【45話】凪乃の暴露
◇◇◇
「今日の態度、後でちゃんと説明してくれる?」
病院から家路に向かうバスの中、愛依は隣の凪乃を見た。
「わかってる。全部話すよ。でもパパさんが帰ってきてからね。」
七姉妹の父親、夢原龍は今日この金閣町に来ることになっている。
理由は簡単。明日果音と共に果音の恩人たる弥彦の見舞いに赴くためである。
無論まさか凪乃と当の弥彦が拗れた状態になっていることは知る由もない。
「お土産買うて来たでぇ~。」
呑気な声と共に夢原龍がやって来たのは19時を回る少し前の事である。
彼は悪の元凶禍神福蔵、そして相対する凪乃の関係については把握している。
しかしまさか今日その話をされるなどとは思ってもいなかっただろう。
◇凪乃◇
夕食の後、まだ全員がリビングにいる内に私は口を開いた。
「パパさんも含めて、皆に共有しておきたいことがある。聞いてほしい。」
正直、言うのは心苦しかった。
今回の件でより一層皆が彼に好印象を抱いたことは想像に難くないから。
でも言わなければいけない。どうしても。そのジレンマに怒りがこみ上げる。
積み上げた私たちの信頼をあざ笑って禍神と結託したあの裏切り者に。
敵対するは吐き気を催す程の邪悪。思わず奥歯を噛み締める。
まずは姉妹と蘭に私がこれまで隠していたことを話した。
禍神との出会いから奴のこれまでの所行の数々を包み隠さず全て。
信じてもらうことは難しいことではない。私の予想通りだった。
全てではないにしろ事情を知っているパパさんがいるからだ。
そして何より、この作業は今までの理不尽や不可解への答え合わせだからだ。
愛依ちゃんのバレーの事。私の不自然な頭の怪我の事。
蟻沢さんの体調の事や【ありさんのいえ】の食事の事。
小学生の転校直前、私たちが先生たちから避けられていた事。
事情を知った皆はそれぞれに大きなショックを受けていた。
この後もう1つショッキングな事を話さなければいけないのが申し訳ない。
「どうしてそんなこと今まで黙ってたのよ!?」
思わず泣きだす愛依ちゃんの隣で私に怒り出す果音ちゃん。
「でもこれを聞いたら果音ちゃん、誰かに相談したでしょ?」
果音ちゃんの方を見、それから咲花ちゃんの方を見る。
「当たり前じゃない。逆にそれをしない理由があるの?」
聞いてきたのは咲花ちゃん。私は彼女の問いに頷く。
「もしかしたらそれが禍神への刺激になるかも知れない。そう思ったから。」
一番刺激して怒りを買っているであろう私が言えたことではないけれど。
当時、中学生ながらに出した結論。今でも間違ってなかったと思う。
そしてそれを高校生の今、こうして言えて良かったと思う。
今言えなかったら、多分この先も言わなかっただろうから。
「で、どうしてそんなこと今更言う気になったのよ。」
怪訝な表情で私を見る珠希ちゃんの質問に答える。
「それには理由がある。寧ろそっちが本題だと言っていいくらい。」
どちらかといえばこっちの方が信じてもらいにくい話だ。
それでも信じてもらわなければ困る。いくら残酷だとしても。
だってこれは紛れもなく私たちの身に降りかかった現実だから。
「今日、豪徳寺君の病室からその禍神が出てくるのを見た。」
私の言葉に全員の顔が驚愕に染まった。
あの話をした以上、これは必然。
「見たよね、愛依ちゃん。」
私の言葉に愛依ちゃんが微妙な表情のまま頷く。
それを見た皆の表情はより一層強張る。
発覚した身近な地雷の存在に。
「どういうこと?」
「つまりその、豪徳寺君は……。」
春佳ちゃんが眉をひそめる。真子ちゃんは言葉を濁す。
恐らく真子ちゃん自身も完全には信じられていないようだ。
勿論、無理もない。
「しかしそうなると厄介やな。何がどうなってるかわかったもんやないで。」
パパさんも重々しく口を開く。その眉間には深く皺が刻まれている。
それには勿論、裏切り者に対する怒りもあるだろう。
「パパさん、私はすぐに何かが動くとは思わない。今まで手を出そうと思えばそれができる瞬間なんていくらでもあった。それをしなかった理由はわからないけど、何にせよ今ああして入院している彼がすぐに何かできるとも思えない。」
内通は確実。恐らく彼が担う役割は監視役。では二人の関係性は?
どこで知り合ったのか。いつ知り合ったのか。わからないことは多い。
ただし現状から鑑みるにただの上下関係という訳ではないと思われる。
考えてみれば一国会議員とて日本一の大企業の御曹司と上下関係は結べまい。
ということはつまり、何かしらの取引をしている関係ということになるのかな。
私たちはどういう手札?そもそも今の禍神の目的はあの時と同じ?
それがわからなければどれくらいの余裕があるかはわからない。
詳細を知るために探りを入れてみる必要はありそうだ。
「私は信じない。」
私とパパさんの間に刺すように鋭く言い放った。蘭だ。
反論してきたことそのものは予想通りだった。
寧ろここまで大人しく聞いていたのが意外だ。
「果音もそうでしょ。」
蘭の言葉に穏やかでない表情を浮かべていた果音ちゃんも頷く。
「……勿論よ。でも…凪乃の言葉が必ずしも嘘だとも思えない。」
「凪乃だって自分の目で見たじゃん。血塗れになっても果音を探してる豪徳寺君をさ。そんな人が私たちに何か仕掛けてこようとしてるってどうして思えるの?」
蘭の言っている言葉の意味はちゃんとわかる。私もそれを信じたい。でも。
「自分の目で見たものを信じろと言うなら、正に私は今それをしている。」
私は間違いなく見た。悪夢にまで見るようになった禍神の姿を見間違えはしない。
私の言葉に蘭の表情が歪む。私だってずっとその姿が引っかかってるんだ。
「それに本人に聞いたら、さも当たり前みたいにそれがどうかしたか……だってさ。」
次回は2話同時更新になります。




