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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【25話】梅堂骨董店の拾われ娘

弥彦(やひこ)


「ところでさっき骨董店って言わなかったか?」

(らん)の苗字が梅堂(うめどう)ならば彼女の言う骨董店の意味する場所は1つである。

それ即ち、梅堂骨董店。近所にあった骨董店で最近取り壊された。

何でも店主のおばあさんが亡くなったとかで。


俺の予感を肯定するように蘭は頷く。

その頷きだけで疑惑1つ1つが組み合わさりパズルが完成する。

蘭の育ての親は梅堂骨董店の店主だったのだ。

祖母・禄絵(ろくえ)とは浅からぬ因縁があるらしいが、それはひとまずおいておく。


とすると蘭が昨日俺と凪乃(なぎの)を連れて行った旧商店街はなんなんだろう。

普通に考えれば取り壊される前に蘭が移り住んだと考えるべきだが、蘭の今の状況では家賃を払って家を借りるなどありえない。

そもそも金を払ってあんな廃墟だらけの場所に住みたいと思うだろうか。

またも嫌な予感が浮かぶ。それも、またしても的中しそうなものが。


「蘭、お前まさか廃墟を寝床になんてしていないだろうな?」

頼むから違うと言ってくれ。俺の杞憂なら何も問題はないんだ。

「あー、……やっぱり、無断で住み着いちゃってるの不味い、よね……。」

蘭はばつが悪そうに答える。俺はそういうことを言っているんじゃないんだが。


「あのな……。あんな場所に女一人なんて、それこそ悪い奴に狙ってくださいって言ってるようなもんだぞ。」

「でもそうなるといよいよ橋の下とかしかないんだよ……。」

俺の言葉に蘭は困った表情を浮かべるが、馬鹿げた反論だ。

「それしかない訳ないだろ。何とかしてやるよ。」


「そうは言うけど、何かアテはあるの?」

「そうだなあ……。」


蘭の言葉に俺は考え込んでしまう。

蘭の危惧した通り、これというアテがある訳ではない。

お腹が空いたら食べ物を買えば良い。簡単な話だ。

だが寝床がなければ家を買えば良いという風には行かないのだ。


とはいえこの時間に急に蘭の寝床が見つかる訳がない。

俺としては廃墟に帰す選択肢も避けたいが、事態は八方塞がりだ。


そんな時、今日この夜2度目のチャイムが鳴った。

「悪いな蘭。ちょっと待っててくれ。」


既に時間は22時を過ぎていた。こんな時間に誰が来たのだろう。

会社の関係者か祖母の用事か、どちらにせよ当人は家にいない。

よりによってこのタイミングで全く面倒なことだ。

そんなことを思いながら俺は扉を開けた。


だがそこにいたのは祖母絡みの人物ではなかった。


咲花(さきか)?どうしたんだ、こんな時間に。」

「誰かが泣く声が聞こえたから気になって。何かあったの?」

咲花はそう言うなり、その視線をある一点に注いだ。

そこにあったのは蘭の靴である。


「蘭が来てるの?」

「ああ、まあ色々あってな。」


蘭のことを咲花に話すべきか否か。

脳裏に浮かんだイエスとノーを俺は瞬時に選択する。

俺にできることにも限界があるのだ。事は急を要する。


「丁度良かった、咲花。1つだけ話を聞いてもらいたいんだが、良いかな。」


◆◆◆


俺は蘭と咲花を同席させ、蘭には俺に話した内容をもう1度説明してもらった。

そして語られる真実に咲花は目を丸くしたり青ざめたり頭を抱えたりしていた。

昨日偶然知り合って夕食を食べた女の子がこんなものを抱えているとは思うまい。


「取り敢えず生活にかかる諸々の金は俺がどうにかできそうなんだが、家に関しては新しい部屋を借りるのもすぐって訳にはいかないだろ。俺が用意するまでの間、何日か蘭に間借りさせてやってはくれないか?」


年頃の女が俺と一つ屋根の下なんて訳にもいかないだろう。

少なくとも咲花()()が了承してくれるなら、これが現状のベストだ。


「ちょっと待ってよ、昨日の晩あんなに世話になったのにこれ以上だなんて……。」

「そんなこと言ったって知っちまった以上俺はお前を廃墟なんかに帰せねえよ。」

問題は咲花の家には姉妹が七人で暮らしていること。既に大所帯なのだ。

まして金閣(きんかく)町で暮らし始めたばかり。あっさりOKという訳にもいかないだろう。


豪徳寺(ごうとくじ)君、蘭、悪いけどちょっと待ってて貰って良い?すぐ戻って来るから。」

さっきまで頭を抱えていた咲花はそう言うなり家を後にした。

意見をまとめてくるのだろうか。だがそれはすぐにという訳にもいくまい。

咲花のことだ。何かを考えた上での行動だとは思うのだが。


咲花が戻ってきたのはそこから10分後のことだった。

さっきと違うのは姉妹全員を引き連れてやってきたことである。

「こっちの方が話が早いと思って。ごめんね、押しかけて。」

「いや別に、俺は構いやしないが……。」


「蘭、悪いんだけどさっきの話、もう一度お願いできる?」


「別にそんな大事にするつもりじゃ……」

現れた七つ子全員を前に蘭は遠慮しがちな姿勢を見せる。

「何言ってるのよ。もう十分に大事じゃない。大まかには咲花から聞いてるの。」

果音(かのん)のその言葉には俺も全面的に同意する。


果音に背中を押されたように蘭は静かに話し始めた。

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