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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ(打ち切り)  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅱ】
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【94話】七つ子アルバイト談義

◇◇◇


無事に子猫の名前が決まり、弥彦(やひこ)はそれを聞き届けて自分の家に戻っていった。

次いで(らん)若葉(わかば)も家事の続きをするからと彼を追うように豪徳寺(ごうとくじ)家に行く。


そんな訳で、夢原(ゆめはら)家のリビングには七つ子だけが残されていた。

「それじゃあ良い機会だし、アルバイトについても話し合っておきましょうか。」


口火を切ったのは三女、咲花(さきか)

突然切り出された言葉に愛依(あい)珠希(たまき)春佳(はるか)真子(まこ)は顔を見合わせた。

それに対して果音(かのん)凪乃(なぎの)の2人は予想通りとでも言わんばかりに平然としている。


「いやいや、アルバイトって急に何の話?」

困惑する愛依に答えるのは隣に座る果音。


「聞いての通り、そのまんまアルバイトをしようって話よ。元々そういう話は私と咲花でしていたのだけど、ヤマトが来たから猶更バイトをしないと仕送りだけじゃ限界でしょう?それに今日のケージや病院代だって豪徳寺君に返さなきゃいけないし。」


果音は目線を珠希に向け続ける。

「それに()()()()()()()()はその豪徳寺君に借金の返済もあるし、とても新作水着どころじゃないわよねえ?」


「ぎくっ。」

珠希の額を冷や汗が伝う。


「今日日中々聞かないわよその効果音。」

真子は珠希に冷静にツッコんだ後で溜息をついた。


「アルバイトってのは当然の帰結だと思うんだけど、そもそも私たち今までそんなことしたことない訳じゃん?不安要素しかないけど、何か考えてあるの?」


アルバイト、と一口に言っても選択肢は色々ある。

とはいえ未経験の女子高生なりたて、となれば自ずと候補は絞られるだろう。

その中から自らの身の丈にあった物を探すとなると労力は一筋縄ではいかない。


「っていうか別に水着は私だけの問題じゃないでしょう?皆も欲しいわよね?特に愛依なんかは豪徳寺君にアピらなきゃいけないだろうし。」

「ちょ!なんで私が豪徳寺君にアピールするのよ!?」

話を突然振られた愛依は焦る。

尤も公然の秘密と化したそれに反応する姉妹は今更いない。


愛依の反応を無視して珠希は続ける。

「バイトは放課後と土日って感じになるのかしら。無駄遣いしないならそれこそ何をやっても水着代くらいにはなりそうな感じがするけど。でも疲れるのは嫌よ。」


「そんな我儘ばっかりじゃいつまで経っても決まらないわよ。安心して。とびきり疲れるようなハードなやつ、そもそも私たちには最初から無理だから。」


咲花はそう言うと2枚のメモ用紙を取り出す。

片方は白紙。もう片方には咲花の筆跡で諸々が書き込まれていた。

果音との話し合いで浮上したであろう幾つかの疑問や課題である。


それは現状およそ思い浮かぶ全てを事細かに網羅してある代物だった。

選ぶべき業種について。望ましい時間について。給料の目安について。


「うわ、細か~。…で、やっぱり狙い目としては接客業になってくるんだ。」

資料を覗き込む愛依はサッと一通り目を通し、要約する。

「アタシそういうの向いてねーと思うんだけどなぁ…。」

春佳は自分の気質と照らし合わせて弱腰になる。


「そう悲観することもないんじゃないかな。」

ここで凪乃がようやく口を挟んだ。


「明るい性格って先輩や常連さんから好感持たれやすい長所だと思うし、ひとまず愛想良く頑張って、不器用な所はゆっくり慣れて適応していけば大丈夫だと思う。それこそ誰かが一緒に働けばフォローも利く訳だし。」


「…ところで凪乃はさっきから何見てるの?」

凪乃はこういう場では言うべきことがなければ大人しい。

だが今日はそれ以外にもう1つ理由があった。スマホを見ていたことだ。


凪乃は咲花に答える。

「調べてたんだよ。周辺でバイトを募集してて良い感じの所。でも募集してる母数がそもそも少ないっぽいんだよね。果音ちゃんや咲花ちゃんの条件にも合うものをいくつか見つけはしたけど…。」


そう言って凪乃は全員に見えるようにスマホを机上に置いた。

開かれているのはコマーシャルでもよく見る有名なアルバイト検索アプリだ。

そしてそれを見た凪乃以外の6人全員が凪乃の言葉の意味を受け止め理解する。


検索ヒット数、3件


「ちなみにこの3件、どれも相当な訳アリっぽい。」

「そこまで下調べできてるんだ。それにしても先行きが怪しくなったわね…。」

凪乃の補足情報に果音は思わず頭を抱える。


「1件目、この店は個人経営の飲食店。中華が専門。ただ店内が埃っぽくて不衛生な上に店主さんが相当な曲者みたい。ネットの評価も最悪。SNSで元バイトの子が呟いてたけど、どうも店主さんと折り合い付かなくて辞める人が後を絶たないからいつもバイトを募集してるんだって。」


「そこまで聞いちゃうと応募する気にもならないなあ…。」

咲花ももたらされた情報には苦笑いを浮かべるしかなかった。

「しかもこれで給料が平均以下じゃ話にならないわね。次よ、次。」


珠希に急かされるまま凪乃は2件目の情報を開く。

「2件目はお給料は高いし口コミも悪くないんだけど…。」


「あ、もう嫌な予感する。」

凪乃の言葉尻の不穏に真子が反応した。


「向かいが【狗虎會(いぬとらかい)】の幹部の屋敷。隣の建物も事務所っぽい。」

「はい却下。最悪の立地じゃないの。誰が来るかわかったもんじゃないわ。」

「だよねー。」

凪乃は拒絶反応されるのも予想に入れた上で提案したようだ。


「最後、3件目。個人的に選ぶとしたらここかな。」


「…えっと、訳アリなのは確定してるのよね?」

「この流れで期待しろって方が無理なんだけど。」

「鬼が出るか蛇が出るか。もう何が出てきてもダメそう。」

果音、珠希、真子はそれぞれ渋い表情をする。当然の反応である。


「最近できた店らしくてね。さっきと同じく給料も高いし口コミは寧ろこっちの方が良いくらい。立地も商店街だから近いね。他に細かい情報は出てないかな。」


「あれ?訳アリなんじゃないの?」

「そう、正にそれなんだけど…。」

咲花の質問に凪乃は1枚の画像を表示した。


「うわー…。」

愛依は言葉を失った。

「これはこれで壮絶ね…。」

果音も訳アリの理由を瞬時に理解した。


「確かにマシと言われればそうかもしれないけど、これは…。」

咲花はその1枚の画像から受け取れる情報を拒絶したかった。

「他に良い候補が無いんだったら仕方ないんじゃない?」

対して珠希は他の姉妹より良さげな反応をしていた。


「まあその3択でどれ選べって話ならこれだよなー…。」

春佳も渋々ではあるが無理やり納得したようだ。


1枚の画像。それは店の外観を撮影した写真である。

そこにあったのは周囲の風景からは明らかに浮きまくった、何もかもピンク一色の奇天烈極まる1軒のカフェ。


そして写真の中央ではガタイの良いスキンヘッドの男が満面の笑みで腰をくねらせながらピースサインをしていた。

ピンクのエプロンに店のロゴが入っている辺り、この男が店主らしい。

何やら化粧をしているのも見る者の内心をざわつかせる。


「オカマが出たか…。」

真子は内心、まだ鬼か蛇の方がマシだと思った。

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