。まるで凪乃をあざ笑っているようだ。


「おい、大鵺。」

禍神が声をかけると大鵺はポケットからリモコンを取り出して操作する。

無防備に開け放たれていた正門が大きな音を立てて閉まっていく。

人間が飛び越えるには少し高さが高すぎる。


「もう少し頭の回る奴と警戒していたが所詮はこの程度。ガキよのう。」

禍神はそう言うと脂ぎった笑みを浮かべる。やはり最初から罠だったらしい。

だがこんなところにやって来た以上、凪乃にも何か策はあるのではないだろうか。

少なくとも今こうして退路は断たれてしまった訳だが。


「大人しく来い。そうすればあの女は解放してやる。」

禍神のその言葉の果たしてどこが信じられようか。

その外道めいた手段に俺の拳は怒りで赤くわなわなと震える。

茂布川(もぶかわ)がそれを抑えるように俺の拳にそっと自身の手を重ねる。

落ち着けと言っているのだ。勿論、ここまで来たことを棒には振らない。


「どうせそんなことだろうと思っていた。」


言い放つ凪乃に禍神は不思議そうな表情をするがその余裕は崩れない。

「ならばどうしようというのだ。警察にでも通報するか?やってみろ。」


「そんなことはしない。どうせお前は手を回している。」

凪乃にお前呼ばわりされた瞬間、禍神の顔が怒りで歪んだ。

「よくもそんな口が叩けるな。あの女を返さなくても良いのか?」


「問題ない。すぐでにも返って来る。」

凪乃は恐ろしい程に冷静だ。さっきから一切感情の動きが見えない。

元々こういう感じだったと言われればそれはそうなのだが。

この状況で何故落ち着いていられるのだろうか。


「要は警察が庇いきれない事件が起きれば良い。」

凪乃が言葉を発する度に禍神の余裕は段々となくなっていく。

「強がりを……!何をしようというのだ……!?」


凪乃はペットボトルを取り出し、蓋を開けて自分の頭上で逆さまにした。


その奇抜な行動に俺も茂布川も、そして禍神たちも反応が遅れてしまう。

すぐに漂い出した匂いがその液体の正体を声高に主張していた。

気づいた瞬間に凪乃が何をしでかすかわかってしまい背筋が凍る。


「ガソリン!?」


声を上げたのは大鵺だった。ペットボトルの中身はもう空だ。

既にそこには立ち尽くしている。頭からガソリンを被った凪乃が。

そして頭からガソリンを被った人間がやる次の行動は大抵1つだろう。


凪乃が次にポケットから取り出したのはライターだった。

予想通りだが、最悪だ。

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