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豪徳寺弥彦と15人のフィアンセ  作者: 水野葬席
【第一章・Ⅱ】
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【89話】弥彦と珠希の帰路

弥彦(やひこ)


金閣(きんかく)町に戻る頃には珠希(たまき)も落ち着きを取り戻していた。

一切の会話が無いことを除けば行きと同じだ。


「今日は、…その、ごめんね?」

駅を出る時、長い沈黙を破った珠希の第一声は謝罪。


「俺、何も謝られるようなことはされてないと思うが。」

寧ろ逆。今この場で何かを謝罪するとしたら俺の方だ。


珠希がAIRU(アイル)を応援しに『イグニッション』まで足を運んだことは自明だった。

俺は一緒に行く機会を貰っただけに過ぎない。他に目的があった訳ではない。

故に俺はAIRUを応援すべきだった。きっと珠希はそれを期待していた。


そこまでわかっていたにも関わらず俺が心を寄せてしまったのは凶谷(きょうごく)マユもとい【TAKE OFF(テイクオフ) GIRLS(ガールズ)】。


AIRUが2位と発表された時、ショックから放心状態になった珠希にちゃんと心から寄り添ってやることができなかった。

慰めの言葉すらかけてやることができなかった。


俺の言葉に珠希は返す。

「気を遣わせちゃったじゃない。【TAKE OFF GIRLS】なんでしょ、推しは。」


見抜かれていたか。或いは隠せていなかったか。

だが彼女のその謝罪こそ気を遣わせている気がしてならない。

それも合わせて重ね重ね情けない気持ちで胸が詰まりそうだ。


「あの時、きっと私やAIRUが気になっちゃったから素直に喜べなかったのよね。」


まるで俺の心を直接読まれているかのようだ。だが全てではない。

「…もしAIRUも心のどこかで応援していただなんて言ったら、信じるか?」

自分で口にしておいてなんだが、やはり半端者で浮気者だと我ながら思う。


しかしそれを聞いた珠希はどういう訳かそれを聞いて笑った。

ようやく笑ってくれたことに安堵しつつも、その理由はわからない。

「あら?そうだったの?だったらワンツーフィニッシュだなんてこれ以上ない結果だと思うけど?」


「半端者だろ。ああいう場じゃ。」

俺の返答に珠希は更にケラケラと笑う。

「うっわカタすぎ。別にエンタメなんだから推しが2組いたって良いじゃない。」


珠希は続ける。

「別に私たち審査員じゃないんだし、好きにやったら良いのよ。それこそ全部好きでも良いんじゃないの?それってハンバーグも餃子もピザもお好み焼きも全部好きっていうのと何も変わらないでしょう?」


「…そういうもんかな?」

「ええ、私はAIRU一途だったけどね。」

何だか心が軽くなった気がする。珠希のおかげだな。


「じゃあ私が言うべき言葉は…ありがとう、かしら?」

「感謝されるようなことも何もしてないだろ。」

俺の言葉に珠希は首を横に振る。


「ううん。だってAIRUの本当の姿を見て好きになってくれたんでしょう?それだけだって十分よ。それに推しが1位の座に輝いたっていうのに私や負けたAIRUの事を想ってくれたし。優しい、だなんて今更だけど。嬉しいわ。ありがとう。」


「…俺の方こそ、今日はありがとうな。」

「?」


「俺が今日AIRUや【TAKE OFF GIRLS】や、色んなアイドルのパフォーマンスを直にこの目で見れたのは間違いなく珠希のおかげさ。チケットを貰わなけりゃ玄楼島(げんろうじま)がアイドルやってることなんてもしかしたら一生知らないままだったかも。だからこそ、今日あの輝きに触れられて良かった。直接見るアイドルって凄いんだって、一生忘れられない体験ができたよ。」


「ふふ、どういたしまして。」

すっかり珠希の表情も行きと同じ笑みになった。

俺の心も晴れ、何だか足取りまで軽くなった気がする。

商店街の出口が視界の中央で存在感を増し始める。我が家は近い。


◆◆◆


「玄楼島ってアイドルやってること、何で学校で公表しないんだ?」

金閣学園の前を横切ろうかというその時、ふと気になった。


「ああ…。あの子、昔は子役で冠番組持ってたの。結構人気だったのよ?でもそれが本人には苦い思い出らしくって。それでイジられるのが怖いんじゃないかしら?アイドルとして大成すればそんなことも気にならなくなるとは思うんだけど。」


答える珠希の表情を見て深堀はしない方が良さそうだと察する。

今日の感想を本人に伝えるにしてもやり方は気を付けなきゃな。

しかしそういう事情を抱えているならば猶更、今回『イグニッション』で敗退してメジャーデビューが遠のく形になったのは彼女には辛いことだろう。


「今日負けたのは、…さぞかし堪えただろうな。」


「それはそうよね。ま、あの子はきっと自分で立ち上がるわよ。強いもの。」

珠希はまるで心配していないかのように軽く答える。

さっき俺の隣で目を白黒させていたのが嘘のようだ。


「そう簡単に諦める精神(タマ)じゃないわよ、あの子は。少なくとも()()()に関しては超が付く程の負けず嫌いなんだから。だから私は推してるのよ。」


珠希はAIRUの復活に関して一切疑いを持っていないようだった。

1人の友人として彼女を信頼している。俺にはそう見える。


ようやく我が家が見えて来たと思いきや、同時に人影が見えた。

暗くなり顔は判別できないが、そのシルエットは特徴的だ。

七つ子の中では唯一のツインテールにしているその人影。


「…果音(かのん)か?」

「何か嫌な予感がするんだけど。」

珠希はどうやら彼女に怒られる心当たりがあるらしい。

それにしたって、何も態々こんな時間に家の前に立って待ってなくても良いと思うが…。

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