【47話】対峙・本当の敵
◇弥彦◇
日曜の昼下がり、愛依、果音、真子、蘭、そして龍さんがお見舞いにやって来た。
昨日の凪乃の件もあるし誰かには来てもらいたいと思っていたので助かった。
5人全員が浮かない顔をしているのはきっと同じ理由だろう。
「お久しぶりです。来ていただいてありがとうございます。」
俺はそう言って龍さんに頭を下げる。
「いや、礼を言うんはこっちの方や。でも、その前にな……。」
龍さんは微妙という言葉が余りにも似合う面持ちで俺を見る。
怒っているようにもそうでないようにも見える。
「豪徳寺君、君は禍神福蔵とはどういう関係なんや。」
いきなり本題に切り込んできた。話が早くてありがたい。
そしてその質問に対する答えは1つしかない。
「昨日彼が1度面会に来ました。それが初対面です。」
昨日の凪乃みたく豹変するだろうか。だとしても他に答えようがない。
俺の懸念をよそに、5人の目は俺の答えを聞いた途端に見開かれる。
「……自分、それは本当なんやろうな?嘘ちゃうよな?」
龍さんが念を押すように聞いてくる。
「嘘をつく理由がありません。早々にお引き取り頂きました。」
龍さんの目を見て答える。なるべく思いが伝わるようにと。
彼は俺の答えにハッとした顔を浮かべた。
伝わっていると思いたい。
俺は更にテレビ台の引き出しから禍神の名刺を取り出す。
もしかしたら説得力を増してくれるアイテムかもしれない。
「これを。昨日渡された彼の名刺です。」
龍さんはそれを受け取りまじまじと見つめ、そして呟く。
「……うん、間違いないな。」
「……ってことは結局、凪乃の勘違いだったってこと、だよね?」
俺と龍さんのやり取りを横から見ていた真子が口を開いた。
……勘違い?凪乃は何か勘違いをしていたのか?
何にせよ誤解が解けたらしいのは良かった。
「ああ、せや。うん、ワシは自分を信じるで。」
俺にそう言う龍さんの顔は付き物が取れたように晴れやかだった。
成程、部屋に入って来た時点で彼らは俺に何か疑惑を持っていたらしい。
それがどういうものかはともかく、少なくとも今解消されたようだ。
愛依、果音、真子がそれぞれに顔を見合わせて胸を撫で下ろした。
「勘違いで良かったぁ~っ。」
「うん、本当に。」
「じゃあ姉妹にも言わなきゃね。特に凪乃には。」
愛依は心底嬉しそうだ。
果音は涙を浮かべていた。そんなに重い疑惑だったのか。
真子は早速スマホを取り出してメッセージを打ち始める。
「それがどうかしたか……って凪乃に答えたのは何だったの?」
質問は蘭。その表情を見るにもう俺を疑ってはなさそうだ。
そして彼女が出した俺の答えは凪乃を豹変させたものだ。
蘭の口から今一度俺の答えを聞いて俺の中で点と点が繋がった。
成程、この答えは疑惑を持った人間には間違って受け取られるよな。
どうやらこれが俺のミスだったらしい。不親切だったと猛省する。
「この部屋から禍神福蔵が出て行くのを見たって言われたから、俺はそうやって答えた。そしたら凪乃、目に見えて怒り出して、挙句には泣き出してな。俺の答え方が悪かったよ。」
「何それ。完全に凪乃の早とちりじゃない。全くあの子ったら。」
「でも凪乃の気持ちを考えたらね…。今回は勘弁してあげてほしいなあ。」
果音は俺を擁護してくれた。愛依は俺に容赦を求める。
「勘弁も何も、別に俺は怒ってないから良いんだけどさ。」
誤解は誰にだってあるものだ。そんなものを一々怒っていてはキリがない。
一番忌むべきは凪乃ではなく誤解そのもので、そしてそれは解消された。
一段落付いた所で俺からも聞きたいことがある。
そう言おうとした時、病室のドアがノックされた。
「……?どうぞ。」
扉を開いて現れたのは、今このタイミングで一番会いたくない男だった。
◇禍神福蔵◇
「なっ……!?」
思わず声を上げてしまった。ワシは夢でも見ているのか?
「よ、ようオッサン、久しぶりやな。何しに来たんや、ドアホ。」
腹立たしい夢原龍の憎まれ口すら、この光景では有象無象の雑音。
「織姫愛依、そして七つ子……!!」
知らない女が一人いるがまあいい。
凪乃以外との顔合わせは初めてのハズだ。しかし彼女らはワシを睨む。
手を回していない方が不自然と言うべきだが、やはりこうなってしまったか。
豪徳寺のガキも同じ目をしている。入れ知恵か。余計なマネをしてくれる。
「あんたが……禍神!!」
愛依はワシを殺さんが勢いで見やる。やはり躾がなっていないのは変わらんか。
「凪乃と一緒か。礼節を教わらなかったようだな。目上に対する口の利き方を。」
恐らくもう何も隠す必要はない。だとしたらやりやすいものだ。
手段に気を遣うのはまどろっこしくて好かん。わかりやすい方がワシも好みだ。
暴れたとてこの病院での出来事など幾らでも書き換わる。
「おい大鵺、【狗虎會】に人を集めさせろ、今すぐにだ。ここに呼べ。」
「御意。」
6月から8月まで話数整理の為、金曜日に加え日曜日も更新します。
※5月31日追記
次回更新は6月7日(金)になります。
よって6月2日(日)の更新はありません。
日曜日更新は9日(日)以降の週になります。
紛らわしい書き方をしてしまい申し訳ありません。




