【87話】敗北者たちへ
長くなりすぎる予感がしたので分けました。
その都合で少し短い話になっています。
◇弥彦◇
「2位!エントリーナンバー1番、AIRU!おめでとうございます!」
名を呼ばれた彼女はスポットライトと観客の視線を集めたその瞬間、蒼白な表情で膝から崩れ落ちた。
俺は連られたかのように同じ表情で崩れ落ちる珠希を隣から肩を入れて支えるので精いっぱいだった。
「え…?え…?」
「おい大丈夫か?立てそうにないか?」
俺の言葉はどうやら珠希には届いていなさそうだ。
彼女は額に脂汗を滲ませながら目を白黒させるばかり。
心配してくれた周囲の人々にお礼を返しながら何とか珠希を座らせる。
ようやくステージを見る頃には、AIRUも何とか自力で立ち上がれていたらしい。
AIRUは先程の【白味噌オールスターズ】と同じようにメダルを受け取り観客に頭を下げる。
その動作は【白味噌オールスターズ】のそれよりも更に輪をかけてぎこちない。
一番手にステージを沸かせたあのアイドルと同一人物にはとても見えない。
珠希は座らせたこともあってか多少は落ち着いたようだ。
AIRUが何とか自力で持ち直したのを見たのもあるのかもしれない。
慰めの言葉をかけてやりたいと思えば思う程、そんなものは浮かばない。
そしてそれが浮かぶのを待っている余裕もない。時間は刻一刻と進んでいく。
「さて、アクシデントはありましたが収まったようなので気を取り直しまして…。第1位!エントリーナンバー20番!【TAKE OFF GIRLS】!」
その名が呼ばれた時、辺りにまたも歓声と拍手が満ちる。
彼女たちがパフォーマンスを終えた時と同じ、正しく万雷と呼ぶに相応しい物が。
そして俺は取り残されていた。
どういう訳だか、願っていた結果のハズなのに喜ぶ気になれない。
めでたいことで、紛れもなく祝福すべきことではあるハズなのに。
隣の珠希を案じているからだろうか。
それともAIRUのことが引っかかるからだろうか。
わからない。わからないが、胸の中がざわついて仕方がない。
ステージ上では見事1位に輝いた【TAKE OFF GIRLS】の面々が年齢相応の喜びを銘々に表しながら金メダルを受け取っていた。
「最後に俺から言いたいことあンだけど、良いかな?時間ある?」
マイクを持ったのはとぅんくΩ。司会は快諾する。
とぅんくΩは1つ咳ばらいをして話し始めた。
「えー…、アイドルの皆さん、お疲れ様でした。最初はAIRUさんから始まり最後【TAKE OFF GIRLS】まで、今までの予選とは比較にならないくらいレベルの高い戦いが行われていたように感じます。お見事でした。ンで【TAKE OFF GIRLS】、あなた方とは8月末の本戦でも会う訳ですが、そン時は今回以上のステージを期待してるンで、よろしく。それと…。」
とぅんくΩの視線の先が明確にAIRUを向いた。
それから周囲の【白味噌オールスターズ】含めた敗北者たちを一瞥する。
「今回優勝できなかった皆さん、どうかこれで腐らず来年も『イグニッション』に来て欲しい。高みを目指して欲しいです。こんなステージで負けたくらいで辞めンようなヤツは最初から向いてません、アイドル。でも皆さんはそうじゃない、俺はそう信じています。以上。」
誰が説明するまでもなく多くのアイドルたちに携わってきた男の言葉。
アイドルと共に時代を作り、そしてその最先端を走り続ける男の言葉。
誰よりもアイドルを愛している男の言葉。
それはアイドルという険しい道を選んだ少女たちへの優しいエールだった。
とぅんくΩの言葉に何人かのアイドルが涙を流し始める。
更に、そのエールを後押しするように観客席からは今日一番の拍手が贈られる。
隣の珠希も拍手していた。俺も拍手せずにはいられなかった。
AIRUや【TAKE OFF GIRLS】を始めとしたアイドル達の健闘を称えたくて。
そして本戦に臨む【TAKE OFF GIRLS】へ更なる期待を込めて。
AIRUが近い未来にアイドルとして大成しますようにと願って。
会場いっぱいに溢れんばかりの拍手に包まれながら、『イグニッション東京予選・スペシャルブロック』はこうして幕を閉じた。




