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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【54話】全ての運命は金閣町にて

◇◇◇


警視庁捜査第四課課長、鶴央(つるおう)清隆(きよたか)錆仔(さびこ)鵜北(うきた)の押し問答を眺めていた。

二人のそれはなんと1時間以上も続き、遂に結論が出ることはなかった。


時刻は既に10時を回っていた。鶴央は未だ興奮したままの鵜北に声をかける。

「鵜北ちゃん、ちょーっと良いかい?部屋で話したいことがあるんだけどサ。」


鵜北は誘われるがまま鶴央に個室まで招かれる。

鶴央はファイルの中からA4の紙1枚きりの捜査資料を手渡した。

困惑する鵜北に鶴央はその事件の概要を説明し、最後に指示を出す。


「は?今、何と?」

鵜北は鶴央の言葉が信じられなかった

「だからサ、鵜北チーム全員でこの事件の捜査に行ってほしいってんだけど。」


鶴央が鵜北に捜査を指示したのは金閣(きんかく)町で起きたひったくり事件である。

どうやらその犯人に【狗虎會(いぬとらかい)】構成員の疑惑があるらしい。

連続性はなく、金品は無事に戻ってきていてけが人もなし。

ただし犯人は捕まっていない。


普通に考えたらこんなものが第四課に回ってくることすら考えられない。

まだ犯人が【狗虎會】の関係者だと決まってすらいないのだから。

基本的にこれは盗犯専門の第三課の仕事である。


仮に第四課の仕事だとしても鵜北チーム全員というのは不自然が過ぎる。

鵜北チームとは鵜北に鷺南(さぎなみ)鳶西(とびにし)雁東(がんとう)を加えた4人である。


無論、被害者がいる以上は事件に大小などないがこの事件に4人は多すぎる。

実力順で言えば下2人の鷺南と雁東だけに任せても容易に解決してくるだろう。

それをチーム全員に、など鵜北にはその指示がメッセージとしか取れなかった。


「鶴さん、そんなん言われたら俺ア()()()()よ?」

燃え滾る鵜北の目を見て鶴央はコクリと頷いた。

「気ィ付けてね。お土産よろぴく。」


◆◆◆


金閣町に向かう車。大男4人が乗ると狭くて暑苦しい。

それに加えて振動も半端なものではない。


「鷺南、このヤマお前に任せる。雁東と2人で上手くやれよ。」

バックミラーを介して運転席の鷺南を見る鵜北の視線は彼を奮い立たせる。

「了解です。任せてくださいよ。……()()()にいけないのが残念ですけど。」


「お前にゃまだ荷が重ェよ。」

しんみりする鷺南を後部座席から鳶西がケラケラと笑う。


「鳶西、俺たちのヤマだが何か嫌な予感がする、覚悟は決めとけよ。」

「何を今更。そんなもん、第四課(ココ)に配属になった時に済ませましたよ。」

普段の調子で返しはするものの、鵜北の横顔から鳶西は常ならぬ何かを感じ取る。


鳶西は先日の訓練で自分の瞬発力がやや落ちていたことを思い出した。

しかし後の祭り。彼はそれが杞憂であると内心祈るばかりである。


「今日に限って妙に運が悪いですね。交通整理だの渋滞だの。こりゃ向こうに着くの11時ちょっと過ぎちゃいますよ、このままじゃ。」

目の前の長蛇の車列を見ながら鷺南は溜息をついた。


弥彦(やひこ)


茂布川(もぶかわ)に案内されて到着したのは2階建てのオフィスだった。

そこそこの庭がある辺り、元々は一軒家が建っていたのだろう。

恐らく普段は閉じられているであろう正門は何故か開いていた。

俺たちは難なく忍び込み、木の陰に丸まって潜む。


「お前もし閉まってたらどうするつもりだったんだよ。」

「でもラッキーだったな。これで後はあいつらが出て行くのを待つだけだぜ。」

茂布川の作戦は禍神(まがみ)が出て行った後にカチコミを仕掛けるという単純なものだ。

恐らく世間ではこれを作戦などとは呼ばないだろう。


腕時計は10時30分を差していた。


◇E-Mail◇


送り主:(らん)

宛先:愛依(あい)果音(かのん)咲花(さきか)珠希(たまき)凪乃(なぎの)春佳(はるか)真子(まこ)

件名:なし

添付:Photo(1).jpg、Photo(2).jpg、Map.jpg、Voice.mp3


オフィスに無断で侵入した挙句、名誉棄損を働いたご家族1人を預かっています。

本日13:00までに地図の赤丸で囲った部分まで身柄を引き取りに来るように。

場所の詳細については添付ファイル2枚目の写真と地図を参照の事。


添付の音声ファイルの通り、彼女の状態については現時点での無事は保証します。

しかしながら刻限を過ぎた場合については、その身柄の無事を保証致しかねます。


上記事項をご留意頂いた上で賢明な判断を望みます。


◇愛依◇


10時30分丁度に6人全員のスマホが通知音を鳴らした。

蘭からのメールだと喜んで手に取った私たちは一瞬で絶望する。


「クッソォっ!!」

声を荒げて春佳が机を叩いた。

普段なら誰かが注意するそれも今日これに限っては違う。

姉妹全員が春佳の気持ちに共感できるからだ。痛い程に。


文章を読んでいる最中ですらはらわたが煮えくり返って仕方なかった。

私たちの予想通り、蘭は誘拐されてしまっていた。そして人質になってしまった。

禍神は蘭をエサに私たちを誘い出す気だ。勿論これは罠だ。見え見えだ。


でもどんなにこれが罠だとわかっていたとしても。

私たちは指定された場所に行かないなんて選択肢は取れない。

だって蘭は家族だから。見捨てられる訳がない。他に何に代えても。


「パパさん!!今から車出したら金閣町に到着するのはどれくらい!?」

咲花も普段からは考えられない程に声を荒げる。今皆の気持ちは1つだ。

「午後1時ちょい前くらいや。どうしたんやそんなに血相変えて……。」


「じゃあ今すぐに出して!急いで!飛ばして!きっと凪乃もいるから!」


咲花の言葉にメールの宛先一覧を見直す。そこには確かに凪乃の名前もある。

もしも凪乃が金閣町に戻っていたならこのメールを読んでやることは1つだ。

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