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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【29話】弥彦の悪夢/凪乃の悪夢

弥彦(やひこ)


「ハッ……!?」


飛び起きるも部屋の中は真っ暗。まだ日は昇っていない。

またあの悪夢(●●●●)だ。毎度毎度、細部まで寸分も違わぬあの夢だ。

飛び起きた俺の額を重力に導かれるままに冷や汗が伝う。気味の悪い感触だ。


薄目で目覚まし時計を見る。時計の針が差すのは午前3時。

日付も変わって今日は土曜日。いくら寝過ごしても何も問題はない。

流石にあの夢を見た直後ではすぐに眠ろうという気にはなれない。

少しの間、気分転換もかねて起きていることにしよう。


父親が死んだ日のことは正直記憶にない。

何せ俺はその日に2歳になったのだ。覚えている方が珍しかろうに。

父親の関係で覚えているのは三回忌だけで、それもかなり朧気だ。

冬で、しかも年末なので他の予定も否応なしに立て込んでくる。

一番強い印象はそれに追われて忙しそうに飛び回る祖母の姿だ。


5歳の誕生日を祝ってもらえないことに対して俺は文句を言わなかった。

それを聞いてくれる相手がいなかったし、言うべきではないと子供心ながらに理解していたからだ。

自分で言うのもなんだが、5歳にして俺は健気だったと思う。


そしてその先も誕生日を祝ってもらえたことはない。

何が悪かったのかと問われれば生まれてくる時期と生まれ持った運に違いない。

ただでさえ年末は忙しいのに更に父親の命日も重なれば、そんなくだらないものは捨て置かれるのだ。


俺のアルバムの中の最後の写真は4歳の誕生日の写真。

小学校や中学校の入学や卒業の記念写真はない。日常の写真さえない。

見返すこともないスカスカのアルバムは部屋の端で埃を被っている有様だ。


父親、豪徳寺(ごうとくじ)天馬(てんま)の死様は誰もが英雄と呼ぶ。

未来ある少女の命を救うために勇敢にもその命を捧げた男だと。


人の命を救ったことは確かに誇るべき偉業だ。そこには異論ない。

だがその上で死んだことに関して、そこには文句しかない。


立場ある男の死は息子から誕生日という普遍を奪っていったのだ。

いいや、誕生日のみにとどまらず全ての祝福を奪った。

それを逆恨みだと言うなら好きにしろ。


未来の社長の器じゃない?好きで選んだんじゃねえよ、こんな人生。


父親が嫌いだ。ふとそういう瞬間に父親と同じ行動を咄嗟に取る自分も嫌いだ。

人が救われることは良いことだ。それはいつの世も永遠不変だ。間違いない。

でも俺が取る行動の動機は人を救いたいだなんて殊勝なものでは断じてない。

きっと父親か、或いは俺自身に対しての当て付けだ。そうでなければ呪いだ。


よく俺をヒーローと呼ぶ人がいるが、こんな歪んだ男がヒーローでは世も末だ。

誰かが俺をそう呼んだ時、内心では確かに図に乗る自分もいるのが嫌いだ。


そうは言っても、俺はこの先も機会があれば人を救うために手を伸ばすだろう。

我ながら全く狂っている。完全に矛盾している。救いようがない。

そういう意味では父親は本物のヒーローだったのかもしれない。

少なくとも俺よりはその適性があったに違いない。


父親に救われたという俺と同い年の女の子は今どこで何をしているんだろう。


凪乃(なぎの)


「ハッ……!?」


飛び起きて現状を確認するよりも早く部屋の扉がコンコンと叩かれる。

「凪乃、あなた随分と魘されてたみたいだけど大丈夫なの?」

咲花(さきか)ちゃんの声だ。起こしちゃったかな。壁、薄いからなあ。

「大丈夫だよ。ごめんね。」


久々に見た夢だ。そしてこれは忠告だ。或いは、戒めだ。

私がここにいる理由。私がこれから成すべき使命。私の罪。

忘れようもないそれを、その上で念には念を押すようにして。


私たちがここにいることを()()()は知らない。

でもそれがいつまで続くかはわからない。

終わった瞬間に地獄の扉がまた開く。


復讐の意思は常に燃えている。だって許せないから。

その上で、何をどうすれば良いのかはわかっていない。


奇跡は起きない。神風は吹かない。お天道様なんてものはない。

私がやらなきゃいけない。でも今の私に力はない。足りなさすぎる。


大丈夫だよ。ここなら平気だよ。きっと、私が考えすぎてるだけだよ。

そう言って逃げている自分がいる。


天下の【豪徳寺】さんとやらは本当に私たちを守ってくれるの?

その問いから逃げている自分がいる。


腹立たしくなる。


パパさんは何とかすると言ってくれた。でもどうにかなる保証はない。

そもそもこれは私の戦いだ。私が決着を付けなきゃいけないんだ。

それが責任なんだ。姉妹(みんな)蟻沢(ありさわ)さんへの償いなんだ。

私が背中を向ける資格はない。どんなに怖くても。


◆◆◆


トイレで吐いた。なのに全然楽にはならない。頭が割れるように痛い。

取り敢えず水を飲むためにリビングに降りる。


コップの水面に映った私の顔が私を睨んでいる気がした。

そんな訳はないのだけど。……でも、あんな顔をしている自分は確かにいる。


「そもそも事の発端はお前だ。お前がやったことなんだ。」

きっとそう言いたいんだろう。そんなこと、言われなくてもわかってるよ。


今日はもう眠らずにずっと起きていたい。

眠ることが怖い。あの夢を見ることが怖い。

5月11まで連続投稿します。お楽しみに。


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