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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【52話】それぞれは示し合わせたように(1)

凪乃(なぎの)


深夜2時。山荘に音はない。

パパさんも含めた私以外の全員が寝静まっているのを確認する。


荷物は最低限。スマホと財布だけ。他の大事な物は全て家にある。

情報が足りないなりに進めて来た準備の数々。踏ん切りの付かなかった計画。

もう私は手段を選ばない。この道の先に一切の悔いを残さない。

この復讐で全てに決着をつける。禍神(まがみ)福蔵(ふくぞう)を引きずり下ろす。


そしてこれを今まで傷つけてしまった全ての人への謝罪にする。

愛依(あい)ちゃん、果音(かのん)ちゃん、咲花(さきか)ちゃん、珠希(たまき)ちゃん、春佳(はるか)ちゃん、真子(まこ)ちゃん。

パパさんやママさん、(らん)、そして何より豪徳寺(ごうとくじ)君への。

蟻沢(ありさわ)さん、どうか見ていたら力を貸して。


弥彦(やひこ)


「豪徳寺!豪徳寺!お前もう知ってるか!?」

茂布川(もぶかわ)が病室に駆け込んできたのは朝9時を回る前だった。

その顔を見た瞬間に俺の頭はクエスチョンマークで埋め尽くされる。

今日は月曜日、平日である。本来この時間は授業があるはずなのだ。


「いや何やってんだ、お前。今日学校だろ?」

茂布川の格好は制服だ。鞄も持っている。一度学校には行ったのだろうか?

「バカ野郎!それどころじゃねえんだよ!」


「昨日例の監禁場所に警察は来なかったんだってよ!!」


「どういう……ことだ……!?」

言葉の意味はわかるがどうしてそうなるのかはわからない。

通報されたのに警察が行っていないとはどういうことなのか。

「なあ茂布川、それは間違いないのか?」


「近くに住んでる葉佩屋(はばきや)に聞いたんだ!間違いねえ!」

俺は知らなかったが現場の近くにはクラスメイトの一人が住んでいるらしい。

その辺りの情報の速さは流石と言いたいところだが、事態は急を要する。

「おい茂布川、その場所を詳しく教えてくれ。もう警察には頼るだけ無駄だ。」


「つったってお前、その折れた腕でどうするつもりだよ!?」

立ち上がる俺に茂布川が声をかける。だがそんなことは全く問題ではない。

「じゃあお前、もし今の俺と同じ立場だったらどうしたよ?立ち止まってたか?」


「クソ!このわからず屋が!じゃあ30分だけ待ってろ、その格好じゃ目立つだろ!今服を持ってきてやるから!」

俺の言葉に茂布川はそう返して病室を出て行く。世話をかけてしまった。

こういう時、理解してくれる友人の存在はありがたい。


相手は力を持った政治家だ。警察と癒着している可能性は考慮すべきだった。

おおよそ癒着している警察の上層部の人間の仕業とみて間違いないだろう。

こういうことが横行するのがこの金閣(きんかく)町だ。

治安が悪いと言われても反論などできやしない。事実なのだから。


◇蘭◇


若葉(わかば)が言うには禍神が来るのは日が沈んでからが多いらしい。

嘘をついた訳じゃないだろう。たまたま今日が例外だっただけだ。


禍神が現れたのは朝9時丁度。彼は現れるなり私の胸ぐらを掴む。

「何をするつもり……!?」


「何をするつもり、だと?フン、笑わせるな。やはり知性が足らんようだな。自らの置かれた状況をも理解しえないとは。貴様にはこれから釣り餌になってもらうのだよ。ワシの役に立つのだ、光栄に思え。」


悪党もここまでフィクションめいてると最早笑えてすらくるね。

成程、私を人質に七姉妹を呼ぼうって魂胆な訳だ。でも誰がそんなことやるか。

どんなに痛めつけられようが私は助けなんか求めない。お前の期待には応えない。


「良いのですか、先生。昨日この場所は早速特定されたばかり。場所を移してからでも……。」

「ええい、黙っていろ!そんな悠長なこと言っていられるか!」

側近、大鵺(おおぬえ)の提言を禍神は一蹴する。


今のこの男の一言は少し興味深いかも知れない。特定された?

誰が何のために?もしかして豪徳寺君が気づいてる?

そう思えただけで体に力が漲る。不安が消えていく。


「特定?良い気味だね。じゃあ私は何が何でもエサになんかなってやらない。助けが来るまで沈黙し続けてやる。七姉妹(かぞく)には手を出させない……!」

私を掴んだまま禍神は大鵺の方を振り返る。

「この役立たずが……!余計なことを………!」


それから禍神は次に若葉の方を見やる。

「まあ良い。やりようなどいくらでもあるものだ。」

その声色に私の背中を恐怖が冷たさを帯びて駆け抜けた。


◇◇◇


「何故じゃア!!どうして行かせてくれなんだ!?理由を言えィ、管理官!!」

フロア中に響き渡る大声で管理官・錆仔(さびこ)に詰め寄るは2m近い大男。

警視庁捜査第四課、鵜北(うきた)照弘(てるひろ)その人である。彼はいつにも増して声を荒げていた。

「ここに何かがあるのは間違いないんだ!【狗虎會(ヤツら)】のシッポがあるんだ!」


並大抵の人間ならその剣幕で迫る彼に詰め寄られればノーとは言えないだろう。

しかし海千山千の管理官、錆仔は違う。鵜北の咆哮に眉1つさえ動かしはしない。

「理由を言う義務はない。上司命令だ。捜査令状は出せん。」


その様相は2日目ともなれば遠巻きに見る周囲の者たちの話のタネである。

「鵜北さんがキレてる件って、昨日見つけたって言う金閣町の物件すか?」

鵜北の部下、鷺南(さぎなみ)明良(あきよし)はその喧騒をBGM代わりに書類に目を通す。


「そうそう、【狗虎會(いぬとらかい)】名義のよくわからん物件。武器でも隠してんのかねえ。」

同じく鵜北の部下、鳶西(とびにし)信一郎(しんいちろう)が鷺南に答える。書類の山はまだ減らない。


「錆仔管理官はどうして行かせてくれないんですかねえ。」

鵜北の部下では一番の新米、雁東(がんとう)(たもつ)も手を動かしながら会話に混ざる。

「鵜北さんがこの間チラって言ってたことが本当だったりして。」


「お前それを絶対に俺ら以外の前で喋るなよ。鵜北さんの拳骨マジ痛ェから。」

鳶西は冷や汗をかきながら新米に注意をした。心配しているのは拳骨ではない。

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