【13話】愛依を探せ 奮闘の巻
◇果音◇
ごった返す人の波に呑まれそうになりながらも、ひとまずは地下から咲花のところまでようやく戻ってくることができた。
凪乃、春佳、真子、雫、畳ヶ原さんと飛籐さんも一緒だ。
停電状態の地下のフロアは買い物どころではなく、店員さんの案内でその場にいた全員が脱出してきた。
咲花の座るベンチには未だ愛依の姿はなく、豪徳寺君も戻ってきていなかった。
「えーと、なんで愛依を探しに行ってそんな摩訶不思議な御一行様と一緒に帰ってくるの?」
咲花の疑問は尤もだけど、残念ながら説明している場合ではない。
何せ氾濫した川のような人の流れがゴウゴウと流れ続けている。
地下から脱出してきた人は勿論、他のフロアからの人も重なっている。
「この流れの中に愛依がいたら厄介ね。豪徳寺君が見つけてくれていれば良いのだけど。」
もしも見つけたら連絡してくるハズだし、現時点でそれがないということは……。
◇弥彦◇
本屋を探し終えたところで急に辺りが暗くなった。停電だ。
地下フロアだったらきっと足元も見えなくなっていただろう。
幸い俺がいる地上フロアは窓から差し込む光のおかげでそこまでの大事には至らない。
ただ、どうしても周囲では人がざわついていた。パニックというほどでもないが。
一応、果音や咲花には状況確認の連絡をしておくか。
そう思ってスマホを取り出したところで俺は頭を抱えることになる。
俺は果音の番号も咲花の番号も知らなかったのである。
流石にこれには苦笑いするしかなかった。
高校生になって4日。俺の電話帳には新しい名前が一人も増えていないのだ。
俺は昔から友人が多い訳でもないし人付き合いも必然的に薄い。
今日のこれだって引っ越して来たばかりの夢原姉妹が頼むから応じただけだ。
それを考えれば当たり前のことではあるが、現状は不都合だった。
とはいえ、これは今すぐにはどうにもならない。俺は愛依を探すしかない。
停電しようが連絡が取れなかろうが、別にやることが変わったわけではないのだ。
両の手で自らの頬を叩き気合を入れ直す。こうなったら早く探すに限る。
階段を下りていくと視界に休憩所が見えてきた。
いつもなら平日だって変わらず賑わっているその場所も、状況がこの有様では普段からは考えられない程に静かだ。
これはさっきも確認しているが、勿論そこに愛依の姿はない。
とはいえ探すアテは多い訳ではない。もう1度だけ4階を確認しておこう。
少し急ぐか。
◇愛依◇
水を飲んで休憩した程度では蘭の足取りが劇的に軽くなるなんてことはなかった。
そもそも足りていないものを補っていないのだから当たり前か。
気休め程度の効果しかない。蘭の足はまだふらついている。
「あちゃー……。」
「ああ……。」
私と蘭は二人で止まったエスカレーターを前に声を漏らした。
普段中々見られるものではないけれど、今はそんな珍しさ要らない。
エスカレーターは電気で動いているのだから停電の影響が出るのは当然だ。
でもさっき当たり前のようにこのエスカレーターで上がって来た私たちにはたったそれだけのことさえ考えが及ばなかった。
エレベーターも動いていないだろうし、そうなると足がふらつく蘭には厳しいけど階段しかないよね。
結果論だけど4階に来たことは完全にマイナスだった。
勿論、階段にも停電の影響がない訳がない。
明りが消えると階段ってこんなに暗くなるんだ。
この雰囲気、今にも何かが出てきそうで怖い。
「ここ、降りる?」
「降りる?って、他に手立てないでしょ?」
蘭は怖くないみたい。っていうか、蘭はもうちょい自分の心配してほしい。
足元は僅かにしか見えない。多分、咲花とか真子だったら苦労したと思う。
後ろの蘭のペースを見ながらゆっくり確かめるように降りる。
「待たせてるんだったらもうちょっと急いだほうが良いんじゃないの?」
「私のことはいいから。焦って踏み外して怪我でもしたらそれこそ大変だよ。」
嗜めるような物言いの蘭に嗜めるようにして返す。蘭の顔がちょっとムッとする。
いや別に、それも一理どころじゃないくらいはある。待たせてるのは事実だし。
「わっ……!」
それから間もない内に後ろから蘭のそんな声がして急いで振り向いた。
見ると足を踏み外しかけていたところだった。ほら、言わんこっちゃない。
蘭のペースを上げる訳にもいかないので必然的にペースは遅い。
真下に見えるのが2階と3階の間の踊り場。蘭の足取りはやっぱり覚束ない。
「ごめんね、私なんかに付き合わせて。」
体調が悪そうな蘭に謝る。彼女が今ここにいるのは私の理由。
「いや、こういう状況なんだ。寧ろ助かるよ。」
「はあ、キッツ……。」
蘭の足取りは水を飲んで良くならないばかりか、悪化すらしている。
遂には踊り場に着いた途端にへたりとしゃがみ込んでしまった。
流石にこれ以上は見ていられなくて肩を貸そうと差し出す。
「……先、行きなよ。」
誰がそんなマネするもんですか。人を血も涙もないみたいに。
「置いて行ける訳ないじゃん。そもそも私一人じゃ辿り着けないし。」
「平気?」
「勿論!」
即答。
蘭の右肩を支え、左では手すりを持ってもらいながら慎重に一歩目。
当たり前だけどスピードは更に落ちる。でも果音や咲花はわかってくれる。
……と、思う。
二歩、三歩、四歩、五歩、ゆっくり、ゆっくり、一歩ずつ。
何とか1階と2階の間の踊り場まで無事に降り切る。
「もうちょっとだよ。頑張ろう。」
蘭は私に少し微笑んで頷いた。
そして踏み出した一歩目は……。
「あっ」
踏み外したのは私だった。
執筆は去年の5月ですが、訳あって投稿直前に大幅に改変した部分があります。




