【26話】7+1
◇弥彦◇
「それを聞いて何もしなかったら鬼だよねえ……。」
蘭から語られる壮絶な話に息を吞む愛依。
「そういうこと、何で昨日の時点で言わないのよ……。」
もっと早く言ってくれればどうにかしたのにと言いたげな果音。
「本当にね。そういうの一人で抱えても良くならないでしょ?」
蘭をたしなめるのは咲花。実際もう蘭一人ではどうにもならない。
「それにしても山あり谷ありって本当にあるものなのねー。」
珠希は妙に俯瞰した感想を述べた。彼女にもかかわることなのだが。
「何にせよ、これ以上悪くなる前に聞けて良かった。」
そう言う凪乃は昨日の時点で蘭のことを気にしていた。
今回こうなったのは俺が凪乃に背中を押された部分も小さくはない。
「いやー、なんつーかさ……。大変だな、蘭も。」
春佳が珍しく大人しいのは彼女も蘭の話に絶句したかららしい。
「流石にビビるわー……。」
普段は不愛想な真子も話の内容にかなり面食らったようだ。
「そんな訳で悪いんだが、蘭を間借りさせてやってはくれないか?」
さっき咲花に問うた質問を今度は姉妹全員に改めて聞き直す。
これがこの話の本題なのだ。
「全然!寧ろそれは是非ともって感じ!」
愛依は俺の問いに勢いよく肯定の意思を示す。
「本当に、良いの?すごく負担になると思うんだけど……。」
「遠慮してる場合じゃないでしょう?今あなた誰かに縋らないとそれこそ破滅以外の道はないのよ?」
遠慮しがちな蘭に果音は強い口調で言う。
「お部屋も余ってるから大丈夫よ。荷物があるなら引越しも手伝ってあげる。」
優しい目線で蘭に話しかける咲花。そういやあの家は妙に広いんだっけな。
「他の皆も良いよね?蘭がウチで一緒に住むって話。」
咲花は珠希たち4人の方を向いて確認を取る。
「異議なーし。」
「歓迎するね、蘭。」
「おう!よろしく!」
「右に同じく。」
俺は見た。蘭の目からまたしても一滴の涙が頬を伝うのを。
そしてそれはまたしても滝めいてあふれ出し流れていく。
蘭は先程と同じように声を上げて泣いたのだった。
「あー、豪徳寺君が蘭泣かせたー。」
「いやちょっと待て!俺じゃない!俺じゃないから!」
俺をからかう珠希。心配そうに寄って来る他の姉妹。
「ありがとう……!本当に、ありがとう……!」
蘭の涙はしばらくは止まらなさそうだ。
◆◆◆
数十分後、俺と愛依、咲花、凪乃で蘭の引っ越しを手伝うべく蘭の家に来ていた。
耳障りな音で軋む扉を力技でこじ開けると中から埃がわっと舞う。
それはもう完全に人が住めるような環境ではなかった。
恐らく蘭が来るまで数年単位で誰も訪れていなかったのであろう。
幸いにも蘭の荷物は中にあったリュック1つに収まる程度の量だった。
「持ち出すもんはそれで全部か?」
俺の質問に蘭は頷く。
蘭の引っ越しの荷物は殆どが衣類で他は細かな小物があるだけだ。
家具や家電の類は本人から事前に聞いていた通り一切ない。
「まずは家具を揃えなきゃだね。」
全ての荷物を持って廃屋を出たところで愛依が言う。
「少しの間の間借りなんだし、家具は別に良くないか?」
俺の言葉に蘭も頷く。しかし咲花が不思議そうな顔をする。
「蘭はずっとウチにいたらダメなの?ほら、状態も状態だし何人かで暮らしてた方が何かあった時にどうにかなるでしょ?私たちの家だったら君の目も届くし。私も安心だし、多分皆もそのつもりだと思うんだけど。」
「それはその通りかも知れないが、本当に良いのか?」
咲花の申し出はありがたいが、負担がいくらなんでも大きくはないだろうか。
「私は最初からそのつもりだったよ?」
「私もそうだったんだけど。」
だが愛依も凪乃も当然のように咲花の意見に追従する。
この姉妹の力を借りることができて本当に良かった。
俺たちは23時になる前に戻ってくることができた。
ここまで早かった最大の理由はやはり蘭の荷物が少なかったことだろう。
「じゃあ俺はここまでだな。またな。おやすみ。」
◇蘭◇
七つ子の家。今日から私の家でもある。さっきそうなった。
彼・豪徳寺君にろくでもないことをしに来たハズが回り回ってそうなった。
もしも頬をつねったら、この奇跡みたいな夢が終わって廃墟で目を覚ますのかな。
だとしたらそれを確かめるのは後でも良いかな。まだこの夢を見ていたいから。
「おかえりなさい。蘭の夕食はもう少し待ってて。先にお風呂入ってきたら?」
私を出迎えてくれたのはこの家の次女、果音、アップツインが可愛い。
ていうかこの姉妹、そもそも顔がめちゃくちゃ良いよね。
切れ長の目とか羨ましい。私は切れ長だけど人相悪いって言われるし。
「お邪魔します。それと…今日からお世話になります。」
「あはは、そういう堅苦しいのいいって。今日から一緒に暮らす家族でしょう?」
「あー、そうだね……。……ただいま。」
「ふふ、おかえり。」
家族のやり取り。お婆ちゃんとの生活が懐かしくなる。
お婆ちゃん、見ていますか。私、新しい家族ができました。
色んな人に支えられながらだけど、これから前を向いて生きていきます。
どうか、見守っていてください。




