【14話】愛依を探せ 完結の巻
◇弥彦◇
「探したぜ、愛依。」
上から下まで駆けずり回り最後に聞こえた気がする人の声。
自分の直感を信じて正解だった。そして危ない所だった。
誰かに肩を貸していた愛依はあろうことか足を踏み外してしまったのだ。
俺が声をかける正にその一瞬前。数秒遅れていたらと思うとゾッとする。
俺の目の前で本当に良かった。伸ばした手は何とか間に合った。
愛依を掴めたことでもう1人の彼女も踏み止まれたらしい。
「豪徳寺君!?」
振り向いた愛依は今にも泣きそうだった。そりゃそうだよな。
迷った挙句に停電なんて不安にならないやつの方が稀だ。心細かったろうに。
俺が間に合ったのもあって、愛依とその連れ1人は無事だった。
我ながらこういう時の瞬発力だけはある。あまり自慢はしたくないが。
本来ならそんなものは無用の長物である方がありがたいものだ。
「……で、あんたは?」
俺は愛依の連れに尋ねる。焦げ茶のボサついたショートの女の子だ。
年頃は俺や愛依とそう変わらないだろう。身長は愛依よりやや低いか。
俺の半目より少し開いた程度の切れ長の瞳はクールな印象を持たせる。
そしてその様子を見るに、実際その印象と実態は大きく違わないようだ。
「私は梅堂蘭。さっきはヤバかったよ。……ありがとう。」
梅堂。随分前に婆ちゃんがその苗字について話してたのを聞いたな。
若いころ金閣町を真っ二つに分ける程の大喧嘩をした人が梅堂さんだったハズだ。
いや、絶対に偶然だろう。彼女とは関係ないだろうけど。
「ここまで私を案内してくれたんだけど、お腹が空いて力が出ないみたいで……。」
愛依が蘭について補足するが、まるでやられている時のアンパンマンのそれにしか聞こえない。
実際にはその説明よりも酷いかもしれない。肩を貸すくらいなのだから相当だろう。
表情からも万全の状態でないことが察せられる。
愛依の補足によればさっきから足がふらついているらしい。
「わかった。そんな状態で歩くのも危ないだろ。俺が背負っていこうか?」
「いや、いいって。バカにしないでよ。全然、大丈夫だから。」
蘭はそう言って歩き出そうとするが、愛依の言う通りその足取りは見ているだけで不安になるものだった。
さっきの言葉は完全に強がりだったのだとその千鳥足が証明している。
3歩目には躓き、ドクターストップならぬ愛依ストップがかかる。
「背負ってく。」
俺はこの期に及んで四の五の言う蘭を背負う。
彼女は抵抗するもその手足にはまるで力が入っていなかった。
彼女の手足は華奢と言うよりは、不健康な印象を持たせる細さだった。
◆◆◆
集合場所に戻るとそこには既に果音も戻ってきていた。
どういう訳か凪乃、春佳、真子、更には雫他2名が加わり、咲花を合わせて8人という大所帯になっていた。
というかどういう組み合わせなんだこれは。
「色々言いたいことはあるんだけど、取り敢えず……その子は誰?」
俺の背中の蘭を見た果音の第一声。至極当然の疑問だ。
「愛依を途中まで案内してくれてたらしいんだが、行き倒れ寸前なんだ。」
「違うだろ!というかここまで来たらもう良いでしょ!下ろしてよ!」
背中の蘭から怒りの抗議が飛ぶが、何がどう違うのか教えてほしい。
「お前に歩いてる姿を鏡で見せてやりたいよ。とても一人で歩かせられるか。」
「まあ、とにかく合流できたんだったら早く家に帰ろうか?これのこともあるし。一応保冷材は追加したから大丈夫だと思うけど。」
咲花がそう言って手に持つ買い物袋を掲げる。中には生鮮食品が入っている。
ただでさえ時間を食ったのに、更に浪費する訳にはいくまい。目的は果たした。
「家に何か食べるものはあるのか?」
背中の蘭に尋ねるも彼女は微妙な表情しか返さない。ないものと判断する。
「果音、悪いんだが蘭に軽く何か作ってやってくれないか?材料費はちゃんと後で出すからさ。今俺の家にはカップ麺と煎餅以外に大したものがなくてな。」
「仕方ないわね。良いわよこの際。10人も12人も変わらないもの。」
果音が口に出した人数の意味はよくわからないが、承諾してくれてありがたい。
「お言葉に甘えてゴチになるのであります。」
「申し訳ないなあ、果音ちゃん。」
「あざーっす!」
あ、成程。七つ子にこの3人を足して10人か。
「…12人?」
10人の方の意味を理解した瞬間に自然と口から疑問が飛び出た。
蘭を足すのだから11人ではないだろうか。何故か1人余分に増えている。
「あ、豪徳寺君も入れて……ってことか。」
俺の疑問の答えは同じ疑問を持ったらしい咲花が解決した。
「そうよ。良いじゃない、折角なんだから。それに豪徳寺君って普段からカップ麺ばっかりでしょう。食べ盛りの年頃でそんな食事してると体に悪いわよ。」
見透かされている。というか俺の袋の中を見られたのかこれは。
確かに俺は今日もカップ麺しか買っていないのだが。
婆ちゃんが家にいないときは毎食それだが。
果音の俺を見る視線がレーザービームのように突き刺さる。
断っても断れない雰囲気だ。逃がさないという意思が見える。
いや俺は蘭に飯さえ食わせてもらえれば俺の方はどうでも良いんだが。
「悪いな。じゃあ俺も世話になるよ。」
次回投稿は3月8日(金)です。
次回投稿分から1話ずつの更新になる予定です。




