【99話】弥彦のプレゼント選び(2)
◇弥彦◇
「おかえり。これ、下調べの結果ね。参考になれば良いけど。」
月曜日、俺は学校から帰宅して早々に蘭に紙を手渡された。
昨日お願いしたばかりなのにもう調べてくれたらしい。
早いことにはとにかく助かる。ありがたい限りだ。
「何々…。果音は…レシピ本?」
確かに調理器具なんて必要が無ければ要らないか。
プレゼントならこっちの方がより手軽で使いどころもある。
俺には思いつかなかったアイデアだ。視野が狭かったかな。
「調理器具のことはよくわからないから直接聞いちゃった。そしたら調理器具よりもレシピ本の方が欲しいって。」
ただし一口にレシピ本と言っても色々あるだろう。
ジャンルなら和食に中華に洋食。お菓子作りならそれに特化した物もある。
果音は何を欲しがっているんだろうか。それによって用意する品は変わってくる。
「他に何か言ってなかったか?欲しいレシピの方向性とか。」
俺の質問に蘭は首を傾げて思い返す。ジャンルの指定は無かったらしい。
「ああ、バイト先で使えるような物だったら嬉しいって言ってたかな。でも果音のことだし、そんなに外れてなければ何を渡しても喜んでくれると思うよ?」
「それが難しいんだよなあ…。いっそプロに頼るか。」
【豪徳寺】なら食品事業もあるしレストラン事業もある。
特に系列のホテルは外部から著名な料理人を招いていたハズだ。
きっと上質なレシピ本の1つや2つ、作るなり監修するなりしているだろう。
「ああ、そういう伝手もあるもんね。間違いないかも。」
蘭も微笑んでくれているしこれで行こう。手配は早い方が良いな。
「で、咲花は…参考書もしくは恋愛運向上アイテム?あいつ誰か好きな人でもいるのか?」
俺の疑問を蘭は首を横に振って否定した。
「そうじゃなくて、誰か良い人が現れてくれないかな~って感じなんだって。将来のことを考えて学生時代の内に良い恋愛体験をしておきたいって言ってたよ。」
「どういうモチベーションのどういう努力なんだかわからんな…。」
俺もその筆頭みたいなもんだが、金閣学園には有名どころのボンボンが集まる。
例えば茂布川だって【茂布川通運】の御曹司だ。相手には困らなかろうに。
ましてやあいつら自身、学内では評判が良いとの噂になっているらしい。
それがどうして根拠が曖昧な運やら怪しげなアイテムやらに頼るんだろう。
女心というやつか。だとしたら俺にはわかりそうにもないな。
「まあそれはダメ元で探してみるとして…参考書は科目とか言ってなかったか?」
「別に何も言ってなかったかな。豪徳寺君はセンス良さそうだから期待してるって言ってたよ。」
蘭の答えに俺は溜息をつくしかなかった。妙な期待を寄せられたものだ。
「ハードル高ぇなあ、そりゃ。」
「【豪徳寺】は何かそういう事業はやってたりしないの?」
全くないということは無さそうだが、何分事業の範疇が広く見当もつかない。
「俺も【豪徳寺】の全部を知ってる訳じゃないしなあ。関連ある何かしらはやってそうなもんだが、まあこれも伝手を探ってみるしかないか。」
参考書だと出版関係か。上手くいけば果音のレシピ本も見つかるかも。
何にせよ一度経堂さんに相談しておくか。要点を纏めてメールしよう。
「で、最後は凪乃か。どこからどう解釈してもこれが一番わからんな。」
凪乃へのプレゼントは明文化されるまで見当もつかず困っていたが、まさか明文化されて尚一番わからないとは思ってもみなかった。
逆にだからこそ普段から彼女は余り表に出さないのかもしれないが。
「魚類か哲学か民俗学に関するオススメの品…って、どこからどう聞いてもピンと来ないよね。」
範囲が広いのはありがたいが全部が全部やや妙な方向に尖っている。
これが凪乃らしいと言われれば凪乃らしい。
「魚の図鑑は幾つか本棚にあったよね?」
蘭の質問に頷く。
「昔入院中に暇つぶしに読んでたやつな。あれのおかげで魚類にはちょっと詳しくなったんだ。でも図鑑は新しい方が情報がアップデートされてるんだ。プレゼントするなら新しく選びたい。オススメの~なんて言われてる以上、下手なチョイスはできないしな。」
「全員から良い感じに期待されてるじゃん。」
蘭は笑うが俺からしてみれば困ったものである。
だが期待されてる以上は応えなければならない。
「哲学と民俗学は出版の関係に当たってみるしかないよなあ。まあ果音・咲花でも用事があるからそれは良いや。専門家の力を借りまくるとしよう。」
出版関係の人には多大な負担を強いてしまいそうだ。
そっちへのお礼の品物も考えておかないとな。
全部【豪徳寺】頼りなのは情けないし幾つかダメ元なのも酷いな。
とは言いつつも寄せられた情報と猶予では今の俺ではこれが限界だ。
しかし専門家に頼る以上はしっかり話を聞いて俺の目と手で直接選ぶ。
それで少しでも喜んでもらえるプレゼントができるよう最善を尽くす。
まずは経堂さんにメールをするところからだ。気張るぞ。




