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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅱ】
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【91話】春佳妊娠騒動

弥彦(やひこ)


月曜日。一週間の始まり。

愛依(あい)たちが教室に入って来た朝、俺はふと気づいた。


「なあ、春佳(はるか)はどうしたんだ?」


7人いるから七姉妹。しかしどういう訳か今日は春佳の姿がない。

昨日は珠希の件で家に行ったからその際に顔を合わせているし会話もしている。

その時は普段と変わらず元気そうだったが、夜中に腹でも冷やしたのだろうか。


俺の質問に愛依は溜息をつきながら答える。

「わかんない。何か見つけたみたいで急に走ってどっか行っちゃって。」

更に果音(かのん)が付け加えて。

「間に合うようにいくからって叫んで行ったから来るとは思うんだけど。」


「あはは、春佳ちゃんおもろいなあ。」

「アイツ本当に自由奔放だよなー。」

畳ヶ原(たたみがはら)飛籐(とびとう)もそれを聞いて笑う。

この時はまだ和やかな空気が流れていた。この時までは。


「すみませーん、遅れましたぁー…。」

肝心の春佳が現れたのは1時限目の授業が始まった直後。

果音が言っていた言葉を現実にすることは叶わず、普通に遅刻。


「……は?」

その春佳を見て思わず声が出た。

俺と同じくクラスの誰もが困惑していた。

特に女子の多くは動揺したり言葉を失っていた。


春佳のお腹が大きく膨らんでいたのである。


そして何故かクラス中の視線が今度は俺に向く。

それも今度は敵意と嫌悪感を剥き出しにして。


「うわ、サイテー。」

「春佳ちゃん可哀想。」

「マジ有り得なくない?」

その言葉が俺に聞こえることを気にかけもしない。

何ならわざと聞こえるように言っているようにも取れる。


「えーっと、どうしよ……。」

春佳当人も剣呑な雰囲気に困惑していた。

立ち尽くし、辺りをキョロキョロと見回すばかりだ。


「えーっと、春佳さんと豪徳寺君は後で職員室に……」

授業をしていた先生もそんなことを言い出す始末だ。

教室中の俺に向く視線から架空のろくでなしが俺だと察したか。


流石に反論しようと思ったが、そこで凪乃(なぎの)が立ち上がった。

「ちょっと待ってください。多分、妊娠じゃないと思います。」

更に咲花(さきか)が凪乃の行動に追従するように言う。

「先週は何もなかったのにいきなりこんなに大きくなるのはおかしいでしょ。」


咲花の言う通りである。冷静になってほしい。

確かにパッと見では妊娠しているようにしか見えないが。


「春佳ちゃん、理由は話せるの?」

「えーっと、それなんだけどさ……。」

凪乃の問いに春佳は目を泳がせる。


「じゃあ私にだけ耳打ちで。」

凪乃が耳を春佳の口に近づけると春佳は彼女の言う通り耳打ちし始めた。

春佳のお腹の中に一体何が入っているというのか。深刻でなければ良いのだが。


春佳の耳打ちはそれなりに長かった。

授業は中断状態だが先生は穏やかな人だからか何も言わなかった。

春佳の言葉を聞いている最中、凪乃はその表情を眉一つさえ動かさない。


「わかった。じゃあ、この問題は後で皆で話し合おうか。取り敢えず座って。」


ようやく春佳の話が終わったらしい。

凪乃に指示された通り、春佳は自分の席に座る。


そして凪乃はその場で先生に向かって言った。

「先生、春佳ちゃんのお腹は……食べすぎ、だそうです。」


余りにも堂々と言った。

長い耳打ちに対して結論が極めて単純で粗末。

誤魔化しているのは見え見えだが、それにしたってやりようはないだろうか。


「いや絶対に嘘じゃん。」

そう言って呆れ返っているのは愛依。

真子(まこ)に至っては机をバンバン叩いてゲラゲラ笑っている。

春佳もそんな誤魔化し方をされると思っていなかったのだろう。目を見開いて驚愕の表情で凪乃を見ている。


しかし凪乃や春佳をそれ以上に追及する者は無く、この場は丸く収まった。


その後も春佳のお腹に注目は集まりつつも時間は着実に過ぎていく。

まさか凪乃が食べすぎの一点張りで通すとは思わなかったが。

次第に春佳もそれに乗っかって奇妙な演技をし始めた。

昼前の授業でそれをやっても説得力がないとは思うが。


何とか誤魔化しきって午後の授業も着実に終わっていく。

今日体育がないのは春佳に取って不幸中の幸いだっただろう。


もうこの頃になると先生以外は皆すっかり慣れていた。

明日は流石に春佳のお腹もこのままではないだろうと思うが、もしかしたらそれに違和感を覚えてしまうレベルかもしれない。


そしてようやく放課後が訪れた。

こういう時はやけに時間が長く感じるものだ。

心のどこかで春佳の事が気になりずっと緊張し続けていた。


「なあ皆……豪徳寺もさ、ちょっと裏まで来てくれないか?」

春佳にそう声をかけられたのは校舎を出ようとする正にその時であった。

次回投稿は11月23日(祝)です。

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