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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅰ】
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【10話】屋上の二人

◇◇◇


「あーやっと見つけたベンチ!って、誰もいないじゃん。」

愛依(あい)は落胆した。折角集合場所を見つけたというのに。

確かに『自動ドアの横のベンチ』と果音(かのん)咲花(さきか)と約束した。

ならば誰もいないのはおかしい、と思うのは当然だ。


実のところ、愛依は場所を間違えていた。ここは別館の屋上キッズ広場。

愛依が見つけたのはキッズ広場と館内の間の自動ドアの横にあるベンチである。

集合場所の自動ドアのベンチとは本館入り口の横のベンチを指している。

そのため愛依は図らずも集合場所からは最も遠い場所に来ていた。


『ビッグモール』別館4階~6階はフロア丸ごと改装中である。

だがキッズ広場は改装には含まれていない。今でも誰でも来ることができる。

とはいえ建物の上半分が改装している上に平日では流石に閑古鳥が鳴いている。

そもそも元より大して人気があった訳でもないのだが、その上でマイナスの要因が加わるとその静けさ寂しさはより顕著に雰囲気に出る。


「先に行っちゃったのかなあ。誰か待っててくれても良いのに……。」

ポケットの中を探りスマホを取り出そうとしたところで、それが今手元にないことを思い出す。

壊れて使えなくなったそれは自分の部屋の机の引き出しの中である。

つまり今、愛依には連絡を取る手段がない。


とはいえ、愛依は幸い果音や咲花の電話番号を覚えていた。

つまりどこかの誰かがスマホさえ貸してくれれば連絡は取れるのである。

待ち合わせをしておいてその場所に誰もいない、というのは困惑も勿論だが苛立ちもあった。それは一般的な感情であろう。

愛依としてはそのことについても当然文句があった。


無論、愛依は自分が場所を間違えてることに気づいていない。


スマホを貸してもらうという結論に思い至ったまでは良かった。

とはいえ今この場所には誰もいない。貸してくれる誰かを見つける必要がある。

改めて本当にこの場に誰もいないものかと周囲を見回した時、遠くの遊具の陰からこちらを見る視線と目が合った。


その視線は愛依と目が合った時点では特に何も変化を起こさなかった。

逸らすわけでも睨むわけでもなく、ただ静かに愛依を見つめていた。

だが愛依が近づいてきたことに気づき物陰に引っ込んでしまった。

視線の主にとってその状況は間違いなく予想外のものだった。


愛依にはやや考えなしに行動する悪い癖があり、今この瞬間もそうだった。

遂には視線の主の眼前に物怖じすることなく近づいてきた愛依が現れる。

視線の主、梅堂(うめどう)(らん)にとっては少し恐怖を感じる出来事であった。


◇愛依◇


「お食事中の所すみません。スマホ貸してほしいんですけど。」

私をコッソリ見ていた人は同年代くらいの女の子だった。

私と似たようなボブの髪は私より濃い色をしている。


彼女は食事の真っ最中だった。どこにでもある総菜パンが1つ。

これで足りるの?あー道理で細身な訳だ。燃費が良さそうで羨ましい。


「……ごめんなさい。生憎持ってなくて。」


いやいやいや、あなたほどの年頃でスマホ持ち歩かないなんてことある?

いや私は事情持ちだから仕方ないけどさ、普通肌身離さず持ち歩くじゃん?

なんなら女子高生なんて人生の上で一番スマホと一緒にいる時間じゃん?


あー、わかりました。私わかりましたよこれは。

『知らない人にスマホ貸したくありません』の婉曲表現ですよこれは。

相手を傷つけずにスマートに断るやつだね。

でもそれは今ちょっと困るなあ。


「そこを何とか!妹に連絡取るだけなので!」

持ってないって言ってるのにこの返しはおかしいかも?

いやいや、十中八九持ってるでしょ普通は。


「いや、スマホ持ってないって言ってるじゃん。貸すのが嫌だとか別にそういうのじゃなくて、マジで持ってないんだけど。」


心読まれた!?テレパシー!?

いやしかし、ここまでハッキリ断られたら仕方ないな。諦めよう。

実際の所どうかは知らないけど、残念ながらダメらしい。

「あー……、すみませんでした。失礼しまーす。」


「ねえあんたさ、なんでここに来たの?」

後ろを振り向いて歩き出そうとした瞬間、声を掛けられた。

「実はそこのベンチを待ち合わせ場所にしてたんだけど、私が時間に遅れたから皆先に行っちゃったみたいで…。」


正直に答えた。沈黙が流れた。

「多分さ、場所間違えてるよ。そこのベンチ、誰も来なかったから。」

1~2秒の沈黙の後に彼女が発した言葉は冷静な指摘だった。


「ていうかさ、改装中のフロアを抜けないと来られないような場所のベンチ、態々待ち合わせ場所にしなくない?」


「あー……。」

彼女の指摘は一理あるかも知れない。

待ち合せたら帰るだけなのに、確かにこんな場所のベンチが待ち合わせ場所なのは不自然かも?


「ベンチで待ち合わせって言ったら、普通は本館の入り口の横のベンチじゃない?『モール君』の像もあるし、あそこで待ち合わせするのはありそうな話だけど。」


『モール君』って……あのモグラのマスコットか。この店のマスコットなのかな。

館内のあちこちに絵が描いてあったるし。さっき着ぐるみも見た。

愛嬌があって可愛いんだよね。咲花も多分好きかも。

どうしてモグラなのかは知らないけど。


そう言えば『モール君』のストラップ、最近学校で見たな。

カバンに着けてる子が何人かいた気がする。ってことはどこかで売ってるのかな?

この店のマスコットのグッズならこの店で売ってそうなものだけど。


「……人の話、聞いてる?」

気づけば何故か彼女が訝しむ表情で私をじーっと見ていた。

見くびらないでほしいなあ。ちゃんと聞いていますとも。


「モグラを探せば良いんだよね?」


私の答えは間違ってないハズだけど、彼女はどういう訳か溜息をついた。

「わかった、一緒に行こ。」

来週2月23日に【11話】【12話】を投稿します。

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