【95話】七つ子アルバイト面接(1)
◇愛依◇
土曜日の昼下がり、7人で金閣町の中央商店街を歩く。
引っ越してもう2ヶ月だけど、相変わらず私たちは目立つみたい。
周囲の人は皆珍しいものを見た顔。まあ実際そうだし仕方ないけど。
私たちだって私たち以外の七つ子を知らない。この視線にも慣れっこ。
「地図だとー…、この裏の通りかしら。」
先頭の咲花が地図を見ながら進むから迷う心配もない。
いや、もしバイトすることになったら私も道を覚えなきゃいけないんだけど…。
「あ…。」
少し進んだ時、それを見た果音が反応した。
「あー…。」
次に声が出たのは私。果音の反応に納得してしまった。
理由は簡単。その目的地が比類なき存在感を放ってそこに在ったから。
ピンク。ピンク。ピンク。何から何までピンク。ピンク一色。ピンク尽くめ。
一切町に溶け込んでいない。違和感しかない。まるでそこだけ異次元みたいに。
周囲を歩く人もチラチラそっちを見てる。避けて歩いている人さえいる。
写真で見た時から覚悟はしていたけど、直で見るとやっぱり強烈。
ハートのモチーフがそこかしこにあしらわれている。花も飾ってある。
だから可愛い系で押したいんだろうけど、ゴリ押ししすぎで気味が悪い。
グラデーションもないピンクで塗り潰されているから台無しにすら感じる。
この中に写真で見たあの店主がいる。
ゴクリと唾を飲み込むとそれが喉の中を伝うのがハッキリわかった。
咲花は平常心を装って入るけどかなり緊張しているみたい。
珠希は相変わらず。その神経の図太さが今は羨ましく思える。
凪乃も予想通り顔色一つ変えていない。その冷静さはどこから来るのか。
「なあ、本当に行くのか?アタシなんか怖くなって来たんだけど!?」
春佳は逆に珍しくビビってる。てっきり物怖じなんてしないかと思ってたのに。
「仕方ないでしょう!?7人全員面接受けることになっちゃったんだから!!」
真子の荒げる声も今日は震えている。真子は最初から嫌そうにしてたもんね。
でもそんな真子の言う通り、私たちはもう引き返せない。
何せ今から私たちはここでバイトの面接を受けるんだから。
目の前に聳え立つ桃色の伏魔殿、この【Eden Kitchen】で。
「あ…長女から行きなさいよ…!」
「わ、ズルいこんな時だけ長女扱いして!」
でも果音がこんな弱腰になるのも珍しい。果音も怖いんだ。
…やっぱこういう時って長女の役目…だよねえ…。
深呼吸して気持ちを整える。
「じゃあ良い?皆、行くよ。」
全員が頷くのを確認して私はドアノブに手をかけ、その扉を開いた。
「キャーッ!遂に来たわねェ~!!待ってたわよォーん!!」
私は、私たちは、挨拶も忘れる程に圧倒されてしまった。
目を合わせた途端に野太い声で腰を激しくシェイクする大男。
彼(?)のルックスのインパクトに。或いはキャラクターの濃さに。
「店長、引いてるっす引いてるっす。」
裏から出て来た若くて頼りなさそうな青年が大男に声をかける。
隣の咲花は安堵を覚えて胸を撫で下ろしていた。
少なくとも彼なら話が通じそうだからかな。
改めて見ても一目で肝を冷やされるような風貌だ。
筋骨隆々とした大きな身体、威圧感のあるスキンヘッド。
更にこの距離ならハッキリとわかるチークとリップの薄紅。
極めつけは店の外装よろしくピンク一色のフリル付きエプロン。
逞しさを補強する要素とピンク要素。
全く別の、ともすれば相反さえする要素が組み合わさって混沌を成す。
未知とは恐怖だ。今の私たちはまるで蛇に睨まれたカエルみたい。
でも怖気づいたらダメ。私たちはバイトの面接を受けに来たんだから。
「わ…私たち、バイトの面接を受けに来たんですけど…!」
意を決して出した声は震えていたし少々上ずってしまった。
タダでさえ候補が少ないバイト先。ここで落とされたくはない。
「わかってるわよン。七つ子ちゃんでしょ?ほらほら、適当にソファにでも座ってお菓子つまんでて。アタシ書類取って来るから。」
そう言って店主らしき大男は店の端の階段を上がっていく。
「あ、えっと…そのお菓子置いてあるテーブルの辺りで寛いでてください。紅茶とコーヒーどっちが良いっすか?それ以外は…ジュースも一通りあるっすけど。」
先程の彼に案内されるまま私たちは並んでソファに座る。
面接ってこういう感じ…じゃないよね?呆気に取られっぱなし。
珠希、春佳が早速無遠慮にお菓子を開け、食べ始める。
春佳はお菓子を前に緊張がどっか行っちゃったみたい。
取り敢えず履歴書をカバンから出す。昨日全員で協力しながら書き上げた物。
姉妹全員分とはいえ、当たり前だけど7枚全部内容に大差はない。
自慢できるようなこともないし、面接一発勝負なところはある。
…書類で落とされさえしなければ。
「すみませんねえ、さっきは驚かせて。悪い人じゃないんすよ。変人ですけど。」
笑いながら頭を下げる彼。変人なのは言われなくてもわかる。
あの店主さん、きっと四六時中あんな感じの人なんだろうな。
上からドンガラガッシャーンと凄い音がした。
「あれはもうちょっとかかるかな…。いや、本当すみません。」
上を見て呟いてから再度謝る彼。どうやらこれも日常茶飯事っぽい。
バイトには受かりたいけど、受かっても前途多難な予感。




