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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【46話】対峙前夜・見えざる弥彦の真実

(らん)


重い空気を抱えたまま凪乃(なぎの)の話は終わった。

特に最後の言葉が効いた。何も言い返せなかった。


果音(かのん)の言う通り、凪乃が嘘をついているとは思わない。

そもそも今まで世話になっていた訳だし、大切な人だし。

勿論、私が七つ子(みんな)背景(バックボーン)を共有していないことはあるかも知れないけど。

それでもやっぱり、胸の違和感は拭えない。


私の信じる豪徳寺(ごうとくじ)君が真なら凪乃の発言は嘘になる。

凪乃の言葉が真実なら豪徳寺君の今までの優しさが嘘になる。

どちらも真実というのは有り得ない。矛盾してしまう。

私は何を信じれば良いんだろう。何が正しいんだろう。


ベッドに突っ伏して考える。考えているフリかも知れない。

現に頭の中はゴチャゴチャこんがらがって何も纏まらない。


何もしていない。何もできていない。何度も右往左往する思考。

時間ばかりが過ぎていく。体力だけが消耗していく。

他の何をも伴わずに。何も思いつけないままに。


「蘭、まだ起きてる?」

不意に部屋のドアをノックする音。それは果音の声だった。


「悪いわね、こんな時間に。」

果音に加えて愛依(あい)真子(まこ)の合計三人。いつも一人の部屋が狭く感じる。

その用事は、まあこのタイミングなら考えうるものは1つしかないか。


「ねえ蘭、明日この4人とパパさんで豪徳寺君のお見舞いに行きましょ。」

凪乃の話の最中ずっと沈んでいた果音はもうそこにはいなかった。

その言葉の調子はすっかりいつも通りの姿だ。


「直接聞きに行くってこと?」

「だって他に何かできる訳じゃないでしょ?」

確かに果音の言う通りかも知れない。今のままでは進展はない。


「私ね、もしかしたら凪乃は何か勘違いしてるんじゃないかなって。」

そう言うのは愛依。実際にその因縁の男を見た彼女が言うのは興味深い。

「私も凪乃も別にその禍神(まがみ)って奴と豪徳寺君の会話を聞いた訳じゃないし。」


「凪乃、ああ見えて突っ走るタイプだしね。」

愛依の言葉に真子が続く。実の姉妹が言うなら確かに可能性は見えてくる。

と言うより、私たちが信じたいものは恐らくその可能性の中以外にはない。


「でもそしたら豪徳寺君の台詞は何?どうかしたか……って。」

凪乃が最後に口にした、多分皆の中に一番引っかかってる台詞。

私の中でもずっとそれが喉奥の魚の骨みたいに取れないでいる。


「それも含めて、聞いてみるしかないんじゃない?」

果音の気丈な振る舞いとその笑顔に何だか心が晴れる気がする。

恐らく凪乃の中では決定打として作用したであろう豪徳寺君の答え。

でもそれがもし、凪乃の思い違いだったとしたら。そうあってほしい。


弥彦(やひこ)


今の俺の状況が嫌になる。わからないことを調べられない。

ただこのベッドの上で悶々と一人悩むことしかできない。

悩んだところで都合よく答えが見つかる訳もない。

凪乃のあの表情が脳裏を何度も過る。それだけだ。


明らかに俺へ向けられた不機嫌。そして激昂と涙。

そこに関連しているらしいのはかの禍神(まがみ)福蔵(ふくぞう)

愛依と凪乃が来る直前まで俺の部屋にいた男。


やはりわからない。

1つ1つの点が点のままで繋がらない。


「嘘だったんだ……!全部……!全部……!この為だったんだ……!」

「友達だと思ってたのに!味方だと思ってたのに!君だけは!なのに!」

何も思いつかないままなのに凪乃の台詞が頭の中でループする。


凪乃視点で見た時、俺は何やらとんでもないことをしたらしい。

それこそ、細々と培われていた友情が一瞬で崩れてしまうようなことを。

それ程のことなのに、俺にはそれが何のことか一切わからない。見当もつかない。


唯一わかっているのは禍神が関係しているらしいという事だけ。

だからと言ってまさか禍神に会う気などは毛頭ない。

会いたくないというのもあるが、信用できない。


何が悪いのかわからない以上、謝るという行動も取れない。

中身のない謝罪は空虚だ。外面だけのハリボテだ。

俺は凪乃にそんな謝罪をしたくない。

無論受け取ってはもらえないだろう。


結果、俺は今ここで何もわからないまま立ち尽くしている。


明日は日曜日。七つ子の誰か、或いは蘭が見舞いに来てくれるだろうか。

もし来てくれたならその時は凪乃のことを相談したい。


◆◆◆


「……さない。」


誰かの声がする。聞いたことのない声だ。

しかし何故か俺がその声を聞くのは初めてではないという気もする。

何やら怒っている声だ。一体どこからする?


「……さない。」


そうこうしている内にもう一度したその声。

ここは真っ暗で前が見えない。右も左もわからない。

嫌な予感がして走る。とにかく我武者羅に走る。


「……さない。」


誰の声かはやはり思い出せない。どうして忘れているんだろう。

こんなに透き通るような声を。どうして俺の世界からなくなったんだろう。


わからない。何もわからない。ここでも俺は何もわからない。

なのにこのままではいけないという気持ちはとても強くある。

取り返しがつかない事態が起こる。確証はないがそんな予感がある。


今の俺にできることは走ることだけだ。何故か足に痛みはない。

だから走る。何かが見えるまで。或いは、何かにぶつかるまで。


パン!


銃声!?

今の銃声はどこから聞こえた?一体何が起こっている?

わからない。今の俺には走ることしかできない。

俺は何をすれば良い?頼むから誰か教えてくれ…!


「許さない。」

……!?

お前は……誰だ!?


パン!


……!?

「……これは……夢?」

飛び起きるとそこは再び病室のベッドの上だった。

どうやら妙な夢を見たらしい。悪夢に縁が尽きない。


声の主の女の子は最後の最後に一瞬だけその姿を見せた。

金髪に碧眼、白い肌の外国人の幼い女の子だった。

勿論、俺にそんな知り合いはいないハズだ。


しかし何故か俺はその顔を初めて見た気がしなかった。

どこかで会ったようなことがあるかも知れない。

だが、だとしたら忘れてしまうものだろうか。


後味の悪い夢だった。

何せその女の子の目や口からは血が流れていたのだから。

そして彼女は涙を流しながら俺を睨んで言うのだ。

「許さない。」と。


その表情は凪乃と重なる気がした。

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