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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【37話】弥彦、搬送

咲花(さきか)


スマホが鳴ったのは朧井(おぼろい)さんが帰ってすぐのことだった。

画面に表示されている名前は凪乃(なぎの)

全く同じタイミングで果音(かのん)のスマホも鳴り始める。

そちらには六女、真子(まこ)の名前が表示される。


果音はまだ電話に出られそうな状態ではなかった。

そして何より同時に鳴り始めたことに嫌な予感がする。

私は珠希(たまき)と顔を見合わせた。


私は自分のスマホを、珠希は果音のスマホを取って通話を始める。

「凪乃?どうかした?」


「咲花ちゃん!?豪徳寺(ごうとくじ)君が血だらけで、それと果音ちゃんが……!」

「豪徳寺君が見つかったの!?大丈夫なの!?」

凪乃の用事は待ちかねていたニュースの1つだった。

血だらけ、という言葉に思わず私も動揺してしまう。


「えっと、(しずく)が救急車を呼んだ。でも大丈夫かどうかはわからなくって。それと果音ちゃんの名前をずっと呼んでるの……!どうしよう……!?」

「落ち着いて、凪乃。果音は今ここにいるわ。無事よ。」

「本当!?ああ、良かった……。」

私の言葉に凪乃は電話の向こうで安心したみたい。


反対に私は凪乃の言葉に胸が苦しくなった。

豪徳寺君が傷つきながらも果音の名前を呼んでいた。

救急車を呼ばれるような状態で商店街まで果音を追ってきた。

果音を守ってくれた彼が苦しんでいるのが辛くて堪らない。


電話口の向こうから救急車のサイレンが聞こえて来た。

「救急車、誰か付き添いで行ってあげられるの?」


「私が行く。」


力強く答えたのは凪乃ではなく(らん)

「凪乃、蘭に何かあったらすぐ私に連絡するように言って。」

「蘭、今の聞こえてた?任せても、良い?」

「聞こえた。大丈夫。」


蘭の返事は頼もしい。彼女自身だってきっとショックを受けたのに。

いいや、寧ろ凪乃や真子なんかよりもそれは絶対に大きいハズ。

というよりも、だからこそ、なのかな。


電話口の向こうからざわついた音の数々だけが伝わる。

豪徳寺君と付き添いの蘭が乗ったらしい救急車のサイレンが再び鳴りだす。

そしてそれが足早に去っていったのがサイレンとエンジンの音で把握できた。


「咲花ちゃん、私たち今から帰るよ。」

「うん、わかった。気をつけて帰ってきて。果音のこともあるから。」


◆◆◆


しばらくして凪乃と真子が帰って来た。雫も来てくれたみたい。

「救急車、呼んでくれたんだってね。ありがとう、雫。」

「いやいや、礼には及ばないのであります。」


「それで、果音ちゃんは……。」

凪乃は果音の方を見る。椅子に座ってうなだれている。

泣き止んだのも僅か数分前の話だ。


「ねえ、本当に大丈夫なの?」

心配する真子に果音は頷きで返す。

「果音、自分で…話せる?」

酷な質問だったかもしれない。でも当事者はここに果音しかいない。

果音もそれをわかっているようで、またも頷きが返ってきた。


「私……道端で、襲われたの。」


果音はそうやって話を切り出した。

私や珠希は朧井さんから聞いているから何があったかは知っている。

それでも当人の口から聞かされると重みが違う。

色んな感情が湧いてくる。怒りと、恐怖と、悲しみと。

口を開けば出てきてしまいそうなそれを奥歯で潰す。


果音は身に起きた出来事を赤裸々に語り出す。

その言葉からありありと思い浮かぶその時の光景。

そこには朧井さんの話からは見えなかったものも見えてくる。


武器を持った多勢という、絶望しかない相手。

果敢に立ち向かい果音を逃がすことに全力を尽くしてくれた豪徳寺君。


もし豪徳寺君がいなかったら。その先は怖くて想像もできない。


彼が商店街まで来た事や名前を呼んでいたらしいことが思い出されて重なる。

果音を逃がし傷ついているその時も彼は果音が心配でたまらなかったんだ。

その心境を慮ると涙が出そうになる。ギリ……と奥歯がまたも軋む。


「豪徳寺殿の底知れない勇気、驚かされるばかりでありますな……。」

雫は豪徳寺君の行動に感心していたようだった。でもそれはそうだと思う。

彼の勇気があったからこそ、今ここに果音がいる。


愛依(あい)


今日は市の体育館で春佳(はるか)畳ヶ原(たたみがはら)さんと一緒にセパタクロー部の試合の応援。

コートで一番目立っているのが今日私たちが応援しに来た友達、飛籐(とびとう)さん。

なんでも女子セパタクロー界の超新星と呼ばれているとかいないとか。

でもまるでそれを裏付けするように満席のギャラリーが熱気に包まれている。

ルールは全然わからないけど、すごい人の試合はそれでも見てるだけで興奮する。


お昼休憩はサンドイッチ。果音が畳ヶ原さんの分まで用意して持たせてくれた。

簡単なようで具のバリエーションが豊富。果音、こういうところ凝り性だよね。

「果音ちゃん、ホンマにお料理が上手やなあ。ウチの専属料理人にほしいわあ。」

親戚に老舗料亭の主人がいるらしい畳ヶ原さんからも太鼓判。いやあ照れるなあ。


「あれ?愛依のスマホ着信来てるっぽくね?」

春佳が指を差したのは私のポケットから半分だけ飛び出したスマホ。

試合中に鳴らないようにマナーモードにしてたんだっけ。

確認すると姉妹から何回か着信履歴が来てた。珠希から1回。咲花から3回。


春佳は続いて自分のスマホを確認する。

「アタシのは……来てるわ、いっぱい。何だろ。」


今日ここに来ることは咲花も知ってるハズ。珠希には言わなかったかもしれない。

それを態々こんなに電話をかけてくるなんて何かあったのかな。

取り敢えず今のうちに掛け直してみよう。

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