【96話】七つ子アルバイト面接(2)
◇愛依◇
数分後、待ち人の店主は書類を片手に階段を駆け下りて来た。
「待たしちゃって悪いわねン。じゃ、パパッと済ませちゃいましょうか。」
それから彼は私たちの対面の椅子にドカッと座って咳払いをする。
「アタシ、薔薇崎檸檬。ここの雇われ店長やってんの。よろぴくねェん。」
「わ、私は夢原愛依です。…面接は私からで良いんですよね?」
流れで名乗ってしまったが1つ確認する。
今の構図ではまるで7人同時に面接が始まるかのように見える。
だがまさかそんな訳がなかろう。それに私たちはそんな体制ではない。
寛がされたまま始まるバイトの面接なんて見たことも聞いたこともない。
「ああ、面接って言ってもちゃんとしたヤツはしないわよ。最初から7人全員雇う予定だし。一応の判断基準として話はちょっと聞くけど。」
またしても呆気に取られ言葉を失ってしまう。
そんな簡単に7人も雇ってしまって良いのだろうか。
店主、薔薇崎さんはコーヒーを啜りながら私の履歴書に目を通す。
何を聞かれても答えられるつもりだし練習はしてきたけど、むず痒い。
履歴書を見られるってこういう気分なんだなあ…。ちょっと苦手かも。
それから薔薇崎さんは私に顔を向けた。
「アナタ、真面目そうよね。ちょっとヌケてそうだけど。だけどそれってある意味チャームポイント?」
真正面から言われると小恥ずかしいなあ…。
あと珠希、春佳、真子の3人は笑い堪えてるのバレてるからね。
「看板娘ってやつ、適性あるんじゃな~い?絶対バリバリの原石よねェ。これからに期待しちゃう。じゃ、今後ともよろぴく。」
あれ?もしかしてこれって合格?
全然実感ないけど褒められた上に受かった?
「ええと、次はアナタね?果音チャン。」
「はい!夢原果音です!よろしくお願いします!」
果音は昨日の練習の成果を如何なく発揮してる。
2番目で気持ちを整える時間があったからかな。
「履歴書にはお料理が得意って書いてあるケド、具体的にはどれくらい?」
「家では私が台所に立つことが多いので、家庭料理ならある程度はできます。調理器具も一通り扱えます。」
果音の受け答えはハキハキしていて聞きやすいしカッコイイ。
私もこれくらいビシッと決められたらなあ。
「うーん、じゃあ調理と…開発も任せちゃって良いかしら?」
「開…発…?」
果音は薔薇崎さんから発せられた単語に眉をひそめる。
「これ見てもらえたらわかると思うんだケド…。」
薔薇崎さんは立ててあったメニューを取り、果音に向けて開いた。
軽食とドリンク中心のメニューはカフェらしいが、後者がバリエーションを豊富に取り揃えているのに対して前者のそれは余りに貧相な有様だった。
サンドイッチとおにぎりとサラダ、それとスープが各2種類ずつのみ。
「あのズボラチャンでも出来るようなヤツ、考えてくれない?アタシもお料理得意じゃなくてねェ~…。予算は幾らでも使っちゃって大丈夫だから。」
薔薇崎さんがチラッと視線を向けた先で先程の若い店員がヘラヘラ笑いながら頭を下げる。
「わかりました。やってみます。」
その役、バイトに任せるには重くない?
尤も、本人は見た感じ結構やる気みたいだけど。
それから薔薇崎さんは3枚目の履歴書を手に取った。
「次は咲花チャン、アナタね。」
「夢原咲花です!今日はよろしくお願いします!」
咲花の返事は1つ前の果音のそれより更にキレが良い。
声も大きくて通るし、スーッと頭の中に入ってくる感じ。
「アナタこの姉妹の中で一番真面目っぽい。そうよね?」
「わ…私ですか?」
最後急に私の方を向いたから驚いてしまった。
「えっと、はい。咲花がこの中では一番真面目だと思います。」
この中で一番真面目なのは咲花。それは私から見ても疑いようがない。
というか、果音と咲花が真面目だから私含め他が好き勝手できてるところあるし。
「文字を見れば人柄がわかるなんて嘘だと思ってたけど、アナタだけは違うわね。真面目そうな人柄が文字からもわかっちゃう。」
「あ、いえ…そんなことは…。」
咲花は謙遜してるけど、私は一理あると思う。
咲花の文字、確かに凄く綺麗なんだよね。見やすいし大きさも丁度良い。
「アタシ、アナタにレジとか任せちゃいたい。…できる、わよね?」
「は…はい!頑張ります!」
いきなりお金の絡むレジ。これも大役だ。
咲花の答える声も緊張で震えている。
「デキる教育係チャンがいるからそう緊張しなくて大丈夫よン。ま、今日はいないんだけどネ。」
どうやたあの彼以外にも先輩がいるらしい。
こじんまりしたお店だからそんなに人数は要らなさそうなのに。
っていうか、どうして私たち7人も雇うんだろう。絶対必要ないのに。
◆◆◆
それから珠希、凪乃、春佳、真子も無事に面接を通り合格した。
今日は解散という運びとなり、行きよろしく7人仲良く帰路を歩いている。
「あ、出た。」
「へ?何が?」
スマホを弄っていた凪乃が何か見つけたようだ。
凪乃は反応した私にその画面を見せてくれた。
その画面に映っていたのはあの店長、薔薇崎さん。
スーツを着ているとまた印象が違う。
化粧が無いからかもしれないけど。
「どこかで聞いた名前だと思ってたんだけどね。あの人、【豪徳寺】の特別役員の1人だよ。ただ、あのカフェはその商売の一環には見えないけど。」
「へえ、じゃあ彼も知ってたりして。」
「【豪徳寺】の役員って物凄い立場ある人なんじゃ…。」
珠希、真子が寄せられた情報に思い思いの反応を見せる。
そんな立場ある人にはとても見えなかったし。ましてや豪徳寺君の知り合いの1人があの人だなんて正直考えたくないような…。




