【番外】エピソード・フューチャー#1
◇◇◇
少し先の未来。秋の風が日に日に冷たくなり、誰もが冬の訪れを予感する頃の話。
ここは日本の首都、東京。
金閣町の駅前に位置するとあるカフェテラスである。
道行く人々は誰もがそちらを見る。正確には今そこにいる彼女らを。
その理由は幾つか考えられる。
まず第一に彼女らは著名人である。
それは彼女ら一人一人が持つ輝かしい功績。
或いは彼女らが支えるたった一人の夫の存在。
そしてそれらを知らなかったとしてもその美貌が目を引く。
切れ長の睫毛に澄んだ瞳は夜空の星の如く輝く。
凛と高く通った鼻立ちも決して主張しすぎることはない。
薄紅の艶やかな唇は女性らしさとあどけなさを同時に内包する。
ただし最大の理由は功績や夫でもなければ美貌でもない。
彼女ら7人全員が全く同じ表情を有していたことである。
一見奇異の光景に衆目は吸い寄せられる。誰もが思わず見てしまう。
そんな注目も当人たちには慣れたものだ。今更気にする理由はない。
何せ生まれてこの方25年、周囲には常にこの視線があったのだから。
彼女らは七つ子である。
そして日本一の大資産家、豪徳寺弥彦を支える15人の妻の筆頭の7人でもある。
「他の皆は来れないみたいだねー。忙しそうで何よりだけど。」
スマホを見ながら残念そうな表情を浮かべる彼女、愛依。七つ子の長女である。
忙しいのは今や当たり前になっていた。何せ夫の立場が立場なのだから暇はない。
「この7人が揃うのも久しぶりだしね。あの頃は毎日顔を合わせていたのに。」
懐かしむ果音は七つ子の次女。あの日の日常は既に遠い記憶の中だ。
思い返す1つ1つ、忘れるべくもない大切な思い出。輝かしき青春の日々。
「本当よね。懐かしいなあ。またいつか皆で出かけたいわね。」
「…船とか?あ痛っ!」
果音に続いて昔を懐かしんでいた三女、咲花。
茶々を入れてどつかれた隣の彼女は四女の珠希。
この七姉妹が船という単語で思い出す記憶は良いものではないのだ。
「船、そんなこともあったね。私は自分の事件が一番記憶に残ってるけど。」
「あれもすっかりウケの良い馴れ初め秘話みたいになっちゃってるけどねー。」
五女、凪乃の言う事件とは当時七つ子全員が肝を冷やしたものである。
今彼女がここにいるのもあの時大活躍した今の旦那あってのものかもしれない。
少なくともあの事件を知る者はそれを信じて疑わない。
「そんなこと言ったら皆“自分の事件”が一番じゃね?アタシだってそーだし。」
「あんたは色々あったでしょ。一番ってどれよ。」
「一番楽しかったのは水族館!」
「事件じゃないじゃん!」
漫才めいたテンポの良い掛け合いで姉妹の笑いを誘う六女の春佳と七女の真子。
これもあの頃は毎日のように見ていたものだ。しかし今ではそうもいかない。
かつてはただ笑ってみていたそれも今となってはノスタルジーを漂わせる。
「私も凪乃と同じくで自分の事件が大きかったなあ。ベクトルは違うけど。」
他の姉妹に連られてか、真子も印象深かったとある一日を思い出す。
「あれもあれで大変だったねー。本当よく生きてるわ、私たち。」
真子の追憶に愛依が腕を組んで頷き共感する。
「それを言うなら彼が、じゃない?真子の件だって彼が頑張ったおかげだし。」
「言えてるなあ、それ。果音だってあの時のこと忘れようがないもんね。」
凪乃や真子だけではない。
ここにいる誰もが彼の体を張った決死の姿勢に助けられた。
その勇敢な姿はそれぞれの脳裏に焼き付き、決して消えはしない。
「さて、そろそろ行きましょうか。明季に顔、忘れられちゃうわ。」
咲花がそう言って立ち上がり、続いて姉妹全員が立ち上がる。
彼女らが懐かしの金閣町に戻って来たのには目的があるのだ。
七つ子はかつて青春を過ごした懐かしの家に向かい歩いていくのだった。
次の頁から語られるは豪徳寺弥彦と15人の婚約者たちの出会いと救済の物語。
彼女らはどのように弥彦と出会い、そしてどのように愛を見つけ出したのだろうか。
紐解かれる恋物語、見逃すこと勿れ。
2024年3月10日
・ルビの意に伴う記述の変更
恋人→婚約者
・サブタイトル変更
【序文】→【序文】エピソード・フューチャー#1
同時に記述を若干修正
2024年4月20日
・サブタイトル変更
【序文】エピソード・フューチャー#1→【番外】エピソード・フューチャー#1