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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【50話】蘭の監禁

弥彦(やひこ)


「悪い、茂布川(もぶかわ)。恩に着る。」

「良いってことよ。ダチのピンチなんだからよ。」


茂布川の父親は流通業界大手【茂布川通運】の父親。

彼に頼んでドライバーたちに探してもらおうという判断らしい。

きっと尋常ではない数で探してもらえるはずだ。吉報を信じたい。


「こういう時、警察(サツ)じゃあ足が遅くていけねえからよ。」

茂布川はこの方法に自信を持っているようだ。頼もしい社員たちなのだろう。

「実際どれくらいで見つかりそうなんだ?3日、いや2日でどうにかできそうか?こういう事態だし時間はかけたくない。無茶かもしれないが……。」


「プッ!」

俺の問いに茂布川はおかしいとでも言いたげに笑う。

「2日だの3日だのバカ言ってんじゃねえ。遅くて半日だ。」


流石に半日は早すぎるように思うがそれ程までの自信ということだろう。

そして俺がこの表現を誇張ではなかったと知るのはそこから僅か15分後だった。


茂布川のスマホに一気に3件もの通知が同時に連続して届いたのである。

「どれどれ…お!良かったな豪徳寺(ごうとくじ)。見つかったってよ、車。」

「半日どころか30分も経ってないぞ……。」

その速さには驚きを隠せない。


「ドライバーが警察に通報したから、もう大丈夫だな。」

そう言って茂布川はニカッと笑う。なんて頼もしい友人だろう。


(らん)


「うっ……!?ここは……?」

背中に少し痛みを感じながら少しずつ意識がハッキリしていく。

ゆっくりと目を開く。見覚えのないどこかの部屋だということはわかった。


病院を出たところまでは覚えている。しかし床で寝かされていた。

自分の置かれている状況が飲み込めない。

「何……?どういうこと……?」


正直、自分が今眠っていて夢を見ていると言われた方が納得できる。

しかし眠っているなら記憶がすっぽり抜け落ちているのはわからない。

何より少しずつ回る頭や視界の現実味がここを夢の中ではないと告げる。


「起き……たんだ……。」

「ひゃっ!?」


不意に後ろから聞こえた声に驚いて振り返る。

ただでさえ訳の分からない状況ではこんな些細な事さえいつもの倍は怖い。


そこにいたのは女の子だった。多分、年は私と同じくらい。

長髪や目元まで伸びた前髪は長い間手入れされてないことを伺わせる様相だ。

服もボロボロ。よく見えにくいが片方の目にある大きな青あざは痛々しい。

細い手足も無数のあざや瘡蓋に覆われている。明らかに暴力の跡だった。


彼女は部屋の隅で体育すわりをしたままこちらを見ていた。

他に音がない環境なので結果彼女の声がよく聞こえたらしい。

多分、自分の部屋では聞き取れないくらいの音量だっただろう。

私の驚きに彼女は反応を返さなかった。死んだ魚のような目で見ているだけだ。


「ええと…ここはどこ?あなたは…?」

私より彼女の方が先にいたならここのことは彼女がより詳しいだろう。

私は今右も左もわからない状況だ。わからないことは聞くしかない。


「……。」


彼女は答えないまま俯いてしまった。

しかし彼女の様子を見ているとそれを無理やり聞き出す気にはなれない。


それにしても情報は必要だ。余りにも不足している。

彼女が話し出すまで自分で最低限できることをしておこう。


窓の外の景色は暗くなっている。私が病院を出た時点からかなり経ったらしい。

夜の色と同化して見にくいが窓には鉄格子が取り付けられている。

幸い、遠くに『ビッグモール』が小さく確認できて安心した。

少なくともここは金閣(きんかく)町で間違いないみたいだ。


部屋の扉には外側から鍵がかけられていた。果たして蹴破って良いものか。


……いや、どう考えてもそれはちょっと待った方が良いかも。

この扉に鍵がかかっていて窓には鉄格子がある。それが意味するものは何か。

今の私と眼鏡の彼女はこの部屋に閉じ込められている状態だということ。


私たちは今、監禁されている。


つまりこの部屋の外には私たちを監禁した人がいる可能性が高い。

となれば流石に蹴破るなんて行動は悪手も悪手だ。


スマホはない。当たり前だけど抜き取られていた。

財布の入ったカバンも盗られてしまったみたい。

ないと困るのは確かだけど、現状命があっただけでもありがたい。


私がこうなった心当たり。思い出すのはやはり日中の騒動。

七姉妹(かぞく)の敵、禍神(まがみ)福蔵(ふくぞう)に私は掴みかかった。

そこから自然に考えるなら私は彼らの私兵の手にかかったのかな。

悪徳政治家が自らの悪行を知る人間を始末するなんて、まあ当然……だよね。

殺されていないのが不思議なくらい。


監禁されているから当然なんだけど、現状は八方塞がり。

今の私にできることはジッと転機を待つことだけ。

勿論、されるがままだなんて死んでもゴメンだけど。


愛依(あい)


何度もかけ続ける電話。向こうから出てくれる気配は一切ない。

やっぱり私たちを逃がしたあの時、蘭は……。


「蘭ちゃん、まだ出えへんのか……。」

パパさんも私の顔を見て察する。

「うん、出てくれない……。」


「私のせい。」

車の中から一切言葉を発さなかった凪乃(なぎの)が初めて口を開いた。

「違うわよ。あなたのせいじゃない。」

自分を責める凪乃の言葉を果音(かのん)が即座に否定する。

私も、他の姉妹(みんな)もわかってる。凪乃は悪くない。

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