【41話】果音との再会
◇弥彦◇
七つ子と蘭が来たのはその日の午後2時頃。
いずれ来てくれるとは思っていたが、随分と早い。
しかし問題は俺を見つけるなり果音が飛び込んで来たことである。
「豪徳寺くぅぅぅぅぅん!!」
突然俺に襲い掛かってくる彼女の全体重とそれが伴う衝撃。
至極当然のよう俺の全身には稲妻の如き激痛が走る。
「ぐおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」
慌てて引き剥がしにかかる他の姉妹と蘭。
引き剥がされた頃には俺は息も絶え絶えだ。
本当に勘弁してほしい。死ぬかと思った。
続いて病室内に咲花の怒号が響く。俺の体にも響く。
「もう!悪化したらどうするのよ!このバカ!」
「だって…!!だってぇっ…!!」
顔をぐちゃぐちゃにして泣く果音。
しかし俺はそんな彼女を見ながらとても安堵していた。
聞いてこそいれど実際に彼女の無事をこの目で確かめられたのだから。
「無事で良かった、果音。」
「う…うええええぇぇぇぇん!」
俺の言葉に止まりかけていた涙はまたも溢れ出してしまったらしい。
俺のベッドに突っ伏して彼女は大声で泣き始める。
「そんな体でよく人の心配できるよね。元気そうで良かったけど。」
呆れているらしいのは蘭。彼女にも心配をかけてしまったな。
「元気なもんかよ。全身痛くてまともに動けやしねえっての。」
見せびらかすようにギプスに包まれた左腕を少しだけ浮かせる。
「これも利き腕じゃなかっただけ良かったけどな。」
全身打撲と左腕の骨折。今回の事件で俺が負った怪我だ。
経験がない訳ではないが、そうは言ってもやはり辛いものはある。
「何か力になれることがあったら言ってよ、私たち、何でもするから。」
俺にそう言う愛依の表情は険しかった。しかしその言葉はありがたいものだ。
「悪いな。まあ、しばらくはここで寝てることになりそうだし、こうやって会いに来てくれるだけだって寂しさが紛れて助かるよ。」
「そう?じゃあ毎日会いに来る!」
顔を上げて俺の言葉に答えたのは泣き止んだらしい果音。
「お前、毎日ってな……。平日は学校もあるし、それにここに来るにはバス代だって掛かるだろ?別に気が向いたらで良いよ。それこそ、何かのついでとかで。」
「ううん、毎日来る。」
果音の目の中にメラメラ燃える炎が見える。
これは多分何を言ったって来るだろう。さっきの俺の言葉は迂闊だったか?
本当に気持ちはありがたいし、だからこそそれを無下にしたくもないのだが。
「まあその…無理をしない範囲で頼む。」
「ちょっとは気を遣いなさいってば。恩人なんだから。」
勢いづく果音を嗜めるのは咲花。彼女は横目でそう言った後に俺の方を向いた。
「本当にありがとうね、豪徳寺君。今回のこと、感謝してもしきれない。」
「私からも。本当にありがとう。あなたがいなかったらどうなっていたことか。」
咲花の言葉に続いたのは珠希。珠希のこんな真面目な表情も珍しいな。
「何、そんなに大したことじゃないさ。」
「いやいや、十分に大事でしょ。…実際そうなっちゃった訳だし。」
溜息をつきながら凪乃が言う。確かに小さい怪我ではないけどな。
「この恩、きっといつか必ず返させて。返しきれるかわからないけど。」
「その言葉だけで十分だよ。何ならタダで受け取っといてくれ。」
「え?何かくれるのか?」
何かを勘違いしたらしい春佳の後頭部に即座に真子のハリセンが振り抜かれる。
乾いた一撃の音が病室内を駆けた。相当のダメージが入っただろう。
事実、春佳は打たれた場所を抑えて床で悶えている。
「あ、そうだ。私お見舞い持って来たんだった。暇してるだろうと思って。」
足元の呻く六女を完全にスルーして真子は鞄の中からゲーム機を取り出す。
それは数年前に爆発的に流行ったものだった。今でも根強いファンは多い。
なんでも上下2つの画面と下の画面を触って操作できることが特徴らしい。
「ソフトも色々持ってきたの。私はもう全部やっちゃったから。」
パカッと真子が開いたケースにはたくさんのカセットが並んでいた。
それこそ、俺でも名前を聞いたことあるようなタイトルからそうでないものまで。
「そういうことならお言葉に甘えて借りさせてもらうわ。ありがとな。」
入院中1人でできる暇つぶしというのは本当にありがたいものだ。
これがあるのとないのでは天と地ほどの差があると言っても良い。
「あら、そういうことなら私も次に何か持ってきてあげようかしら。」
俺と真子とのやり取りを見て珠希が何を思ったかふと口にした。
しかしそんな彼女を見る姉妹たちの目は一様に怪訝である。
その様子に俺は嫌な予感を感じないではない。
「一応聞いてあげるけど何を持ってくる気?」
問う咲花はまるで彼女がロクでもない物を持ってくると決めつけているようだ。
「何って、そりゃあ…ねえ?」
珠希は何故か俺を見て笑う。本当に何を持ってくる気だ。
「ここに寝たきりじゃ溜まっちゃうだろうし、オカズは必要よね?」
そう言って舌なめずりをする珠希。何のジェスチャーだ。
「却下。」
考えるよりも先にその言葉が出た自分の喉を誉めたい。
俺の言葉とほぼ同時に真子のハリセンの強烈な一撃が珠希に叩きこまれる。
「痛アっ!!」
「必要な物があったら何でも言ってよ。私は毎日ここに来られるから。」
そう言って蘭は微笑む。実際この中で最も手間を取らせるのは彼女だろう。
「蘭には特に面倒かけちまうな。悪い。」
「ううん、当然のことだから。」
蘭の笑顔にどこか体中の痛みが和らぐ気さえする。
こんなに心配してもらえるだなんて、俺は本当に幸せ者だ。




