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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【51話】蘭と若葉

(らん)


私は絶対にここから出てやる。

入院中の豪徳寺(ごうとくじ)君や逃げ切った七つ子(みんな)には頼れない。


意気込むだけならいくらでもできる。実際、障壁は高い。

部屋の様子は大体確認できた。金閣(きんかく)町の街中なのは不幸中の幸いだ。

見つけてもらえる可能性は少しでも高いことに越したことはない。

となれば残すは、未だに一言も話してくれない()()だけ。


多分、待っていても話してはくれないだろう。

だったらこっちから話しかけるしかない。

協力者は一人でも多い方が良い。

一人きりと二人いるのとでは大違いだ。

目の前に座って目線を合わせて話しかけてみる。


「私は蘭。あなたは?」


俯いていた彼女が顔を上げて私を見る。焦りは禁物だ。

ゆっくりでも確実に心を開いてもらう。協力してもらうために。

長い沈黙が続く。私は努めて微笑んで待つ。


「……若葉(わかば)。」


小さい声ではあったけど、彼女はちゃんと答えてくれた。

後はできるだけ情報も引き出したい。それはとにかく足りない。

それに私が積極的な姿勢を見せれば彼女も協力してくれると思う。

まさかここにいたいとは思っていないだろうし。

私が逃げられるチャンスが来たなら、どうかその時は若葉も。


「よろしく、若葉。ねえ、ここのこと教えてもらえる?」

先程と同じような沈黙を挟んだ後、若葉は確かに頷いた。


質問をするならできるだけイエスかノーで答えられる方が良いのかな。

もしかしたら私に人見知りしてるのかもしれないし。

そうじゃなくても状況が状況。警戒されて当たり前。


「若葉もここに閉じ込められてるんだよね?」

若葉は頷いた。先程より明らかに沈黙が短かった。

良かった。協力してもらえそうだ。


「金色のスーツのおじさん、見たことある?」

若葉は頷く。今度は沈黙の時間が殆どなかった。

そして彼女の返答で状況の輪郭が少しずつ見えて来た。


「私をここに連れて来たのはその人かその人の仲間、なのかな?」

首肯。

「……もしかして若葉もその人に連れてこられた?」

再び首肯。


私をここに連れて来たのは禍神(まがみ)で間違いない。

関係性はわからないけど若葉も禍神に連れてこられたらしい。

禍神の病室での振る舞いや凪乃(なぎの)の話を思い出す。

きっと若葉もあの災害のような邪悪の被害者だ。


「若葉がここに閉じ込められたのは最近?」

少しだけ長い沈黙。イエス・ノーでは答えにくい質問だったかな。

“最近”の定義なんて曖昧だもんね。質問、変えた方が良いのかな。


「……一週間前。」


彼女は自分の言葉ではっきりと答えてくれた。

着実に心が開いている。そう信じたい。


一週間ということは大して情報を持っていない可能性もある。

それならそれで仕方ない。でも一週間の差はこの状況では小さくない。


「金色のスーツのおじさんっていつもこの家にいる訳じゃないよね?」

禍神の肩書は政治家だ。あくまでここは裏の拠点ではないだろうか。

しかし私たちを監禁している以上、どこかに監視の目はあるハズ。

カメラの類は部屋の中には見当たらないけど。


「……何日かに一度、来るだけ。でも……。」

若葉はまたも言葉で答えてくれた。聞き洩らさないように耳を傾ける。

彼女が私にくれる情報は命綱だ。そしてそれは彼女がかき集めたものだ。


「1階にはいつも一人いる……。ここの扉を開け閉めする人……。」


成程、その人が私たちの監視役か。何となく状況が整理できてきた。

正直あとの細かいことは想像はできるけれど、一応確認しておく。

「一週間ここにいるってことは、その間に何か飲み食いしてるんだよね?」


若葉は私の問いに頷き、そして答える。

「……いつも決まった時間にパンを持ってくる。今日はあと1時間後くらいに。」


「トイレとかお風呂もその人?」

若葉は首肯する。つまり生活は完全にコントロールされているということか。

送れないよりは断然マシ。この状況ではそう考えるしかない。


若葉が大分話してくれるようになったところで私は目的を明かす。

「若葉、私ここから逃げたい。協力してくれる?」

若葉は私の目を見てハッキリと頷いた。


◆◆◆


若葉がさっき言った“あと1時間後くらい”、19:30きっかり。

扉の鍵を開け、男は部屋に入って来た。上下ジャージ姿の若い男だ。

茶髪やら金のネックレスやらTシャツのガラやら歩き方やら。

漂わせる第一印象は如何にもチャラついたチンピラだ。


「へえ、起きたんだ。」


若葉の言っていた監視役はこの男で間違いないだろう。

「私を攫ってどうするつもり?私、【豪徳寺】の関係者だけど。」

内心で豪徳寺君に謝りつつ、威圧には一番効果がありそうな名前を出してみる。

加えて思いっきり睨みつける。私はこいつらの思い通りにはならない。


「おーおー吠える吠える。別にお前の身分なんか俺は知ったこっちゃねーよ。何か聞きたきゃ禍神センセイが来た時にでも聞くんだな。おら、食っとけ。」

男はコンビニで買ったであろう菓子パンを2つ投げて扉を閉め、鍵をかける。

こんなものでは足りはしないけれど、貰えるだけありがたいと思っておこう。


あのチンピラの台詞からして、今は禍神はここにはいない。

若葉の説明が全て合っているならこの家にいるのは私たち以外では彼だけだ。

「ねえ若葉、もし今ここに他に彼しかいないならそれってチャンスじゃない?」

私の問いに若葉は初めて首を横に振って否定した。


「……彼、銃を持ってる。」


「そっか…。」

若葉が私に嘘をつくメリットはないと思う。

この日本では現実離れした話だが、それは本当だと思っておいた方が良いだろう。


この閉鎖された環境で丸腰の女子が二人と銃を持った男が一人。

パワーバランスは歴然だ。遠くなった気がする脱出に私は肩を落とした。

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